※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

日本を代表する産業の1つ、自動車製造業。この業界における高精度機能部品のメーカーとして、世界を相手に活躍しているのが株式会社長倉製作所だ。

同社は、顧客が要求する形状と機能の製品を、鉄の丸い棒から生み出す冷間鍛造の技術に強みを持ち、組み立てまでの製造を一貫して自社で行える生産体制を構築している。

今回、2023年に代表取締役社長に就任した長倉裕輔氏に、社長に就任してからの気づきや、同氏が叶えたい長倉製作所の未来の姿について聞いた。

社長就任後に最も強く感じたのは「社員たちに対する責任の大きさ」

ーーもともと社長を継ぐ意思はありましたか。

長倉裕輔:
祖父と父が会社を経営している姿を見ていましたし、親からも会社の話をよくされていたので、社長を継ぐ意思はありました。高校卒業後にアメリカの大学へ進学したのも、会社を継ぐことを見越し、海外で活躍できる人材になりたいと思ったからです。

私が長倉製作所に入社したときは日本に300名、アメリカに150名ほどしか社員がいませんでしたが、今ではベトナムとメキシコにも拠点を増やし、海外での事業拡大を進めています。弊社の歴史の中でも特に大きな出来事といえる、メキシコ拠点の立ち上げには私自身も携わりました。

ーー社長就任後はどのようなことを感じましたか。

長倉裕輔:
社長就任前と後では、責任の大きさの違いを強く感じました。社長就任前の私は、海外工場の責任者を経験し、新しく立ち上げた拠点のスタッフたちに対する責任を負っていました。

それに対して社長就任後は、つい最近採用した方だけでなく、何十年も会社のために働いてくれている方々に対しても責任を負っています。言うまでもなく、社長になってからのほうが重責を担っていると実感していますね。

また、37年間も社長を務めていた先代と比べて、新米社長の私は何をするにしても未熟さを痛感しています。経験や落ち着きのなさなど、至らない点を探しては改善している毎日です。

発想を転換し、海外メーカーの販路を開拓したことで業績アップ

ーー社長就任前に経験した困難について聞かせてください。

長倉裕輔:
10年前、当時の主要顧客に販売していた製品が変わり、販売量が大幅に減るという話がありました。相当な売り上げ減を覚悟すると同時に、この出来事が経営方針を転換するきっかけとなりました。

当時は主に日系メーカーに対して商売をしていましたが、頭を切り替えて、海外メーカーにも販路を求めることにしたのです。私たちにとって新しいチャレンジでしたが、結果として、ドイツ系メーカーと取引を始めることができました。

品質要求や使用する鋼材、生産設備など、すべてがゼロからの出発の中、全社一丸となって要求に応え、最終的にはドイツ系メーカーに対応できる体制を築くことができたのです。

また、このことがデトロイト周辺で噂となり、アメリカ系メーカーからも引き合いがくるようになりました。現在は、海外メーカーと日系メーカーの比率は半々くらいで、2023年9月期は海外向け販売量の伸長で増収となっています。

ーー社長に就任して、感動した出来事などはありますか。

長倉裕輔:
社員たちが新しいことに挑戦している姿を見たときに、心を動かされます。たとえば海外出張をした際、赴任してまだ半年の駐在者が流暢なスペイン語で指示している姿を見て、とても感動しました。

ほかにも、良品率や労働生産性が低い製品を改善して結果を出している姿や、何度も型を壊しながら型寿命を上げようとしている姿、中小企業ならではのDX(デジタル技術を活用した業務改善)を成し遂げていく姿、新入社員を増やそうとアイデアを出して実際に人員を増やしていく姿などにも、心を動かされました。

社員たちは、「創造へ向けて、限りない挑戦を継続する」という弊社の経営理念に影響を受けているのだと思います。社員たちのような挑戦する人たちと一緒に、私自身も前に進んでいきたいです。

「社員に愛される会社」を目指して、会社をこれからも成長させたい

ーー最後に今後の展望や目標を聞かせてください。

長倉裕輔:
私は「ものづくりは人づくり」という考えを持っています。良いものをつくるためには、まず人を育てることが重要です。そのため、人材育成に向けた取り組みとして、教育セミナーの受講を促すなど、社内の意識改革を進めています。今後は人材の数を増やし、新たなお客様を開拓していきたいです。

また、私たちはお客様ありきの商売であることから、まずは市場が何を求めているのかをしっかりと把握する必要があります。そのうえで価格を安くしたり工程を減らしたりといった工夫をし、時代とニーズに合ったものづくりを進めていきたいです。

ほかにも目標はありますが、私が本当に望んでいるのは、長倉製作所が社員に愛される会社になることです。そのためには売り上げをさらに伸ばし、給料もどんどん上げていきたいと思っています。

編集後記

社員たちの挑戦を心から喜ぶ長倉社長。取材を通して、仲間を思いやる優しい人柄に触れられた。「至らない点を改善する毎日」と語った同氏だが、努力する長倉社長のひたむきな姿を見て、その背中を追いかけたいと思う社員はきっと多いだろう。

長倉裕輔/1977年静岡県生まれ、インディアナ大学卒業。2002年株式会社長倉製作所入社、2023年同社代表取締役に就任。