※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

株式会社池田冷熱工業は、ダクトの設計から製造、取り付けを一貫して行っている企業だ。ダクトは空調設備の空気を室内に送ったり、室内の空気を入れ替えたりする管のことで、私たちの日常に欠かせない設備である。

家族全員で仕事に打ち込んだ創業当時のエピソードや、業務の効率化の取り組み、空調設備業界に対する思いなど、代表取締役社長の池田政浩氏にうかがった。

家族一丸となって会社運営に奔走した日々

ーーまずは創業時のエピソードからお聞かせください。

池田政浩:
私が高校1年生のときに、父がこの会社を立ち上げました。創業時は母と一緒に朝早くから夜遅くまで仕事をしていましたね。母はそれまで専業主婦だったので、大変だったと思います。

また、私たち兄弟の生活も一変しました。それまでは学校から帰ったらご飯が用意されていましたが、母が遅い時間に帰宅するようになったため、育ち盛りだった私たちは夕飯の時間まで待てず、箱買いしてあったみかんを食べるなどして、空腹を満たしていましたね。学校が休みの間は家の仕事を手伝い、我が家は仕事中心の生活になっていきました。

ーー高校卒業後はお父様の会社に入られたそうですね。

池田政浩:
両親を少しでも楽させたいと思い、父の仕事を手伝うことにしました。もともと、ものづくりに興味があったので、あまり苦労は感じなかったですね。その後、高校を中退した弟も一緒に働き始め、家族で力を合わせて会社を切り盛りしていました。昼休憩もほとんど取らずに夜遅くまで働き、土日も仕事をしていましたが、それが当たり前という感覚でした。

世代交代し業務の機械化に着手。社内の組織化により急成長

ーー社長に就任した経緯をお聞かせください。

池田政浩:
父が社長だった頃は、鉄板に墨で線を引きダクト単品図を書いて、ハサミでカットし、機械掛け、組立とすべて手作業で行っていました。このままでは人件費がかかるばかりで、一向にコストを削減できないと思い、作業を機械化しようと訴えました。

すると母から「お父さんは機械化、PC化に知識がないから無理だよ、あなたが社長になって会社運営を行いなさい。」と言われ、父にその話をしたら「そうしなさい」と言われ、社長就任を決意しました。会社を引き継いでからは、母にお金を借りながら従業員の給与や材料費を支払う状態が続き、とにかく大変でした。

入金があったら材料代の支払いに回すという自転車操業で、なんとかやり繰りしていました。経理面は妻に任せていたので、本当に苦労をかけたと思います。私は出張が必要な仕事や夜間、休日の高単価の仕事を率先して引き受け、少しでも収益を増やそうと必死でした。

ーー今では業績が右肩上がりですが、経営状態が安定するようになったポイントは何ですか。

池田政浩:
ここ10年ほどで製造や施工、CAD設計、事務など各部門の人材が育ち、私が指示を出さなくても動ける組織になりました。こうして体制を強化し取引先を増やしていった結果、収益はこれまでの倍になり、さらなる成長を続けています。これでようやく理想としていた会社の形を実現できたと実感しています。

他社との差別化ポイントとプレハブ化について

ーー改めて貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

池田政浩:
建物内の温度調整や室内の排気や給気を行う空調ダクトの設計、製造、取り付けを一貫して行っています。部材を外部から取り寄せる会社が多い中、弊社はすべて自社で製造しています。取り付けも自社で行っているため、最短で依頼を受けた翌日に商品を製造し、次の日に取り付けも可能です。これによりコストを抑えながら、短納期を実現しています。

また、CADの専任チームを持っていることも大きな強みです。お客様からいただいた施工図を3D化することで、現場でダクトが干渉しないかチェックできます。これにより製品の手戻りを防止し、こちらから改善策を提案することで顧客の信頼獲得にもつながっています。

ーー貴社ならではのこだわりの部分を教えていただけますか。

池田政浩:
弊社では15年前からダクトのプレハブ化、ユニット化に取り組んでいます。部材をすべて取り付けた状態で搬入することにより無駄な材料が発生せず、搬入コストを削減できます。現場に部品を置いておく必要がないため、きれいな状態を保てます。

さらに現場での加工作業が不要なため、怪我のリスクも減り、作業員の労働時間の短縮にもつながるのです。高層の建物ほど大きなコスト削減になるため、これから空調ダクトのプレハブ化を広めていこうと考えています。

DXによる業務の効率化と空調設備業界への思い

ーー業務改善の取り組みについてお聞かせください。

池田政浩:
現場と事務所でDXを進めています。現場ではiPadで図面や施工要領書などをチェックできるようにしています。そのため、分厚い書類を持ち歩く必要がなく、見たい資料をすぐに確認できるのがメリットです。

退勤管理はスマートフォンで行い、外出先でも報告できるようにしています。今後はヘルメットに取り付けたカメラで現場の映像を写しながら、設計図を調整できるようにしたいですね。

事務部門では業務を自動化するRPAツールの導入を進め、在庫管理や原価管理を一元化しています。これにより、今いる事務員で仕事を回せるようにし、人件費削減を目指しています。私は一石二鳥という言葉が好きで、同時に複数の作業を進め、いかに時間を短縮できるかにこだわってきました。これからも仕事の質は維持しながら、業務の効率化を進めていきます。

ーー最後に読者の方々へメッセージをお願いします。

池田政浩:
空調ダクトはマンションなどにも設置されており、みなさんの生活に密着した欠かせない製品です。その他にも食品工場や半導体工場、精密機械工場など、幅広く使用されています。空調ダクトの世界は奥が深く、知れば知るほど面白さがわかるでしょう。

昨今では、ものづくりや技術職は軽視されているように感じています。しかし、今後AIの発達により、多くのホワイトカラーの仕事が無くなるといわれています。一方で、技術者は決められた時間の中で効率的に働けば、安定した収入を得ることができます。

さらに人手不足が進んでいる技術者の需要は、今後も高まっていくでしょう。建設業は「きつい、汚い」というイメージがあるかもしれません。しかし、技術の進歩により効率化が進み、職場環境は大きく改善されています。今こそ建設業の技術職に目を向けてみてください。

編集後記

父から会社を引き継ぎ、業務の効率化を進めてきた池田社長。自ら先陣を切って改革を押し進めてきたからこそ、今の同社の成長があるのだと感じた。株式会社池田冷熱工業は業務の効率化でコスト削減と働き方改革を実現し、空調設備業界に大きな変化をもたらすことだろう。

池田政浩/1962年福岡県生まれ。62歳。高校卒業後、父親が起業した会社に入社。設計、施工図作成、製作から現場での取付工事に携わる。1990年に法人化し、1994年に代表取締役社長に就任。