
世界経済フォーラム(The World Economic Forum:WEF)によると、製造業には経済効率の追及だけなく、デジタル技術を活用しながら、生産力の向上や市場ニーズへの柔軟な対応、さらには、エネルギー効率の改善と温室効果ガス排出の削減を含む「全体最適性」が求められている。
この方針は2017年に打ち出されたが、すでに1994年から製造業にデジタル技術を取り入れ、研究、開発、販売を行う日本初の生産スケジューラ専門会社が存在する。時間と人手を要する生産計画業務の自動化。それを可能にするのが、アスプローバ株式会社である。同社で約25年にわたりプログラムを開発し続けてきた代表取締役社長の田中智宏氏に、製造業における生産スケジュール業務の利便性向上にかける思いや今後の展望について話をうかがった。
IT革命の中でつかんだ夢と、今も変わらぬ探求心
ーーアスプローバ株式会社に入社するまでの経緯を教えてください。
田中智宏:
私が大学生だった1995年から2001年は、Windows 95が発売され、まさにIT革命が始まった時期でした。私自身も興味はあったものの、家が裕福というわけでもなく、高価なコンピューターに触れる機会がありませんでした。大学の授業で初めてキーボードを叩いたとき、「こんな仕事がしたい」と憧れを抱き、プログラマーになるために独学で勉強を始めたのです。
そんな学生時代に、幸運にも弊社創業者の高橋と出会ったことがきっかけで、アルバイトとして弊社に関わることになりました。そして大学院修了後に正式にアスプローバに入社したのです。
ーー入社後は、プログラマーとして勤務されたのですか?
田中智宏:
小さな会社なので、職種や役職が決まっていたわけではなく、できる仕事は何でもやる心づもりで働きました。そんな中でも、プログラミングに携わる時間は長く、入社当初からずっとプログラムを書くことができています。学生時代に学んだことよりも、弊社で培った知識や経験が、今の自分を支えていると感じますね。
弊社は、2024年に30周年を迎えましたが、創業当初から製造業向けの生産スケジューラを手がけてきました。IT分野の進化や製造業の競争激化など、時代に合わせて常にシステムの改善が求められます。そのため、自分への戒めとして常に「慢心しない」ように心がけています。
製造業のシステムに特化し、世界のものづくりを応援する
ーー貴社の事業内容について教えてください。
田中智宏:
弊社のお客様は、国内外の製造業の工場で働く方々です。国内の大手工場だけでも約13,000とされており、これらの大規模な工場には、さまざまな生産設備や工程があります。従業員も多いため、効率化を図らなければ無駄が生じ、売上の低下や納期遅れにつながり、顧客満足も損なわれてしまいます。
それを防ぐために、多くの製造業では、1ヶ月分、3ヶ月分などの計画をあらかじめ立てて生産の準備をするお客様が多いのです。生産計画を効率的に進めるために、コンピューターの力を借りることを30年前に考えていたのが、弊社の創業者である高橋です。
現在、弊社の生産スケジューリングソフトは、国内トップの導入実績を誇っています。海外でも高い評価を受け、国内外でいくつもの賞を受賞しました。
ーー貴社のシステムを導入している企業に、特定の業種はありますか。
田中智宏:
特にありません。現在、製造業はどの業種でも競争が激しく、納期対応や製品への品質要求は一層高くなっています。そのため、工程の見える化につながる弊社システムを導入する企業は、多くなることはあっても減ることはないでしょう。
2001年に私が入社したときから、弊社のシステムは高い国内シェアを保持しており、世界中の製造業に広く採用されています。お客様のニーズにしっかりと応えることで、結果的に数字はついてくると考えています。
弊社は今年で30周年を迎えますが、創業当時よりその時々でベストな選択をして、より良い製品を目指したスケジューラづくりを行ってきました。システム環境やお客様のニーズは時代とともに変化するため、システムに「完璧」は存在しません。
たとえば、最近では弊社のシステムをAIでさらに効率化する「Solver」というオプション機能を開発しました。これにより、今まで代理店やお客様ご自身が細かい設定をしなくてはならなかったのが、「納期遅延を最小化」などといった評価指標を決めるだけでAIが無駄なくスケジュールを組んでくれるようになります。新たなアルゴリズムの適用など、時代に応じてさらなる利便性を追求したかたちです。
AIの活用など時代に合わせて絶え間なく開発を続けることで世界No.1を目指す

ーー世界中にお客様がいますが、今後の方向性はどのように考えていますか?
田中智宏:
弊社は、創業当初からグローバルな展開を視野に入れ、製品を提供してきました。その結果、生産スケジューラは海外でも評価され、現地の工場とも関係が構築できています。
弊社は開発に重点を置いています。もちろん、営業部門はあり、お客様向けのセミナーなどは行っていますが、パートナー企業による代理店営業が基本です。日本、さらには海外の工場で働くお客様に、より満足していただけるように、日々開発を進めています。その開発の方向性が、新しいサービスの提供なのか、既存のサービスの深化なのかは、導入していただいている工場や業種、製品の状況によって異なるため、柔軟に対応しています。
弊社がお客様に満足していただくためにはパートナー企業の協力が不可欠です。生産スケジューラの需要が拡大しているため、システムをともに構築してくれるパートナー企業を新たに増やす方針です。その結果、お客様にも喜んでいただければ、これほど嬉しいことはありません。
ーー今後の展望について聞かせてください。
田中智宏:
幸いなことに、弊社は小さな会社ながら優秀な人材が加わり、新たな挑戦ができるようになりました。人数が増えたことで、今まで思いつかなかったようなことにも社員が積極的に挑戦しています。テレワークを基本とし、意見を交換しながら開発した成果を、積極的に世の中に発信していきたいと考えています。
生産スケジューラは、華やかな分野ではありませんが、導入していただいた企業からは嬉しいお声をたくさんいただき、引き続きお客様に信頼される製品づくりを目指す決意です。今後もお客様のニーズに即した製品になるように日々改善を重ね、自己満足に陥ることなく邁進していきます。
編集後記
生成AIや新しいプログラミング言語の出現など、以前は考えられなかったほど便利になったITの世界。アスプローバ株式会社は、そんな社会の変化に慢心することなく、日々顧客のニーズに応えるためのシステム開発に注力している。そして、競争が激化する世界中の製造業が、高品質な製品を安定して効率的に製造できるように支えている。今後もアスプローバは、世界の製造業に欠かせない存在として貢献し続けるだろう。

田中智宏/1975年、東京都出身。2001年、東京工業大学(現:東京科学大学)修士課程を修了後、アスプローバ株式会社に新卒入社。2009年、開発マネージャー、2019年に創業者・高橋邦芳の後を受け取締役社長を経て、2024年、代表取締役社長に就任。