
「好きだから」といって事業を始めても、十分な知識や経験がなければ、どれほど情熱を注いでも成果は上がらない。好きだからこそ、楽しさだけではなく現実的な経営判断や計画性が求められる。東京六本木を拠点に、ワインの輸入・販売をはじめ、「ワインと食の総合ビジネス」を展開する株式会社ソムリエの代表取締役である守川敏氏も、起業当初は数々の困難に直面し、試行錯誤を繰り返した末に現在の成功をつかんだ。
情熱だけでは越えられない壁をいかにして乗り越え、事業を軌道に乗せたのか。今回は、守川氏がワイン事業を成功へ導くまでに経験した苦労と努力、その背後にある思いについてうかがった。
道楽で終わらせないためワイン事業を地道な試行錯誤で成長に導く
ーー株式会社ソムリエを設立したきっかけについてお聞かせください。
守川敏:
最初はナイトビジネスの店舗を運営していましたが、1996年に現在の会社の前身となる株式会社トゥエンティーワンコミュニティを設立し、不動産関連などの事業を手掛けていました。ところが、趣味のストリートバスケットで怪我をしてしまい、仕事を休んでいた時に、高級ワインの楽しみを知り、ソムリエの資格を取得するに至りました。
その後、ワインへの情熱が高じ、2004年からワイン事業を始めましたが、単なる“好き”だけでは成功できない厳しい事業領域であることを思い知らされました。価格や品質の低下のリスクを抑えるために、直輸入と直販に取り組み、大手ECサイトを通じて販売をスタートしましたが、当初は大失敗し、在庫を抱えて赤字続きというありさま。社内では、“社長の趣味の赤字事業”と揶揄されることもあったほどです。
このままでは担当スタッフ、取引先、そして顧客である消費者の誰一人として満足させることはできないと考え、「やり始めた以上は必ず成功させる」という強い決意が生まれました。試行錯誤を重ねた結果、事業は軌道に乗りましたが、若くして起業したことで、自分の知識不足と経験の浅さから数々の苦労を経験したことを覚えています。
ワインの仕入れに関しては、フランスのワインイベントに足を運び、生産者との交流を図ろうとしましたが、無名の会社だったため、大手の生産者からは門前払いでした。しかし、小規模な生産者は弊社に敬意を持って接してくださり、その結果、日本でまだ紹介されていない珍しいワインを扱うことができるようになったのです。
この取り組みにより弊社は、高品質でコスパの良い、掘り出し物のワインを扱う会社として認知度を高めることができました。その後、2023年に株式会社トゥエンティーワンコミュニティを分社化し、ワイン業務は新設された株式会社ソムリエが引き継いだ、という流れです。
試行錯誤をくり返してワインと食の総合空間を演出

ーー会社のトップとして心がけていることは何ですか?
守川敏:
組織のリーダーとして、社員に対して明確な指針を示すことは非常に重要だと考えています。会社の成長は私一人の力で成し遂げられるものではなく、共通の目的を持つ従業員がそれぞれの役割を果たすことで初めて可能になります。リーダーである私には、目標を明確にし、試行錯誤を重ねながら次のステップへ進む体制を築くことが求められます。失敗を恐れず前進し、失敗を次のステップへの糧とする根気強さが大切です。
会社は目標を達成するために成長と躍進を続けなければならず、安定や保守的な考えにとらわれていては衰退してしまうでしょう。そのため、従業員と面談し、希望や意見を聞いて適材適所に役割を再分配し、年齢や勤続年数にとらわれない抜擢を行うことで、組織改革を進めています。
ーー株式会社ソムリエの魅力は何でしょうか?
守川敏:
弊社のワイン事業では2,000アイテム以上の商品を取り扱っており、日本のワインインポーター(海外のワイナリーから輸入して販売する業者)として業界上位のラインナップを誇っています。価格帯や産地も多岐にわたるため、幅広いニーズに対応できる点が弊社の強みの一つです。
また、弊社は販売にも力を入れていますが、本社ビルではワインショップのほかにレストラン、パティスリー、ブランジェリーも運営しています。たとえば、レストランで食事をされたお客様がワインを購入して帰るといったように、ワインと食の総合空間によるシナジーで、より楽しんでいただけることも弊社の強みです。
従業員も、ワインだけでなく飲食事業における専門技術を現場で学べるので、将来的な独立のチャンスが広がることも、弊社に入社する魅力だと考えています。
将来の成長を見据えた地盤固めで株式上場を目指す

ーー将来のビジョンについてお話しください。
守川敏:
私一人の旗振りで会社を運営するのではなく、私よりも優秀で意識の高い人たちが会社の中心となって活躍できる組織体制に改革していきたいと考えています。BtoBマーケットへの販路拡大を目指し、法人営業ができる人材を積極的に採用していく方針です。
ワインの専門知識を身につけ、取引先を広げることができる人材に成長してほしい。そのために、インセンティブ制度や人生設計を実現するキャリア支援を明確に示しています。
卸売事業に関しては、全国的な販路拡大を構想中です。静岡県浜松市に在庫保管の拠点があるので、そこから全国に配送できる物流体制を構築し、BtoBマーケットへの販路拡大を目指していくつもりです。
また、社内規則の見直しも進めています。これまでは社内の上下関係やルールがゆるい風土でしたが、基本的な挨拶や接客時のマナーなど、社会人として最低限の礼儀を皆が順守できるルールを整備しました。私自身もコーチングの資格を取得し、会社の新しい風土をつくるための取り組みを行っています。
いずれは株式上場を目指し、地盤固めに注力する予定です。法人営業部の人員確保と戦力化をスピーディに進め、会社の成長が見えてきた段階で、次のフェーズに進みたいと考えています。
編集後記
趣味の延長と謙遜されながらも、地道な努力を重ね、ワイン事業を見事に成長軌道へ乗せた守川氏。その情熱は今も変わることなく、さらなる成長を目指して挑戦を続けている。人材育成や社内規則の整備といった足元の強化から、新たなビジネスモデルの開拓に至るまで、次々と課題に立ち向かう姿勢は見習うべき点が多い。共鳴する仲間を引き寄せ、力を結集すれば、守川氏が描くビジョンが現実のものとなる日は決して遠くないだろう。

守川敏/1968年、山口県生まれ。1996年に株式会社トゥエンティーワンコミュニティ設立。2004年、ワイン事業を開始する。世界各国から厳選したワインを直輸入して、2009年、ワインEC事業を開始。2010年、実店舗オープンを皮切りに、レストラン・ブランジェリー・パティスリーを次々とオープン。2023年、トゥエンティーワンコミュニティを分社化し、株式会社ソムリエを新設。