※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

日本国内にある工場では、人手不足が深刻化している。そんな中、「共に、夢ある未来を創る」を経営理念とし、通信技術を軸に産業のIT化支援を行っているのが、アイ・ビー・エス・ジャパン株式会社だ。

父親から会社を引き継いだ経緯や、同社のビジョンである「私たちのくらしを支える産業分野のIT化を支援する」に込めた思いなどについて、代表取締役社長の望月綾子氏に話をうかがった。

父親の意向でアメリカに家族を残したまま、経営者になるため帰国

ーーまずは望月社長の経歴をお聞かせください。

望月綾子:
私が大学生のときに父が会社の役員を退任することになり、そこから父と母が一念発起して起業したのが、アイ・ビー・エス・ジャパンです。

その後、日本特有の価値観が自分に合わないと感じていた私は、大学卒業後はアメリカの大学院に進みます。それから就労ビザを取得し、現地にある半導体装置メーカーに就職しました。

そんなときに父から「10年経って自分一人で英語と日本語で社内外支援するのは大変になってきた。うちで働かないか」と声をかけられました。そしてアメリカにグループ会社を設立し、15年以上製品の調達や技術サポートに携わりました。

ーーそれから社長就任までの経緯を教えていただけますか。

望月綾子:
日本の社員やお客様とはほとんど接点のないまま仕事をしていたのですが、突然父から本社の社長就任の打診がありました。しかし、アメリカでの生活がありますし、病気を患ったことを機に家族と過ごす時間を大切にしたいと思い、一度は断りました。

すると父から「お前が継がないなら会社を畳む」と言われてしまいます。まずは1年間アメリカと日本を行き来しながらやってみて1年後に結論をだそうと、その間少しずつ会社の内部やお客様のこと、製品のことを理解していきました。1年後、なんとかやれるかもしれないと思い、社長就任を決意しました。

社内改革を行うなかで気付いた組織の指針づくり

ーー実際に経営者になってからはいかがでしたか。

望月綾子:
すべてに責任を持つトップダウン型の父と、社員がそれぞれの責任を持つ自律分散型組織を目指す私は、経営方針の違いでよく対立しましたね。父は技術力もあり経験も知見も広くありましたから、例えば社内営業会議では社員からの営業報告を聞いた後、自分の言った戦略で進めるようにと伝え、社員はその方針に従って動いていました。

私には日本での社会人経験や広い知見、技術力がありません。父のように社員を指導する力もありません。私にできるのは、社員が自身の知識を使い総合力で結果を出す組織をつくることです。きちんと成果を出した人を正しく評価することのできる評価制度をつくりたいと考えました。また、出張規程など、社内になかったルールを整備していきました。

就任から5年かけてさまざまな施策を行ったものの、社員から「社長には軸がない」と指摘されてしまいました。最初は何を言われているのかわかりませんでした。「こんなに一生懸命やっているのに、何が悪いの?」と。ですが、「もしかしたら私自身のあり方に問題があるのかもしれない」とうすうす気づいてはいたのです。

そこで知人の勧めで東京中小企業家同友会の門をたたきました。ここで初めて「会社には目指す方向や大義名分が必要なのだ」と気づきます。

こうしてできたのが「共に、夢ある未来を創る」という経営理念と、「私たちのくらしを支える産業分野のIT化を支援する」という10年ビジョンです。このビジョンを社員と共に実現していきたいと思い、社員と共有した結果、少しずつですが社員たちが自主的に動く組織になっていきました。

ーー10年ビジョンに込めた思いをお聞かせください。

望月綾子:
コロナがきっかけではありますが、弊社もIT化が進んだことにより、自宅にいながら仕事ができるようになるなど、私たちのくらしは劇的に変化しました。実際に社員も「家で仕事をするようになり、子どもが学童から帰ってきたときに『おかえり』と言えるようになった」と喜んでいました。

何かを犠牲にして得る悦びではなく、仕事も家庭も両方得られている幸せを聞き、嬉し涙が出ました。「ITはこんなにも人々が望む生活を提供できるパワーがあるんだ」と。産業機器を扱っている私たちも、このように工場などの現場に変革をもたらすお手伝いをしていきたいと思っています。

ニッチな市場だからこそ製品知識と技術力が強み

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

望月綾子:
弊社は主に台湾や欧米から産業用データ通信製品を輸入し、企業に販売する輸入機器専門商社です。産業用ネットワーク通信機器に特化しているため、市場としてはとてもニッチです。しかし、小さな市場だからこそ製品知識が豊富にあり、お客様のニーズを深く知る力と高い技術力が活きてきます。

また、チラシ作成やイベント企画、WEB制作など、マーケティング力も強みです。お客様や仕入先に対し、きめ細かいサポートとパートナーシップが提供できるのも特徴です。

積極的に物を売り込む営業スタイルというよりも、お客様のニーズを真摯に聞き取り、ニーズにマッチしたものを提案するスタイルです。そのためガッツがあるタイプよりも、勉強好きな営業スタッフや技術スタッフが多く活躍しています。

ーー組織づくりについてはいかがですか。

望月綾子:
現在のテーマは次世代の課長や部長を担う人材を育成することです。人やチームをマネジメントしながら同時にプレイヤーを務めるのは難しいので、次世代マネジャーになりたいならプレイヤーとしての自分の後継者を育てるよう伝えています。

今の飯を食うことも大事ですが、未来を考える人も同時に大事ですから、プレイヤーだけでなく、マネジャー職の育成が重要です。弊社のマネジャーにとって大切なことは何なのか。マネジメントするとは何か。そんなことを日々幹部と議論しています。

中途採用に関しては、弊社の扱っている製品や技術が好きなだけでなく人が好きで、コミュニケーション力があるかを見ていますね。特にゲームが好きな人は当社に親和性が高いので、採用面接でゲーム好きかどうか尋ねるようにしています。

労働環境の改善と自社のブランディング構想について

ーー最近では一般社団法人東京中小企業家同友会主催の「人を活かす経営」大賞 審査員特別賞を受賞していますね。

望月綾子:
社員それぞれが成長することで会社が成長する。会社が成長すると社員の生活が豊かになる。そうした社員たちがお客様のニーズに寄り添いよりよい製品やサービスを提案し、会社はよりよい社会づくりに貢献する。こうした好循環を生み出していきたいと考えています。

弊社の福利厚生が充実しているのは、自分たちのビジョンを実現するために行った結果です。働きやすい会社にするためだけではなく、よりよい社会を創る会社になることを目的としています。

ーー今後の経営方針について教えてください。

望月綾子:
お客様の課題解決をサポートし、「アイ・ビー・エスだから買いたい」と思ってもらえる施策を行っており、サービス面での展開も視野に入れています。こうしてお客様の困りごとを解決するビジネスモデルを模索し続けています。

また、「産業×IT」で弊社の独自性を出していきたいと考えています。工場や現場の人手不足解消のために、Wi-Fi環境の見える化提案やお客様を支援する機器設定サービスを行ったりしています。このようにお客様のIT化ニーズに応える提案を心がけています。

会社全体の売上から見るとまだごく一部に過ぎませんが、この部分を弊社のブランディングにつなげたいですね。

ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。

望月綾子:
弊社は発展途上の会社なので、整備されていない環境を面白がり、自ら成長したい方が活躍できます。社会に貢献したいという気持ちを持ち、自分自身も成長できる環境で働きたいという方は、ぜひ弊社の門を叩いてください。

編集後記

父親から会社を任され、右も左もわからないまま経営を模索してきたという望月社長。社員からの厳しい指摘も素直に受け止め、会社を牽引してきた姿には、経営者としてのたくましさを感じた。アイ・ビー・エス・ジャパン株式会社は、これからも社員一丸となり、産業の課題解決を支援していくだろう。

望月綾子/1967年生まれ。立教大学を卒業後、オクラホマ州立大学大学院にて修士号を取得。アメリカの半導体装置メーカーに入社。1997年父からの命でアメリカコロラド州ボルダー市にアイ・ビー・エス・ジャパン(英語表記:IBS Japan)のグループ会社であるIBS Inc.を立ち上げ、海外調達を開始。2014年アイ・ビー・エス・ジャパン株式会社代表取締役社長に就任。現在もコロラド州ボルダー市と日本を年に数回往復しながら両社の経営を進めている。