株式会社CONOC(コノック)は、建設業界に特化したDXツールを提供している企業である。建設業界は、デジタル化が遅れている分野といわれ、人手不足や長時間労働といった問題を抱えている。その中で、DXを推進することで、業務の効率化や生産性の向上を目指す動きが注目されている。
CONOCは、こうした業界の課題に応えるため、建設現場での実務経験を持つ代表取締役社長の山口一氏が、自らの知見をもとに開発したツールを提供している。なぜ建設業界に焦点を当てたのか、これからの建設業界におけるDX推進はどうあるべきか、代表取締役社長の山口氏にうかがった。
職人からスタート、多角化経営を経て建設DX事業へ
ーーこれまでのキャリアの中で、特に大変だった経験をお聞かせください。
山口一:
私のキャリアの始まりは建設業の職人で、2004年23歳頃に個人事業TRUSTを立ち上げ、2010年に法人化しました。事業は順調に拡大し多角化を進めていましたが、その後整理して建設DX事業1本に絞りました。この時代が、一番大変でしたね。担当者に任せきりにしていた事業で次々と赤字案件が発生し、会社は倒産寸前にまで追い込まれました。このとき、原価や工程における数値管理の重要性を痛感し、以降、徹底的にデータ管理を行うようになりました。
ーーCONOCとしての成功はどのようにして始まったのでしょうか?
山口一:
建設DXの事業に絞り、売り上げがゼロの状態からスタートしました。システム開発に2年間を費やしたため、その間は毎月赤字続きでした。2021年に社名をCONOCに変更し、建設業の企業に特化したシステム提供を開始しましたが、建設業界がDXに対して積極的ではなかったため、営業は非常に厳しい状況でした。
しかし大きな転機が2つ訪れました。1つは、電子帳簿保存法やインボイス制度の導入をきっかけに、建設業界でも電子ツールを導入する動きが出始めたこと。もう1つは2024年に、建設業の残業の上限規制が適用されるようになったことでした。建設市場は年々拡大しているのに、建設業界は人手不足。それまでのように残業でカバーできなくなり、業務効率化、生産性向上を意識せざるを得なくなったのです。クラウドツールやAIを利用しなければならないと、業界の考えが変わりました。
業界に精通し、中小企業の課題にフィットするSaaSを提供
ーー貴社の建設DX事業について、具体的に教えてください。
山口一:
ビジネスモデルとしてはいわゆるバーティカルSaaS(業界・業種特化型インターネット経由ソフトウェアサービス)です。プロダクトは「CONOC業務管理クラウド」「CONOC現場管理クラウド」「CONOCクラウドストレージ」の3つを組み合わせた「CONOC建設クラウド」が中心ですね。他に「WEB集客プラス」というサービスや、建設業界向けDXコンサルティングも展開しています。
ーーDXコンサルティングの内容について詳しくお聞かせください。
山口一:
弊社のDXコンサルティングは、中堅・中小建設企業を主な対象としています。企業には独自のルールやニーズがあるため、単純にクラウドツールを導入するだけでは本来の効果を発揮できません。そこで、企業ごとの課題に合わせた提案から、システム開発、導入後の伴走まで一貫してサポートしています。また、DX導入に伴う従業員のリスキリングも行っており、企業の成長に貢献しています。
ーー競合状況と貴社の強みについて教えてください。
山口一:
業務管理システムを導入している建設企業はまだ少数派で、この業界向けにDXサービスを提供する競合もあまりありません。商談している10社のうち、他社ツールを検討しているのは1社ほどで、ほとんどの企業は未導入です。その中で私たちの大きな強みは、私自身が職人、現場監督、そして建設業の経営者として経験を積んできた点です。業界の内部事情を深く理解しているからこそ、建設業界のニーズに応えるツールを提供できるのです。「現場で本当に役立つツール」を提供することで、顧客の支持を得ています。
日本国内だけでなく、世界の常識をも変える
ーー営業戦略についてお聞かせください。
山口一:
営業において最も重要なことは、顧客の課題に共感し、それをどう解決できるか示すことです。たとえば、工事の粗利率が分からないという企業には、弊社のツールを導入することで各工事段階の数値を明確にし、利益改善が可能であることを説明します。現在、営業の約40%はウェブからの問い合わせで、今後は代理店やアライアンスの強化を図り、50%まで増やしていきたいと考えています。また、導入後のサポートにも注力し、顧客との継続的な関係を築き、解約率を低くするための施策を進めています。
ーー採用に関しては、どのような人材を求めていますか?
山口一:
現在の従業員は十数名で、全員が中途採用です。さまざまな業界からの転職者が集まっており、建設業界出身者は少数です。採用に関しては、人数を増やすことよりも、少人数で最大の成果を上げることに重きを置いています。弊社のパーパスである「建設業の常識を、ひっくり返す」というビジョンに共感してくれる、ポジティブで素直な人材を求めています。
ーー5年後、10年後のビジョンについて教えてください。
山口一:
5年後には建設DXのリーディングカンパニーとなり、10年後には海外展開を実現していきたいと考えており、まずは3年半後にIPOを目指しています。事業拡大や資本力の強化によって、CONOCのプラットフォーム構想を実現させ、さらに東南アジア市場への進出も構想しています。
編集後記
5年後、10年後の目標を語る山口社長は、単なる願望ではなく、確信を持って「そうなっている」と断言する。これは、過去の試練を乗り越え、数値管理の重要性を身をもって学んできたからこそできる発言だ。具体的な数字をあげて未来を語れるのも、普段からツールを通して経営の数字に向き合っているからだろう。株式会社CONOCが、業界の常識を変え、日本国内のみならず世界でもその影響力を拡大していく日は遠くないに違いない。
山口一/2004年に建築測量事業である株式会社TRUSTを創業。2021年に株式会社CONOCへ社名変更し、同年10月に「CONOCクラウド型業務管理システム」を提供開始。リリース開始から3年で導入企業社数は500社を超えている。