コロナ禍に伴うライフスタイルの変化により、住宅業界は新たな局面を迎えている。その中で、株式会社groove agent(グルーブエージェント)は、顧客一人ひとりに最適な住まいを提供することで、業界に新風を吹き込んでいる。今回は、同社の代表取締役鰭沼悟氏に、急成長の裏にある企業戦略や今後の展望について話を聞いた。
リノベーションで未来を描く、挑戦し続けて見つけた使命
ーー創業までの経緯と、設立当時、苦労されたことを教えてください。
鰭沼悟:
学生時代から漠然と起業を考えていましたが、新たな価値を提供できるサービスが見つからず、在学中の起業は頓挫していました。その後、三菱UFJ銀行(旧三和銀行)に入行し、多くの社長に直接話を伺う機会と学びを得ることができ、起業への情熱が再燃したのです。
銀行員として3年が過ぎた頃に、取引先の社長が出資する日本初の液晶モニターのOEM生産をする会社の立ち上げを任されるチャンスを得ました。その液晶モニターは世界で初めて家電製品にシルバー色のデザイン性を持たせ、販売台数も国内一位になったこともあります。
しかし、ビジネスがうまくいくと株主間のいざこざが発生し、当事業は頓挫してしまいました。その経験から、今度は私自身の資本で起業をしなければならないと、2011年11月11日に現在の株式会社groove agentを立ち上げました。
ーー貴社の事業内容とその特長を教えてください。
鰭沼悟:
弊社はオールワンストップリノベーションという業態を特徴としています。不動産仲介・設計・工事まで、一部の工事を除き自社のスタッフで一貫して手掛けています。「大人を自由にする住まい」というコンセプトは、家を買うことで選択肢をたくさん持つことができる自由を手に入れようという意味合いです。
私は銀行員時代に住宅ローンにも数多く取り組んできましたが、無理をして上限までローンを借りてしまい、生活に余裕がなくなってしまうお客様をたくさん目にしました。
それゆえ、当社ではお客様が家を購入する前にお金の専門家(ファイナンシャルプランナー)と共に資金計画をしっかり行い、余裕を持った購入金額に抑えることで、生活に余白が生まれるような家の購入方法をアドバイスしていきます。
また、リノベーション会社であるので、デザインが良いのは当たり前です。当社は毎年多くのデザイン賞を受賞しています。
社員の創造力を引き出す企業文化とリーダーシップ
ーーリーダーとして、社員にどのようなメッセージを伝えていますか。
鰭沼悟:
「大人を自由にする住まい」を提供する当社は、働き方も自由です。コロナ前の設立当時からフルリモートワークでした。自由とは、自らに由ることであり、起こった事象は全て自らにあると考えます。そう思うことで、自己成長できると思っています。
ーー具体的にはどのような社内制度を導入しているのですか。
鰭沼悟:
特に、制度というものがあるわけではないのですが、一人ひとり明確なミッションがあるのだと思います。そのミッションがあるからこそ、フルリモートであっても特段管理されることなく、皆が自ら動く環境になっています。誰一人、必要ではないスタッフはいないのです。皆が、そのミッションを達成する意識を持つことで会社が成長し、またこの自由な職場環境を保つことができるのです。
しかし、新入社員や若手には一定の教育と指導をする必要があります。フルリモートでの難しさはそこにあるかもしれませんが、フルリモートであってもミッション達成のために上司・先輩が部下を放置しない体制づくりをしています。
リノベーションで中古住宅市場を活性化させ日本を元気にする
ーー現在取り組んでいる新規事業や今後の展望についてお聞かせください。
鰭沼悟:
国内の中古住宅×リノベーション市場は20兆円になると期待されています。当社は、これから訪れるその大きな市場の中でまだ走り出したばかりの事業をしています。
欧米では、中古住宅を購入し、自分の好きなテイスト・ライフスタイルにあった空間・デザインにしていく習慣が当たり前のようにあります。今までの日本は、事業者側が考えたデザイン・間取りで既に完成されたものを買う新築文化でした。しかし、これからは中古住宅が当たり前の世界になるでしょう。
中古を購入する際は、前の入居者の生活感を残したまま住むのには抵抗があります。そのため、必ず何らかのリフォームやリノベーションを行う世界になります。その世界を醸成させる牽引役であることが当社のミッションです。
ーー今後の成長に向けた社内体制の強化については、どのようにお考えですか。
鰭沼悟:
設立後、毎年平均130-150%成長を継続しています。社員数もこの成長に合わせて増え続けていますが、リノベーションのデザイン・品質の高いレベルを維持し、さらに良くするためには、この売上成長率と同様に社員数を増やすことにも危険を感じています。
当社が一番力を入れているのは顧客満足です。これを意識せず成長ばかり求めるのは当社の存在意義が問われます。そうは言っても、時代が要求する成長にも応えなければならないという矛盾をどう解決していくのか?やはり、全てにおいて、自らを見つめて成長し、何らかの解決方法を常に探して続けていくしかないのでしょう。
また、地道なことかも知れませんが、その全ての過程を楽しんでいます。もともと、groove agentという社名の由来は「楽しいことをする会社」という意味です。その由来通り、常に楽しいことをして、成長し続けていきたいですね。
編集後記
鰭沼社長の話を通じて、挑戦を恐れず、自由と革新を大胆に追求する姿勢が鮮明に伝わってきた。社員一人ひとりの自由を尊重しながら、顧客満足度を最優先に考える姿勢は、住宅業界に新たな風を吹き込んでいる。多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を構築し、次世代のビジネスモデルを創造するという鰭沼社長。そのビジョンが、今後どのように実現されていくのか、株式会社groove agentのさらなる飛躍に注目したい。
鰭沼悟/1973年生まれ。大学卒業後、三和銀行(現:三菱UFJ銀行)で法人取引を担当し、コーポレートファイナンスを経験。ベンチャー企業立ち上げを数社経験し、2011年11月11日に株式会社groove agentを設立し現在に至る。