※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

コインロッカーのイメージといえば、駅や商業施設で荷物を預ける用途が一般的だ。しかし、1964年に日本で初めてコインロッカーを製造した株式会社アルファロッカーシステムは、ロッカーの拡張性と使い勝手に着目し、食品を販売する「セルフベンダー」でフードロス削減にも役立てるなど、ロッカーの多角化に注目した事業を展開している。

同社の代表取締役社長である和田寿成氏に、ロッカー事業に秘められた可能性や、これからの社会で果たすべき役割などを聞いた。

スキー場での運命的出会いがきっかけでロッカー業界へ

ーー和田社長の経歴についてお聞かせください。

和田寿成:
私がアルファロッカーシステムに入社したきっかけは、大学のスキー部で訪れたガーラ湯沢スキー場にあった珍しい仕組みのロッカーに興味を持ったことです。

ものづくりに携わる仕事がしたいと考えていたこともあり、そのロッカーを製造販売した株式会社アルファに入社したいと思い1992年に新卒で同社に入社し、ロッカー事業や自動車部品の営業に携わりました。

アルファロッカーシステムは、2005年にアルファのロッカー事業部門と子会社のアルファサービスが事業統合して生まれたものです。当時ロッカー事業に所属していた私は新会社へ転籍することになりました。その後、2007年営業部長、2012年に取締役を経て、2021年に社長に就任しました。

ロッカーの製造・販売と管理・運営の両方を手掛けるアドバンテージとは

ーー事業内容について教えてください。

和田寿成:
ロッカーの企画開発・製造・販売・管理運営・アフターサービスまで行っています。

製品にはさまざまな種類がありますが、特にプールや商業施設にある「一般的なコインロッカー」と、駅や空港にあるキャシュレス機能や超過料金徴収機能を持った「ターミナルロッカー」ゴルフ場で使われるような「貴重品ロッカー(フリーボックス)」のニーズが高いですね。

その他にも、シリンダー錠式ロッカーやIC式ロッカー、カード式ロッカーなど、さまざまなロッカーを扱っています。

ーー事業の強みについて教えてください。

和田寿成:
弊社の強みは、ロッカーの企画開発、製造販売だけでなく、駅や商業施設などに設置場所を借りて管理・運営も行っていることです。直接管理・運営することで、利用者様の声を反映した製品の改善を速やかに実行することが可能です。

ロッカーの管理・運営まで行っているメーカーは少ないので、この点は業界において大きなアドバンテージになっていると感じています。

また、直接管理・運営している利点を生かして、自社運営のロッカーに実験的に機能を追加して評価できる点も強みです。製品を取り換えなくても、キャッシュレス決済や時間単位で課金される仕組みなどの導入が可能で、社会のニーズにいち早く対応が可能です。

お客様への誠意と製品の利便性をもって、社会貢献に寄与する

ーー事業の面白さや仕事に対するこだわりについて教えてください。

和田寿成:
一番やりがいを感じるのは、自分たちのアイデアを製品化したものに対して、利用者様から良い評価をいただいたときです。弊社の仕事が社会の役に立っているのだと実感できる瞬間です。

私は仕事をするうえで「挨拶をしっかりする」「すぐに行動する」「約束、特に小さな約束を大切にする」という3点を社員に求めています。そう聞くと当たり前のことですが、誠意ある行動が大切なのはもちろん、スピード感をもって製品の利便性を高めるための機能改善を行うということでもあります。

事業は最終的に社会貢献ができ、持続的に利益をあげ続けることが大切ですので、お客様の信頼を得ることで、これからも社会の役に立つ製品を作り続けていきます。

「コインロッカーの多角化」にはさまざまな可能性が秘められている

ーー事業で注力していきたい部分についてお聞かせください。

和田寿成:
今後は、ロッカーの可能性をさらに引き出すために、使い道の多角化に注力していきたいと考えています。コインロッカーの市場は本来の預かる用途としては成熟しているので、今後はそこを土台にどのような価値を加えていけるかが焦点です。

例を挙げると、ベーカリーやJAなどと連携して行っている、ロッカーで食品を販売するロッカー型自販機「セルフベンダー」があります。これは20年以上前から生産し続けているのですが、コロナ禍で需要が急増したので、さらに事業を成長させられないか模索中です。

また、ホテル業界の人員不足対策として、宿泊客が荷物をセルフで管理できる「セルフクロークロッカー」のニーズも高まっています。従来の手荷物と引き換えるチケット制から転換することで、ホテルマンは荷物を管理する手間と責任から解放され、客室稼働率の高まりへの対応に一役買っていると思います。

ーーセルフベンダーを活用してSDGsへのとり組みも行っているそうですね?

和田寿成:
横浜市が設置したSDGsステーションで、営業中に売り切れなかったパンをセルフベンダーで販売し、食品ロスを削減する取り組みを行っています。

最初は試験的なスタートでしたが、始めてみると毎日売り切れるほど好調で、現在は横浜市の協力のもと、増設する計画が進んでいます。こうした新しい事業がロッカーに社会的な意義を与えていくことでしょう。

私たちは、基盤事業であるコインロッカーで利益を出しつつ、セルフベンダーやセルフクロークロッカーを活用し、社会に新たな価値を提供していくことが大切だと考えています。「ロッカー」という四角い箱には、思った以上に多くの可能性が秘められていると日々感じるばかりです。くらしの「預ける・渡す」をデザインするというバリューを社会に提供し続けることが私たちのありたい姿です。

編集後記

私たちはロッカーといえば荷物を預ける場所だと思い込んでいるが、和田社長の話から、あの小さなスペースには、さまざまなニーズや課題に対応できる可能性が詰まっていることを知った。和田社長が掲げる「ロッカーの多角化」が、街角から社会のアップデートを実現する日はそう遠くないはずだ。

和田寿成/東京都出身、和光大学卒。1992年株式会社アルファ入社。2005年同社ロッカー事業部門と子会社である株式会社アルファサービスが事業統合し設立された、株式会社アルファロッカーシステムに転籍。2021年に同社代表取締役社長に就任。