
株式会社ジェイアール西日本ビルトは社名が示すとおり、JR西日本のグループ会社だ。鉄道関連はもとより、民間・公共問わずさまざまな施設の検査・設計・工事を手がけている。
同社はグループの母体が国鉄からJRへと変遷した6年後の1993年に設立されたため、旗揚げ時点から変革の潮流のもとで船出したところが、他社との決定的な違いだろう。トレンド変化がもたらした副作用ともいえる困難もあったが、そこから変革を果たした代表取締役社長兼執行役員の山本靖一郎氏に、今後の経営方針などについて聞いた。
国鉄時代からの企業体質にチャレンジ
ーーJR西日本に入社した経緯と経験を教えてください。
山本靖一郎:
私は東京の大学院で建築工学を専攻し、都市計画や街づくりの研究をしていました。その流れで建設や開発に関係する鉄道会社に興味があったことが1つです。
もう1つのポイントは、私が就職したタイミングです。国鉄からJRに経営が変わってまだ3年目でしたから、「フレッシュな会社でやりがいのある仕事ができるかもしれない」との期待から入社を決めました。
入社後はベテラン管理職の方が多くいる中、古い体質を変えて新しい組織にしていこうと、当時20代だった私たちが必死になって頑張りました。駅の大規模な改良工事をはじめ、比較的自由に望む仕事をさせてもらえたことは幸運でした。大変な思いもしましたが、新しい会社ならではの経験をたくさん積むことができました。
ーー2011年に貴社に出向した際のミッションについておうかがいします。
山本靖一郎:
弊社はもともとJR西日本の駅を中心に修繕工事を請け負う会社として始まり、一般の建設業と比べると、身内だけのこぢんまりとした組織でした。それが時代と共に検査や計画業務などもJR西日本から移管されると共に、駅ビル等の商業施設も請け負うようになり、徐々に業務範囲と人員が拡大し、現在の形になったのです。
そのプロセスの中、出向者を含むJR西日本出身の社員とプロパー社員とで意見や仕事の進め方が合わないなど、働いてきた環境の違いからくる歪みが生じていました。そこで古い企業体質を改善して社風を変えていこうというのが、私に課せられた重要任務でした。その後、問題は解消できましたが、やはり新旧スタッフの融合というのは非常に大変だったと今になっても思います。
コロナショックからインバウンドへの激変期に社内環境の整備に注力

ーー社長就任時に苦労したことをお聞かせください。
山本靖一郎:
2022年に社長に就任する直前からしばらくは、不安定要素を突きつけられるような、外部環境が定まらない時期を過ごしました。
少子高齢化社会で鉄道利用者が減っていく10年先を見据え、長期的な視野に立って経営計画を進めました。JRの仕事だけに依存せず、5%程度だった外部の仕事を増やすことも改革の柱の1つです。
ところが、計画を練った矢先にコロナショックが発生し、長期の懸念材料が一気に襲いかかってきました。これを耐えしのいだと思ったら、今度はインバウンド需要による利用客の急増です。激しい外部環境の変化を経験したことで、次になにが起きても振り回されないよう経営体制を整える必要性を感じました。
安全とコンプライアンスの遵守を前提として、施主とのコミュニケーションを大切にし、コスト低減などご要望に応えてきました。技術面では、釣り天井の落下防止対策など特許の取得にも取り組んでいます。現在、JR以外の発注が10%程度までシェアを伸ばしているのは、そうした努力の賜物ではないでしょうか。
人事面でも建設ディレクター制を検討したり、IT技術に長けた人材の積極活用により社内全体で体制を再編し、環境整備を進めている真っ最中です。
JRグループのシナジー効果でさまざまな業務が経験できる
ーー貴社の強みを教えてください。
山本靖一郎:
私たちの強みは、JRの建物を保守・管理するうえで、企画から検査まで、年間の予算計画を立て、施工して管理するという一連の業務をすべて請け負っていることです。
もう1つは安全面です。鉄道施設が多いため、お客様に施設を使っていただきながら行う工事が多くあります。スペースの半分を解放したままもう半分を改修したり、あるいは夜間に作業したりと、通常より制約の多い状況下で工事を実施しています。こうしたタイトで特殊な施工を長年の経験によって安全にスムーズに行えるのが、弊社の大きな強みだと考えます。
また弊社で働くうえでのメリットでいえば、さまざまな業種を有するグループ内で幅広い仕事に触れられますので、働く人にとって大きなプラスになるでしょう。
ーー人事面では新人社員の定着率が92%と高いですが、秘訣のようなものはありますか?
山本靖一郎:
秘訣といえるかは分かりませんが、同僚や先輩・後輩との関係を深めていくために、入社3年までの若手社員には意見交換できる研修の場を定期的に設けています。更に対象範囲を広げて、同期や年齢の近い社員同士が仕事で覚えたことや困りごとを情報共有することで、親睦を深め互いの成長を図っていきます。
また入社日に有給休暇が10日間付与される制度など、気持ちよく働いてもらうために福利厚生にも気を配っています。年間休日が120日以上と、建設業としては好待遇といえるでしょう。
ゴールデンウィークとお盆、正月はJRの工事を止めています。この時期に万が一事故が起こると乗客の方に通常以上に迷惑がかかるのを避けるためですが、働く側にとってはリフレッシュするいい休息になります。待遇面はグループの基準に沿いながら、高い水準に設定していく方針です。
ーー今後はどんな会社にしていきたいですか?
山本靖一郎:
昨年で設立30年を迎えたことを機に、より一層人を大切にする会社にしていきたいです。社員とその家族の幸せを築き、建物・設備利用者の安全を確保することに尽力していきます。
これまでの30年間に積み重ねた経験を糧に、これからの30年はITなど新しいテクノロジーを取り入れて社会ニーズに的確に対応し、ますます必要とされる会社に成長していくことを強く望んでいます。
編集後記
「営業力を高めることも大事ですが、安全性の向上には特に気を使っています」と語った山本社長。そのコメントどおり、地震による天井の落下を防ぐ装置やシステムなどで数多くの特許を取得し、安全への配慮に余念がない。ジェイアール西日本ビルトのように、表に出にくいが縁の下を支える企業の地道な努力のおかげで、私たちの日常の安全が守られていると改めて実感した。

山本靖一郎/1963年、兵庫県生まれ。早稲田大学大学院工学研究科修士課程修了。1989年、西日本旅客鉄道株式会社に入社し、大阪ステーションシティプロジェクトなどの大規模改良工事に携わる。その後、近畿統括本部次長、株式会社ジェイアール西日本ビルト常務取締役大阪支社長として工事部署のマネジメント、人材育成、技術継承、体制強化などに尽力。2022年、同社の代表取締役社長に就任。