※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

長年、愛知県民の食卓に欠かせない存在として親しまれてきた「コーミソース」という調味料をご存じだろうか。このソースを製造しているのが、名古屋市に本社を構える企業、コーミ株式会社だ。

同社の代表取締役の川澄亮太氏は、商品の味に強い自信を持ち、そのおいしさを全国に届けたいと意欲を見せている。そのためにどのような販売戦略や展開を見据えているのか。川澄社長の取り組みと展望について話を聞いた。

家業を継ぎ、憧れの存在だった祖父の思いを今に繋ぐ。

ーー川澄社長の経歴をお聞かせください。

川澄亮太:
コーミは祖父が創業した会社で、私は3代目として会社を継ぐために新卒でコーミに入社しました。一代で会社を育て上げた祖父の存在は私の中でとても大きく、学生のころから祖父と一緒に働きたいと考えていました。

しかし、私が大学4年生のとき、祖父はがんを患いこの世を去りました。残念ながら一緒に仕事をすることは叶いませんでしたが、それでも受け継いだこの会社をさらに発展させることが自分の役割だと考えています。

1998年に入社した後は、東京営業所長や取締役営業本部長、専務取締役などを経て、2019年に社長に就任しました。ここまで長い道のりでしたが、これからも祖父と父が育て上げたブランドをより良い方向へ導くため、努力を続けていきます。

ーー社長に就任するまでの間で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

川澄亮太:
転機となったのは、大手お好み焼きチェーン企業様からのPB案件の採用連絡です。現在も継続いただいているこの案件は、私自身も知らず知らずのうちに貼っていた「社長の息子」のレッテルをはがすことができたものでした。

私は、27歳で父の指名により東京営業所の所長に赴任しました。年齢が離れているうえに、営業経験も豊富な先輩社員が多かった東京において、所長としての役割を担うことのプレッシャーと向き合う毎日でした。クライアント企業のご担当者様と協力企業の社長様と、さらには自社の開発チームと4年もの試行錯誤を重ねての成果ということもあり、その充実感は数あるこれまでの社会人経験の中でも特別なものです。私自身の自己評価も変えられたことで、見られ方も変わったように感じました。

また、社長に就任するうえで、父の支援と環境整備は非常に心強いものでした。私が社長としての責任を引き継ぐ準備がしやすいように、早めに交代を打診してくれたり、父が会長に就任したあとに1年で完全に身を引いたりと、会社を最優先に考えた行動をとってくれたのです。経営者として本当に尊敬できる行動だと思いましたね。

商品の強みはソースが主役になるほどの味わい深さ

ーー貴社の商品について、特筆すべき特徴やこだわりを教えてください。

川澄亮太:
弊社のソースの特徴は何と言っても味の深さにあります。1950年の創業以来、特に香りと味に重点を置いて品質を磨き続けており、絶え間ない努力によりソース自体が主役としても成立するほどの味わいを実現したのです。

このソースがいかに濃厚で豊潤かは、味が薄い食材と組み合わせるとよく分かると思います。特にキャベツや焼そばとの相性は抜群で、商品開発の際にはキャベツの千切りで味を確かめながら調整を重ねています。

ソースの品質には旨味成分の濃度によるJAS規格がありますが、ウスターソースの特級規格で定められている『こいくち』規格は、1974年の規格制定時に弊社のソースが他社のソースを上回る高い数値を記録したことで生まれた背景があります。これは弊社の誇りであり、それ以来「こいくちソース」は当社の看板商品となっています。

このソースはおかげさまで2024年で発売50周年を迎えました。地元に愛される味を届けるという創業者の思いは実現できたので、これからは、より多くの方に知っていただけるよう、さらなる普及に力を入れていきたいと考えています。

コーミの名を全国に広げていきながら、日本の農業を支える存在にもなりたい

ーー将来の成長を見越して、現在どのような取り組みを行っていますか?

川澄亮太:
現在注力しているのが認知度の向上です。弊社の製品は地元では広く親しまれているものの、全国ではまだ十分に知られていません。まずは東京都と愛知県を結ぶエリア、中でも東西で文化が分かれる静岡県から活動を展開していきます。現在は浜松市で、郵便局と連携した1万本のサンプリングを実施や、地元スーパーへの提案活動を展開中です。

それと並行して、国産加工用トマト(※)を使ったケチャップの開発にも取り組んでいます。国産加工用トマトは自給率が低く、多くが海外産ですが、愛知県を中心とした契約農家と協力し、100%国産の製品づくりを進めています。

日本の農業は、高齢化や人手不足、気候変動など多くの課題に直面している状態です。弊社が中心となって農家さんとの協力体制を整え、少しでも日本のトマト農家を支えられたらと思っています。

(※)国産加工用トマト:一般のスーパーで生鮮品として販売されているトマトとは異なり、トマトジュースやケチャップなどの加工品のために品種改良された特別なトマト。加熱加工することにより味わいが増し、真っ赤に完熟しているため生鮮トマトと比べるとリコピンが約3倍ほどある

ーー今後、特に注力すべきテーマをお聞かせください。

川澄亮太:
特に力を入れたいのが、新しい生産拠点の整備と品質管理の向上です。弊社は2025年7月で創業75年を迎えます。これを機にさらなる飛躍を目指しているのですが、そのためには、効率的かつ持続可能な生産体制の整備が欠かせません。長年にわたって稼働してきた工場には老朽化が進んでいる施設もあるため、移転や新設といった設備の見直しを進め、より強固な体制づくりを目指していきます。

なお、新工場はトマトの産地として知られる豊橋に設置予定で、農家と協力した生産と加工の一貫体制の構築を目指しています。今後は、親子での収穫体験や手づくりケチャップのワークショップなどの消費者が参加できるイベントも展開し、農業の価値や食の大切さを直接体験してもらいたいと考えています。

そのためには、次世代を担う人材を増やしていく必要があると感じています。新しい技術やアイデアに対応できる人材の育成を進め、伝統を守りつつも新しさを追求する文化を築いていきたいです。

編集後記

コーミソースはすでに地元で愛されている実績と、こいくちソースの規格をつくったほどの品質という、全国へ羽ばたくための要素を兼ね備えており、ここから先は川澄社長の手腕が試されるところだ。特に国産加工用トマトを使ったケチャップの生産は、日本の農業の可能性を広げる取り組みとして興味深い。この熱い思いがこもった同社の商品が全国で見られるようになるのが楽しみだ。

川澄亮太/1976年愛知県生まれ、早稲田大学商学部卒業。1998年にコーミ株式会社へ入社。東京営業所長、取締役営業本部長、専務取締役などを経て、2019年に同社代表取締役社長に就任。