ダイアナ株式会社は終戦直後に創業し、エレガンスパンプスを主力商品として国内の婦人靴業界を牽引してきた。しかし、時代の流れとともにカジュアルファッションが主流となるなかで、パンプスの需要は徐々に低迷。そこで、大人の女性向けのスニーカーブランドを立ち上げ、パラダイムシフトに至った。同社の取締役社長である桜山正氏に老舗ブランドのストーリーと、今後の展望についてうかがった。
パンプスの売上が10年で30億も減少、、、2016年にパラダイムシフトを決意
――まずは貴社の事業内容についてお教えください。
桜山正:
弊社は1953年に婦人靴専門店として銀座で創業しました。とくに婦人靴のシンボルであるパンプスにおいては市場の中核を担い、社員の多くがそれを自分たちのアイデンティティーとして捉えてきました。
この強固なパンプス体制は戦後60年以上続きましたが、近年ではファッションのカジュアル化に伴い、エレガンスパンプスの需要は徐々に減少し、代わりにスニーカー需要が急増したのです。
正直、私自身も過去の成功事例に執着していたのだと思います。毎年売上が減少しているにもかかわらず、顧客ニーズの変化に十分に対応できなかった結果、パンプスは10年で30億も減少してしまったのです。
――パンプスの需要が低下するなかで、どのように新しい市場に対応したのでしょうか?
桜山正:
スニーカー市場への挑戦です。スニーカーはあくまで「運動靴」の延長であり、若者向けのカジュアルファッションでした。マーケティング分析をする中で、市場ではエレガンスな大人に向けたスニーカーという売り場が当時少なく、商品も非常に手薄な状況でした。そこで「スニーカーを履きたいけれど自分に合うものがない」と感じている大人の女性のために、スニーカーカテゴリーの開発を決めました。これは私にとっても入社以来大きなパラダイムシフトでしたね。
2019年にダイアナ初のスニーカーブランド「+diana(プラスダイアナ)」をローンチ。会社全体の1%、1億円でもいいからスタートさせてほしいと社員全員にお願いしたことを今でも鮮明に覚えています。当初の売上は3.8億円でしたが、現在では30億円に迫るほどのブランドに成長しました。
――スニーカーブランドの立ち上げは、非常に大きな方向転換だと思いますが、苦労したエピソードはありますか?
桜山正:
スニーカー事業について、社内では賛成派と慎重派とが対立し、なかなか合意形成を得ることができませんでした。確かに社内リソースが不足している、ノウハウや生産拠点とのつながりもない、そして何よりも多くの社員がこの新事業に対して消極的だったことが大きな要因だったと思います。
そこで、「人材開発→供給地開拓→企画→サンプリング→売場戦略→販売戦略→プロモーション」まで一貫した事業のビジョンを作成し、新ブランドがもたらす将来の可能性を会社に示し、共感してもらうことから始めました。
また、柔軟な発想で進めたいと、外部からも人材をアサインしました。さらに、投資計画も作成し、「1シーズンだけでもやらせてほしい!」「失敗した場合は投資資金に関して全て責任を持ちます!」と当時の高橋社長に直訴までしたことを覚えています。
1996年からECに注力。当時からECと実店舗の相乗効果を模索する
――貴社の強みをお聞かせください。
桜山正:
人財力の高さが強みです。従業員554名中436名、約8割は女性社員です(※2024年10月時点)。女性社員の中には、祖母、母、本人と3代でダイアナブランドを愛用しているコアなファンで、商品の魅力を顧客目線で伝えられるアンバサダー的な役割を担っている者も多いです。販売スキルの高さに加え、自分ごとのように主体的に仕事に取り組んでくれる社員が多いことが、人財力の源となっています。
さらに、企画から製造、販売までを垂直統合させることでSCMの無駄を省き、お客さまニーズに迅速に対応できるSPA型ビジネスモデルを構築していることも強みです。
――ECについても早くから取り組まれているそうですね。
桜山正:
弊社はECが黎明期の1996年頃から取り組んでいます。当時から、今では当たり前となっている「CRM」施策として顧客の購買傾向データを分析し、効果的なマーケティングや商品ターゲティングに取り組み、「ファン=リピーターの増加・維持」を目指して人材やシステムの整備を進めてきました。
また、小売市場においては、「ECと実店舗を連動させる」というマルチチャネル・リテイリングの考え方が根底にあります。例えば、「ECサイトで店舗の在庫状況を確認する」「ECと店舗で会員情報やポイント、クーポンを共有できる」といった機能を早い段階で採用しました。これにより、ECと実店舗を分けることなく、顧客に一貫した購買体験を提供し続けています。
※CRM:Customer Relationship Management=顧客関連管理
ダイアナでしか味わえない「文化と価値」を創造し続けたい
――貴社の今後の展望をお聞かせください。
桜山正:
弊社では「バリューチェーンの再構築」をテーマに、2030年までの中期経営計画を立てています。ダイアナが、市場・お客様に提供するすべての項目において、その価値を向上させ、時代適正化することを目指します。
ーーそれを実現するために、どのような取り組みをしたいとお考えですか?
桜山正:
高いクリエーション力による魅力ある商品提供のため、海外のサプライチェーンとの連携強化をします。店舗では、お客様がより良い「買い物体験」ができるようにDXサービス向上のためのシステム投資を行います。更に、店舗空間は、新しい量販型ビジネスモデルを目指したかつてないショッピング空間を提供します。
こうした価値提供の改善は、「ダイアナでしか味わえない文化と価値」を創ることで差別化を図り、競合のいないフィールドに常に身を置く企業でありたいと考えるからです。
文化と価値を創るのは常に「人」です。そのために評価制度も見直します。個人の業績評価は、成果だけではなくプロセス(行動や努力)を大事にし、社員の頑張りを多面的に評価できるようにします。また、個々が理想とするワークライフバランスを実現できるように、社員の働く環境を改善してゆきます。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
桜山正:
パラダイムシフトの今、これまで経験したことのない出来事が数多く起こり、過去のデータや経験だけでは解決できない新たな課題に直面すると思います。そんな中で、正解のない問題にも、自分なりの答えを見つけなければなりません。
今まさに、新しいアイデアを出すこと、価値創造が求められています。これまでの固定観念に捉われない発想を大切にし、自分の能力や可能性を信じて、自信を持って欲しいものです。
目標に対する情熱を持ち、長期間にわたり努力を続けることで、成果やスキルは確実に向上します。自分の明るい未来を信じている人こそが、世の中を変える力を持つ存在となるでしょう。
編集後記
人はどうしても過去の輝かしい成功体験や実績にしがみつきがちだ。しかし、そこから脱却し、新しい時代の流れに乗ることに成功した桜山社長。長年女性から愛され続けてきたダイアナブランドが今後どのように進化し、どのような新しい価値提供をしてゆくのか、同社の継続的なチャレンジから目が離せない。
桜山正/1962年東京都生まれ、獨協大学卒業。1985年ダイアナ株式会社に入社し、3年間の店舗経験を経て本社勤務となる。バイヤー、MD、商品開発を担当。2005年取締役に就任、2016年常務取締役営業本部長、2020年取締役副社長就任を歴任。2023年取締役社長に就任。