VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)システムの企画・開発・運用を手がけるイマクリエイト株式会社。すでに大企業とのプロジェクトも数々手がけ、世界へとその技術を売り出すフェーズに到達している。
VR技術がいかに私たちの暮らしを変えるのか、そしてビジネスとしてどんな可能性を秘めているのか。創業から5年で累計2.4億円の資金調達を実現した同社の代表取締役CEOである山本彰洋氏に、経営者としての狙いや思いをうかがった。
赴任先のクーデターをきっかけに起業家の道へ
ーー社長ご自身のキャリアとして、現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
山本彰洋:
大学卒業後に住友商事に入社し、在職中にトルコでクーデター未遂という希少な体験をしたことをきっかけに、やりたいことはすぐ行動に起こさなければと思い、起業を決意しました。
VRやAR技術を使ったスタートアップ企業を資金提供などで支援するTokyo XR Startups株式会社のアクセラレータープログラムに参加した際、同期であり、現在CTOを務める川崎と出会い、意気投合しました。私が営業を担当し、川崎が開発を担うという分担で事業をスタートしたのです。
ーーVR分野に着目したきっかけは何ですか?
山本彰洋:
VR技術は、実は約50年前から存在していましたが、普及のきっかけとなったのは2016年です。この年は「VR元年」とも呼ばれ、市販されているVR機器やPlayStation4などでもVR体験が気軽にできるようになりました。
さらに、2021年にFacebookが社名をMetaに変え、また2024年にはAppleからApple Vision Proが販売され、ますます注目を集めることになりました。
現実世界ではできないことをVRで叶えれば世界が変わる!
ーーVR産業やビジネスを展開する上で、掲げるコンセプトはどのようなものでしょうか?
山本彰洋:
まず、現実ではなくバーチャルだからこそできることをやろうと考えています。たとえば、弊社が開発を手がけた「けん玉できた!VR」は、VRが可能にしたスローモーションの練習によって、けん玉の技を効率的に体得できるトレーニングシステムです。VRであれば、けん玉の玉の重力を調整する事が可能なので、現実では習得が難しいとされるスローモーションでの練習によってコツを身につけられます。
このように、現実世界ではできないことをバーチャル世界で実現が可能となることで、けん玉に限らず、さまざまな技術や技の習熟を支援できると考えたのです。今、さまざまなプロジェクトにチャレンジしています。
ーーまさに先進的な視点です。さまざまな分野で活用されうるアプローチですね。
山本彰洋:
現在、大学や大企業、国なども参画するプロジェクトが進行しています。例えば、本田技研工業株式会社様と進めているのが、仮想空間を活用した次世代型のものづくりです。
自動車製造の工程でボディのへこみやゆがみがないかを確認する外観品質検査というものがあります。この検査でよくある問題が、検査者による視点や判断基準のばらつきです。VR技術を用いれば、チェック担当者によって変わりうる判断基準の曖昧さをなくすことが可能になります。VR技術を導入すれば車体を見る視点や角度など、検査時の条件を均一化できるというわけです。
ーー正確さの追求だけでなく効率化にもつながりそうですね。
山本彰洋:
製造業は、今もなお現地・現物主義に頼る部分が多い業界です。しかし、これまで外観検査を例えば3、4回行っていたところを、VRを活用すれば4回中3回をVRで実施し、最後の1回だけを人の目によるチェックに委ねるなど、効率化を図ることができる可能性があります。
ーー他にはどのような活用事例があるのでしょうか?
山本彰洋:
製造業以外の分野では、小児向けの弱視治療をVRで行う試みも始まっています。また、溶接のトレーニングを仮想空間で実施する事業も、習熟効果の高さから多くのお客様に喜んでいただいています。
名作SFアクション映画の仮想現実世界を、誰もが行き来できる未来に
ーーVRの登場により産業のあり方も大きく変わりそうですね。
山本彰洋:
いわゆる「匠の技」と呼ばれる職人技術は、従来の損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)では把握できないものでした。しかし、VR技術を活用してこの技術をデジタルデータとして蓄積することで、職人技が「資産」として販売できる時代が来るかもしれません。弊社ではすでに海外展開を開始しており、多言語対応にも積極的に取り組んでいます。
ーーこれからどんな業界や分野でVR技術の活用が進められると思われますか?
山本彰洋:
やはり、製造業や医療分野とはVR技術との相性が良いと感じています。なぜなら、どちらの分野も先にデータが存在するからです。たとえば、製造業では実際に物をつくる前に3Dデータをもとに試作し、トライアンドエラーを繰り返しますが、VRを使うことでその試行錯誤の過程を効率化できるかもしれません。
ーー今後の展望やVR活用シーンを広げるための戦略をお聞かせください。
山本彰洋:
私たちは単純にいえば、SF映画で描かれているような仮想現実世界が当たり前になる未来をつくりたいと考えています。
私が常に心がけているのは、次世代を担う産業をつくり出すことです。現在の日本社会には、どこか閉塞感が漂っているように感じますが、少しずつ変革を進めることで、人々が「今日よりも明日が良くなるかもしれない」と思えるような未来を目指したいですね。日々の小さな進歩が、やがて大きな成果へとつながると信じて、一歩一歩着実に前進していきます。
事業が順調に成長すれば、遠くない未来に上場できると見込んでいます。上場は、あくまでも通過点です。資金調達の手段のひとつではなく、どちらかと言えば認知度や信用の醸成が狙いです。企業として収益を上げられる基盤をつくった上での上場をイメージしています。
ーー最後に貴社が求める人物像、採用基準について教えてください。
山本彰洋:
「VRと言えばイマクリエイト」という認識をより多くの方に広めていきたいと考えています。「本当に欲しい!」と思える人材に出会ったら、その都度、採用する方針をとっています。私が採用において最も重視しているのは、能力以上に情熱や熱意です。人望があり、周囲に良い影響を与えるような人間力と熱量を持った方こそ、一緒に働きたいと思う人材です。
編集後記
先進的な技術に基づくチャレンジ精神と、企業としての仕事を進めるための確かなノウハウを見事に両立している山本社長。「上場はあくまでも通過点である」と力強く語るその姿からは、イマクリエイト株式会社の事業に対する揺るぎない自信が感じ取れた。
VR技術を活用した新しい世界が、山本社長の手腕のもとでさらに身近になり、誰もがその恩恵を受ける未来が確実に近づいていると感じさせられたインタビューであった。これからのイマクリエイトの展開には、一層の期待が寄せられる。
山本 彰洋/1987年、大阪府生まれ。神戸大学卒業。住友商事株式会社入社後、アジアや中東などの海外市場における自動車ディストリビューターおよび輸出に従事。東南アジア向け電力EPCを担当。2019年に体験シェアリング株式会社を設立し、同年に株式会社CanRを吸収合併。イマクリエイト株式会社代表取締役CEOに就任し、業界を問わず、企業のXR技術のビジネス活用を初期検討から事業計画立案まで幅広く支援。さまざまな業界で日本初となる事例を推進中。