名古屋の名産として知られる守口漬で有名な株式会社大和屋守口漬総本家。その代表取締役社長を務める青木茂夫氏は、スポーツ用品業界を27年以上経験してから同社の社長に就任したキャリアを持つ。
青木社長は持ち前の挑戦心を武器に、大和屋守口漬総本家をさらなる成長へと導くための変革を推進し、社員たちと共に新たな企業像を描こうとしている。青木社長のこれまでのキャリアや同社の強み、今後の取り組みや変革の内容などについてうかがった。
キャリアの大きな転換を「成長のチャンス」と考え、新たな挑戦を続ける
ーー青木社長の経歴についてお聞かせください。
青木茂夫:
大和屋守口漬総本家で働く前は、外資系商社のスポーツ用品部門を経て、ナイキジャパンで働いていました。両企業での合計のキャリアは27年以上あり、ナイキジャパンでは経営に深く携わるポジションにも就き、スポーツ用品業界は自分にとっての天職だと感じていました。
そこから大和屋守口漬総本家に転職することになったのは、義兄でもある前社長から話を持ち掛けられたことと、更なる自己成長の為に入学したビジネススクールでの経験がきっかけです。
実は、前社長から社長を引き継ぐ話をいただいたときは、この道に進む自分をすぐには描けませんでした。しかし、ビジネススクールで経営の全体像を学び直す中で、自分がまだまだ経験不足だと自覚し、スポーツ用品以外のフィールドで自分を試したいという挑戦心が芽生えたのです。
つまり、今のポジションは私にとって責任を果たす場であると同時に、自分を成長させる場でもあるわけです。こうして2023年から弊社の社長を務めることとなりました。
地元から愛され続ける幸せに、こだわりぬいた素材と品質で応える
ーー貴社の事業について教えてください。
青木茂夫:
弊社は、愛知県名古屋市に本社を置く長い歴史を誇る漬物メーカーです。主な商品は守口大根を酒粕とみりん粕で漬け込んだ守口漬、その他奈良漬などで、守口漬は昔から続く名古屋の名産として広く知られ、多くの方からご愛顧いただいております。
店舗数は地元・名古屋市を中心とした中部地方に7店舗と、東京を中心とした関東地方に6店舗の合計13店舗です。また、大和屋の関連ブランドとして粕を使った発酵食品を扱う「八幸八」、大和屋の漬ける技を生かした「鈴波」と、名古屋コーチン等を扱う「六行亭」の運営もしています。
ーー貴社独自の強みは何ですか?
青木茂夫:
長年継承されてきた、漬物を漬ける技術が弊社の強みです。こだわりぬいた素材の品質と熟練の職人たちの腕は、他社とは比べられない独自の強みだと自負しています。
また、地元のお客様から愛されている点も強みです。名古屋の名産になるほど多くの方から愛されているという事実は、弊社が長い年月を真摯に積み重ねてきた結果といえると思います。時おりお客様からいただく「やっぱり大和屋さんはおいしいね」という言葉は、これらの強みがあってこそ得られていると思っています。
伝統を守りつつモチベーションを高める人事制度の変革とは
ーー人事制度や労働環境において、取り組んでいることを教えてください。
青木茂夫:
弊社では、これまでの年功序列の体制から脱却し、成果主義を導入する準備を行っています。努力した人が正しく評価され、誰もが意欲次第でステップアップできる社風へと変えていきたいと考えています。
また、弊社の社員は80%以上が女性なので、女性が活躍できる環境の構築は急務だと感じています。特に女性幹部を増やすことが重要な課題です。そして何より、弊社の中核をなす存在である「製造」と「販売」に携わる社員をしっかり支える組織構造であることが大切です。
弊社の今があるのは、製造と販売に携わる社員たちが長年にわたって漬物をお客様に届けてきた成果といえます。だからこそ、管理職や役員が製造と販売に携わる社員を支え、これからも漬物作りに向き合える環境を維持していく必要があるのです。
ーー人材育成について、今後の方針を教えてください。
青木茂夫:
社員の積極的な成長を促すために、教育制度を充実させていきたいと考えています。また、人事制度改革を進めて、社員自身が成長を実感しながらキャリアを築ける環境を目指していきたいです。
私が社員たちに伝えたいのは、弊社には長年愛されてきた老舗漬物店として、お客様に漬物で笑顔を届け続ける使命があるということです。
「商品を通じてお客様に笑顔を届ける」という弊社の存在意義を大切にしながら、一方、社内では自ら人間的な成長をしていける人材を育てていきたいです。それを会社としても大いにサポートしていきたいです。
広がる未来への挑戦!組織として新たなステージへ踏み出すには
ーー今後の経営方針やビジョンについてお聞かせください。
青木茂夫:
基本的には、弊社自慢の安心、安全、美味な漬物を変わらずお客様にお届けするという基本姿勢は変わりません。そのため、店舗拡大や新商品の発表などを急ぐよりも、今の事業の中でお客様に製品と従業員を通してよりご信頼頂くことが何より大切だと考えています。
しかし、現存する店舗やブランドを基盤として、弊社の漬物の魅力を引き出す努力は怠ってはなりません。SNSやWebサイトなどで新たな層へも情報を発信していき、多くの方から「大和屋で働きたい」と思って頂けるブランドへと成長したいです。
それと同時に、社員たちが意見やアイデアを出し合えるように、風通しの良い組織への変革を進める必要もあります。社員たちがそれぞれの立場、それぞれの言葉で会社を語れるようになれば、弊社はもっと自由で熱量の高い組織へと変革していけるでしょう。
編集後記
今の大和屋守口漬総本家には、長い歴史と伝統を守る責任を背負いつつも、変化を恐れずに進む強い意志が感じられる。真摯に研鑽を続けてきた漬物の技術が、情報発信によって、どう広がっていくのか。同社の価値が社会に知れ渡る日はそう遠くはないだろう。
青木茂夫/1973年愛知県生まれ、早稲田大学大学院経営管理研究科修了経営学修士。長くスポーツ用品業界に従事した後、2022年に取締役として入社。2023年、常務取締役、2023年に同社代表取締役社長に就任。株式会社鈴波の代表取締役社長も兼務。