1980年代にカプセルトイブームが始まって以降、子どもだけでなく大人のファンも引き付け、現在は第4次ブームの到来とも言われ、盛り上がりを見せているカプセルトイ市場。株式会社奇譚クラブは、コップにひっかける「コップのフチ子」や、おにぎり型ケースに具材付きの指輪が入った「おにぎりん具」など、数々のヒット商品を生み出しているカプセルトイメーカーだ。
楽しさを追求する姿勢や社内の様子、商品づくりで大切にしているポイントなどについて、代表取締役の古屋大貴氏にうかがった。
好きなことを仕事にするためカプセルトイの世界へ
ーー古屋社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
古屋大貴:
公務員になるために専門学校に通ったのですが、先輩から公務員は向いていないと言われてしまいました。そこで一般職を探し、建材メーカーで営業の仕事に就いたのですが、次第に「好きなことを仕事にしたい」という気持ちが芽生え、転職を考えるようになりました。
ーーそれから今の原点となるカプセルトイメーカーに入社した経緯を教えてください。
古屋大貴:
その頃ちょうどカプセルトイの収集にはまっていました。子どもの頃はお金がなくてただ眺めるだけだったので、当時できなかったことを思い切りしたいという気持ちがあったのでしょうね。
そんなときにカプセルトイメーカーの求人広告を見つけたのです。しかし、募集要項には「23歳以上の大卒」と書かれており、19歳の専門学校卒の私は条件を満たしていませんでした。それでも一縷(いちる)の望みを込めて連絡してみたところ、採用試験を受けさせてもらえました。
100人ほどの応募者が集まる中、専門学校で勉強に励んだことが功を奏し、筆記試験で上位の成績をとることができて、営業として採用されました。
ーー入社後はどのような仕事に携わっていたのですか。
古屋大貴:
営業として入社したのですが、商品企画にも挑戦してみたいと思うようになりました。そこで企画部の部長に相談したところ、企画に参加させてもらえることになりました。すると私が提案した商品がヒットし、その功績が買われて、営業部から新規開拓を行う部署に移ることになりました。
会社から5億円の売上をつくるように言われ、コンビニエンスストアの運営会社に交渉に行くことになりました。
そこで「店頭にマシンは設置できないので、紙の箱で売る方法を考えてください」と言われて思い浮かんだのが「ガチャボックス」です。中身が見えないよう色付きのカプセルに商品を封入し、手売りで販売する方法です。これが大ヒットし、目標を大きく上回る10億円を達成しました。
迷ったときの判断基準は「どちらの方が楽しいか」
ーーその後、独立したきっかけは何だったのですか。
古屋大貴:
上場に向けて社員は25人ほどから100人ほどになり、会社の規模も大きくなっていきました。そのため、企画を通す際は稟議書を作成して会議を開き、上層部の許可を得なければならず、仕事が画一化されていきました。じっと座って同じ仕事をするのが性に合わなかった私は起業を決意しました。
ーー起業時の状況を教えてください。
古屋大貴:
最初は起業をバックアップしてくださった方のために、とにかく事業を成立させ、利益を出すことに必死でしたね。それから2〜3年かけて経営の軸をつくり、ようやくカプセルトイの企画・発売に着手しました。
ちなみに今では当たり前の光景ですが、最初に商業施設の一角にカプセルトイ専用コーナーを設置したのは私たちなんですよ。こうした売り場づくりから変えていった結果が、商品のヒットにつながったのだと考えています。
また、起業時から大切にしてきた考えが、「迷ったら楽しい方を選ぶ」ことです。自分たちが楽しんでいないと良いものは生まれませんし、暗い顔をしている人の話は誰も聞きたくないですから。
ただ、仕事中はワイワイにぎやかな職場、というだけではなく、一人の担当者がひとつの商品をつくり上げるので、月1回の会議以外は黙々と自分の仕事に打ち込んでいますね。個人商店のようにすべての工程に関わるので、各々が主体性を持って動いています。
固定観念を覆す独自の発想力が強み
ーー貴社の強みについて教えてください。
古屋大貴:
私たちは売上が見込めるキャラクター商品で利益を確保しつつ、一方で、原価が高くなる精密でクオリティの高い商品もつくっています。そのため、採算度外視の商品をつくり続けるという、ある意味「狂った組織」でありながら、利益を出しているのが最大の強みです。
吉田松陰の言葉に「諸君狂いたまえ」とあるように、狂っているからこそ固定観念の向こう側に行けると思っています。会社としての利益は、社員たちの給料を払えるだけで十分です。これからもみなさんを驚かせたい、感動させたいという一心で、私たちにしかつくれない商品を生み出していきたいと思います。
ーー大手メーカーがシェアを占める中、なぜ利益を出せているのですか。
古屋大貴:
大手と比べるとアイテム数は4分の1程度ですが、その中で「コップのフチ子」シリーズなどヒット商品も生まれています。特にロジックはなく、「これはきっと売れるだろう」という感覚だけでものづくりをしています。これは消費者の興味を引く商品を次々と生み出してくれる社員たちのおかげですね。
なお、商品づくりに関しては、消費者のニーズをデータで集めて商品化するという方法は取っていません。今世の中で何が流行っているのか自分の目で見て、人々の興味を引くものは何かと考え、創造することを大切にしています。「こんな商品を作ってほしい」という提案をいただいても、自分たちでおもしろいと思わなければ商品化することはありません。
また、良い商品は勝手に光るものなので、マーケティングや販促活動などにはあまり力を入れない方針です。
“仕事は人生の暇つぶし”。日本発のカプセルトイを世界中の人へ
ーー今後の展望をお聞かせください。
古屋大貴:
アジア圏はカプセルトイ市場がほぼ確立しているので、今後はあまり普及が進んでいないアメリカにも進出したいと考えています。アメリカでカプセルトイが広まらないのは、硬貨の問題もあります。
アメリカで最も使われている硬貨が25セントなので、2ドルのカプセルトイは8枚も必要になるからです。そのため電子マネーを導入するなど、今も模索を続けています。
ーー最後に読者の方々へのメッセージをお願いします。
古屋大貴:
仕事は人生の暇つぶしで、お金はただの道具に過ぎず、本当に価値があるのは家族や友達、仲間との絆です。今の仕事に面白さを感じられないのであれば、辞めてもいいと思います。人生は1回きりなので、とにかく楽しく生きてください。
編集後記
商業施設の一角に専用コーナーを設置するなど、常識の枠を越え、新たな挑戦を続けてきた古屋社長。会社で得た利益は、食事や社員旅行で還元するなど、社員想いなところも印象的だった。独自の着眼点でユニークな商品を生み出す株式会社奇譚クラブは、今後も人々がびっくりするようなとんでもない発想で楽しませてくれそうだ。
古屋 大貴/1975年埼玉県生まれ。株式会社ユージン(現:株式会社タカラトミーアーツ)でカプセルトイの企画に携わる。2006年に株式会社奇譚クラブを設立。代表取締役に就任。