2009年に設立された京都に本社を置く株式会社日本果汁。その社名に違わず、日本産の果物を中心に農産物の加工品の製造・販売事業を行っている。代表取締役の河野聡氏に、会社の成り立ちや看板商品の魅力、今後の展望についてうかがった。
農業が身近な環境で「食品業界で生きていく」と決意
ーー起業のきっかけをお話しいただけますか。
河野聡:
大学卒業後は食品会社に就職し、4社ほど同業界で転職しました。母方の祖父が山口県でみかん農家を営んでいた背景から、食品業界には元から興味がありました。瀬戸内レモンの仕入先を探す中で、今井青果の社長と出会ったことが起業のきっかけとなりました。今井青果は愛媛県西条市にあり、柑橘類の取り扱いを得意とする食品会社です。
ある日、社長に「農家さんのための会社が日本にあった方がいいと思わないか?」と問われ、賛同したところ「会社を経営してほしい」と頼まれました。当時32歳だった私は自分にできるだろうかと驚いた一方で、日本の農業を取り巻く厳しい環境を考えると、チャレンジしたいという気持ちが勝りました。
ーー今日に至るまで大きな困難はありましたか?
河野聡:
資本金950万円で設立した日本果汁は、決算1期目の最終月に売上が急上昇し、結果的に良いスタートが切れました。その後、10期目を終えるタイミングでコロナ禍となり、売上が低下した時期に、数十年後の商売に備えて取引先などを見直しました。感染症の拡大だけが要因ではなく、業界全体に変化が起きた時代だったと思います。
順風満帆ではなくとも人とのご縁に恵まれてきたことは間違いなく、宝ホールディングス様との資本提携によって、さらに盤石な体制を築けるようになりました。
柑橘のお菓子「ORANGETTE」がバレンタイン催事で大ヒット
ーー事業内容を教えてください。
河野聡:
農家さんからなるべく高値で果実原料を購入し、加工品を生産・販売しています。「果汁から皮まで原料をまるごと使う」というのが企業理念の一つです。継続的な果実の購入には販売先の安定が不可欠なので、一般消費者に向けたBtoC事業を増やすべく第二の自社工場もつくりました。飲食店向け卸事業やEC事業も経営の柱となっています。
ーー自社製品の「ORANGETTE(オランジェット)」が大人気ですね。
河野聡:
「ORANGETTE」は、蜜漬けした柑橘をチョコレートでコーティングしたフランス生まれのお菓子で、バレンタインを中心に催事で大好評を得ています。おいしさに自信があることはもちろん、20種類以上の柑橘を使用していることで「味を選べる楽しさがある」というのが大ヒットの理由ではないでしょうか。
お客様が「旅行で気に入った産地のみかんにしよう」「おばあちゃんが住んでいる場所もいいね」と、楽しそうに迷われている姿を見ると私もうれしくなります。ゆくゆくは、全国47都道府県の柑橘を使用し、47品のラインナップにしたいと考えています。
取引や研修を通して全国の産地とつながり、生産者の声を聞く
ーー会社の強みを教えてください。
河野聡:
農家さんや産地の方々とのつながりが私たちの一番の強みです。足を運んで信頼関係を築くことを心がけ、毎年産地を訪問してご要望やご意見をお聞きしています。果物の加工会社は全国にたくさんありますが、「日本果汁」という看板の通り、沖縄から北海道まで「日本の原料ならば仕入れる」というスタンスも特徴だと言えるでしょう。
弊社はたとえ仕入れの効率が悪くても、値段が高くなっても、全国のいろいろな果実を取り扱う道を選びました。ネックとなるコストは、皮や種まで原料を使い切ることで抑えています。
搾汁などの1次加工だけでなく、お菓子やお酒といった2次加工品も同じ工場で生産しています。最初から戦略を立てていたわけではありませんが、搾汁・抽出・ペースト化・瓶詰めといった全行程を1ヶ所で実現できることも強みとなりました。
ーー人材の育成や採用方針についてもうかがえればと思います。
河野聡:
産地での研修は得るものが多いため、全社員が参加できる仕組みづくりに励んでいます。女性が中心となって活躍している会社なので、全体的に優しい雰囲気でおっとりとした人が多い印象です。私がアクセルならば、専務の女性がブレーキだとよく言われます。これからは次の時代を引っ張っていく人材として、アクティブな方にも来てもらえるとうれしいです。
「鍵」は一般消費者へのアプローチ。農家の「ファンづくり」と農業支援にも注力
ーー今後の展望をお話しいただけますか。
河野聡:
シンガポールでお菓子やジュースのテスト販売をしたところ、海外展開の可能性も感じました。果汁の輸出量は増えているので、BtoBの10分の1程度の売上であるBtoCを国内外で伸ばしていき、いずれは同じ割合にしたいと考えています。
日本には魅力的な農家さんや果物がたくさんあるので、お取引の幅を広げつつ、これからも生産者の方から安定して果実を購入できる体制を整えていきます。「農家さんと一緒に歩める会社でありたい」という考えから、全国各地で収穫イベントや農業支援も実施しています。社員だけでなく他社や一般の方にもご参加いただき、産地のファンを増やしながら収穫のお手伝いができる取り組みとなっています。今後はこの取り組みをより広く行い、産地の観光促進や購買につなげていきたいと思います。
ありがたいことに、百貨店様からお声がけいただくことが多いので、催事にも積極的に参加していきます。「ORANGETTE」はもちろん、「小笠原パッションフルーツジュース」や「産地の恵み フルーツピール 小笠原島レモン」など、販売場所が限定的な商品も売れゆきが好調です。次は高級路線のリキュールを手がけてみたいですね。
編集後記
32歳にして「日本の農家のためになる会社」という大きな目標を掲げ、事業を軌道に乗せた河野社長。彼が前向きにアクセルを踏み続けてきたからこそ、おだやかな雰囲気の会社の中で勢いよくチャレンジを重ねていけたのだろう。産地や農家の方へのリスペクトを強く感じ、日本の農業を支援しつつ、海外展開も手掛ける同社の躍進が楽しみだ。
河野聡/1977年、山口県生まれ。近畿大学を卒業後、数社の食品会社に勤務。2009年、株式会社日本果汁を設立。代表取締役に就任。