鹿児島綜合警備保障株式会社は、警備や生活を守る事業だけではなく、地元鹿児島の地域貢献活動にも積極的に取り組んでいる企業だ。その背景には、荒武貞夫社長自身の人生観に基づく経営哲学が色濃く反映されている。荒武社長に同社の事業内容や今後の展望についてうかがった。
職務に関わりなく全社員が一丸となって警備を行う形に変革
ーーご経歴についてお聞かせください。
荒武貞夫:
弊社は私の父がつくった会社です。私が新卒で東京にある綜合警備保障株式会社(以下、ALSOK)に入社し、警備業界に足を踏み入れたのも家業を継ぐという意識がすでにあったからです。ALSOKでは、現場の仕事から営業、技術までさまざまな業務を経験しました。その経験が、今の私の経営スタンスに大きく影響しています。
ーー鹿児島綜合警備保障に入社後はどのようなことに取り組みましたか?
荒武貞夫:
2005年に入社し、最初は「東京での経験を活かして、新しい風を吹き込もう!」と意気込んでいましたが、当時新人教育や研修は特になく、仕事についても先輩の背中を見て覚えるしかない現状でした。この現実に対して大きな課題を感じ、東京と鹿児島の現場とのギャップにカルチャーショックを受けました。
このことから、階級制の人事制度に移行し、より体系的な教育システムの導入が必要だと感じたのです。そこで、研修制度をしっかりと設け、社員一人ひとりが必要なスキルを身につけられる環境を整備することに注力しました。このような改革によって、会社全体のスキルアップを図りながら、地域のニーズに対応できる警備業務を展開していきました。
ーー特に苦労したエピソードを教えていただけますか?
荒武貞夫:
社内教育の改革にかなり苦労しました。弊社はもともと職人気質の会社で、警備員として入社したら最後まで警備員として、事務員なら最後まで事務員で、というように固定された役割に従って働く文化が根付いていました。このため、職務に関係なく、社員全員が警備業務に精通する必要がある、という考え方を浸透させるのが非常に難しかったですね。
実際のところ、事務員として入社した女性社員から、「なぜ自分が警備をしなければならないのか」という反発の声もありました。
しかし、「弊社は警備会社であり、全員が警備員であるべき」という理念を掲げたので、事件や事故があった場合は職務に関係なく、誰でもすぐに現場に駆けつけられるよう、全員が警備業務に携わる体制に徐々に変えていきました。この改革は困難でしたが、最終的には社員の意識も変わり、全員が一丸となって業務に取り組む風土が育まれています。
鹿児島に根ざした警備業務と地域貢献を目指す
ーー現在、貴社が手がける事業内容について詳しく教えてください。
荒武貞夫:
弊社は、安全安心を守る警備業務を通じて、地域社会に貢献することを目指しています。具体的には、機械警備、常駐警備、警備輸送の三本柱を中心に事業を展開しています。金融機関・法人・個人向けの警備に加えて、空港保安や原子力発電所の警備など、特殊な施設の警備も担っています。
鹿児島という地元に根ざした企業として、幅広い警備業務を通じて、さまざまなニーズに対応しながら、地域の安全を支える取り組みを図っています。
ーー警備だけでなく、地域貢献活動にも力を入れているとうかがいました。
荒武貞夫:
創業理念である「地元に生まれ、地元に育ち、地元に貢献する。」を掲げ、地域に密着した活動を行っています。たとえば、地元スポーツチームのスポンサー活動や、守りのプロである弊社社員を講師として派遣する防犯出前授業「あんしん教室」の実施もその一環です。これらの活動を通じて、地域社会の一員としての責任を果たしていきたいと考えています。
安全安心を守る企業としての使命を貫く
ーー今後の展望についてお聞かせください。
荒武貞夫:
少子高齢化や労働人口の減少は私たちの業界にとっても大きな課題です。しかし、それを逆手にとる形で業務の効率化を進める必要があると考えています。具体的には、DXを推進し、警備業務の自動化や省人化を図っていくつもりです。とはいえ、人が中心となる仕事である以上、人財育成は今後も重要なテーマです。従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境づくりを進めていきたいですね。
人財育成については、これまでは業務に必要なことを優先してやってきました。人は会社にとって「宝」であり、弊社では「人財」という文字を使っています。だからこそ、社員が仕事以外の自分の時間も大切にしながら取り組めるような環境を、会社が準備するのが必要です。
それが自己向上とワークライフバランスにもつながると思います。また、結束力を高めるために、チームごとにユニークな懇親会も社員自身が企画して実施しています。実際に漁船を借りて魚釣りをしたチームもあれば、自分たちの職場である空港の管制塔見学をしたチームもいましたね。
ーー最後に、今後のビジョンを聞かせてください。
荒武貞夫:
今後も創業理念に従って、地域社会に根ざした企業として歩み続けていきます。また、弊社はALSOKグループの一員として、また地元資本の会社として、鹿児島の安全安心を守り、「何かあれば鹿児島綜合警備保障がいるから大丈夫」と地域の皆さまに信頼される企業を目指しています。これからもその姿勢を貫き続けることが、弊社の使命であると考えています。
編集後記
今回の取材を通じて強く感じたのは、荒武社長の地域社会に対する深い愛情と責任感である。単なるビジネスの枠を超え、地域の一員としての役割を全うしようとする姿勢は、多くの人に影響を与えるだろう。これからも同社が地域とともに手をとり合い、より強固な絆で結ばれながら発展していく姿を期待せずにはいられない。
荒武貞夫/1976年鹿児島県生まれ。九州国際大学卒業。2000年に綜合警備保障株式会社に入社し、警備・技術・営業・教育業務に携わる。2005年に鹿児島綜合警備保障株式会社に入社。企画管理室長、特別業務事業部長、常駐警備事業部長を務め、2015年取締役専務執行役員を経て、2016年代表取締役社長に就任。