※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

ダイビングは、自然の美しさと冒険心を満たしてくれる一方で、専門技術と安全管理が求められる奥深い分野だ。株式会社テクニカが運営する「パパラギダイビングスクール」は、豊かな自然環境を活かした講習やツアーを提供して、初心者から上級者まで多くのダイバーに愛され続けている。

パパラギが顧客からの信頼を得るまでの努力、社員が安心して働ける環境づくりの秘訣、そして今後のビジョンについて、代表取締役社長の松本行弘氏に話をうかがった。

オーストラリアの海で見つけた人生の道標

ーーダイビング業界に入ったきっかけや、社長就任までの道のりを教えてください。

松本行弘:
私がダイビングと出会ったのは、オーストラリアにワーキングホリデーに行った25歳のときです。当時の私は新しいことに挑戦したくて観光船で働くことを選びましたが、毎日が刺激的で自然の美しさに魅了される日々でした。特にダイビングは、海の中で感じる静けさや生き物との出会いに新鮮な驚きを感じ、「今後も続けたい」と心から思いました。

帰国後、「海に関わる仕事がしたい」と考え、本屋でダイビング雑誌を手に取り、将来性のあるダイビングショップを探して、株式会社テクニカに入社したのです。インストラクターとしてキャリアを積み、数年間で店舗業務やグアム支店でのゼネラルマネージャーなど、さまざまなポジションを経験しました。

2013年12月のある日、創業者の社長から、突然会社を引き継ぐ話を持ちかけられました。当時、自分が会社を背負うなど考えたこともなく驚きましたが、「それならスタッフやお客様、みんなで幸せになってやろう」という気持ちが湧いて来て、承継することを決めました。

「パパラギスタンダード」が生むお客様との信頼関係

ーー貴社の事業内容や強みについて教えてください。

松本行弘:
テクニカのメイン事業は、「パパラギダイビングスクール」の運営です。また、海洋教育に力を入れたNPO法人「パパラギ 海と自然の教室」も運営しており、シュノーケリング教室や海洋生物観察会を実施しています。私たちは、海に特化した教育活動を通じて、「海の素晴らしさ」を参加者の皆様に伝えることを使命としています。特に、伊豆の海では四季折々の変化を楽しむことができ、自然の美しさや神秘に触れる体験を提供しています。

私たちの強みは「人を大切にする企業文化」にあります。弊社の社員の約8割が、もともとはお客様で、自然に興味を持ってパパラギの扉を開けた人たちです。パパラギの理念や活動に共感し、社員として一緒に働く道を選んでくれたのです。このように、社員とお客様が共通の価値観を持ち、自然や環境への思いを共有しているため、お客様に共感し、思いやりを持ったサービスを提供できるのです。

また、弊社ではダイビングインストラクターのスキルだけでなく、人間力も重視しています。「パパラギスタンダード」と呼ばれる接客基準を設け、丁寧で真心のこもった接客を全員が心掛けています。これにより、社員とお客様が安心して集える空間を提供できています。

人を大切に、物心両面の幸福を追求する経営

ーー松本社長が経営において大切にしている考え方について教えてください。

松本行弘:
私が経営で最も大切にしているのは、稲盛さんの唱えた「物心両面の幸福」(物質的・精神的な支え)を追求することです。社員の安定した生活と精神的な充実を両立させ、彼らが自信を持って仕事に取り組める環境を整えたいと考えています。利益を追求するだけでなく、社員が心から幸福であることが、結果的にお客様の満足につながり、ひいては会社全体の成長にも貢献できると信じています。

また、テクニカでは「精神的な面の幸福」を実現するために、リアルなつながりを重視しています。SNSやオンラインが主流の時代ですが、顔を合わせたコミュニケーションが生む絆こそが、信頼の基盤だと考えています。そのため、対面での会話やイベントを通じ、社員同士やお客様との交流の場を積極的に設けています。

ーー社員の幸せのために、どのような取り組みをしていますか。

松本行弘:
パパラギでは、「社員が幸せになれる職場づくり」と「長く働き続けられる環境」を目指し、さまざまな取り組みを進めています。弊社では社内結婚が多く、子育てしながら働く社員も多いため、家族を大切にしながら働けるように、子連れでの出勤が可能な制度も整えています。

また、結婚や育児によって現場での仕事が難しくなっても自分のペースでキャリアを続けられるように、今後は事業を多角化して、柔軟な働き方の選択肢を増やしていきます。近年ではNPO活動にも力を入れ、漁業協同組合や自治体、企業と協力し、活動の幅を広げています。

NPO活動には、社員が現場を離れた後も新たなキャリアとして関わることができるため、社員はダイビングの仕事を卒業しても、パパラギの活動に携わりながら地域や環境に貢献する道を歩むことができるでしょう。社員がライフステージに応じて柔軟に働き続けられる職場環境づくりと、新たなキャリアの提供により、パパラギは「社員が幸せでいられる会社」を目指して成長を続けています。

「人が好き」で「自然を愛する」心が採用の鍵

ーーどのような人材を求めていますか。

松本行弘:
採用で大切にしているのは、「人柄と価値観」です。パパラギが求めるのは、スキルや経験以上に、人が好きで自然を愛する心を持つ方です。特に、新人には、素直さと明るさが求められます。お客様と信頼関係を築き、自然と応援していただけるような方を歓迎します。

また、好奇心旺盛で、未知への挑戦を楽しめる姿勢も重要です。自然や人との関わりを楽しみながら成長できる方は、パパラギで成長できると信じています。自然と人への関心を持ち、ともに前向きに成長していける方との出会いを楽しみにしています。

日本一社員の幸福度が高いダイビングショップを目指して

ーー松本社長が抱く「夢」について教えてください。

松本行弘:
私の夢は、将来、私がパパラギにお客様としてダイビングに来たとき、担当してくれるスタッフと「僕も昔ここで働いてたのですよ」と楽しく話をすることです。そのとき、パパラギが成長し、多くの人に愛され続ける場所になっていることを実感できれば、それ以上の喜びはありません。この夢を実現するために、パパラギの未来を、今のメンバーとともに日々築いていきます。

会社としての夢は「日本一、社員の幸福度が高いダイビングショップ」をつくることです。社員がやりがいを感じ、誇りを持って働ける環境を整えることが、私にとって最も大切な役割です。

ダイビングスクールの仕事は、自然の美しさに触れ、多くのお客様と感動を分かち合えるすばらしいものです。だからこそ、パパラギでは「社員の幸福」と「長く働ける職場」を目指し、社員同士が支え合い、感謝し合える温かい職場をつくりたいと考えています。

編集後記

インタビューを通して伝わってきたのは、ただ「ダイビングを教える」だけでなく、海を通じて人々に豊かさと喜びを届けようとする真摯な思いだった。松本社長の「人を大切にする」という信念は、単なる経営理念にとどまらず、日々の事業活動の中で着実に実を結んでいる。自然との共生と人との絆を大切にする同社の歩みは、現代のビジネスのあり方に、一石を投じているように思えた。

松本行弘/1965年生まれ、岩手県出身。1992年、株式会社テクニカ入社。グアム店総支配人、企画部部長を経て2014年に代表取締役社長に就任。人を大切にする経営に取り組み、共同発起人として東京グッドカンパニークラブも運営。