
高度経済成長期以降、日本のお酒の需要増加とともに歩んできた株式会社吉川商店。戦後の物資が不足していた時代に始まった使用済みびんの回収事業は、現在では生活協同組合連合会(以下生協)との連携による回収システムを構築して、醤油メーカーなどの取引先拡大につながっている。
さらに、使い捨て容器削減のニーズに応え、量り売り店やイベント等でのリユースカップ事業も展開する同社。今回は、環境負荷低減に向けた取り組みを重ねる同社の歩みについて、代表取締役社長の吉川康彦氏に話をうかがった。
戦後の容器不足から始まったびん回収事業
ーー創業のきっかけについて教えてください。
吉川康彦:
弊社は祖父の代から続くガラス容器などの卸売会社で、戦後に私の叔父が戦地から帰ってきて始めたケチャップやソースの製造に端を発しています。当時は新しい容器の製造が少なく、びんが全く不足している状況でした。そこで使用済みびんの回収を始めたのが、現在の洗びん事業のきっかけとなったのです。当時は大阪の酒造メーカーなどと取引し、少しずつ事業を広げていきました。
ーーその後の事業展開についてお聞かせください。
吉川康彦:
高度経済成長期に入ると、お酒の需要が急激に増えていきました。それに伴って容器の需要も高まり、弊社が中心となってその供給を担うようになったのです。私が物心ついた頃には、大阪の実家に木箱に入ったびんが山積みになっているような状態でした。
また、当時は季節によって需要と回収のサイクルがはっきりしていました。燗酒(かんざけ)が中心であったため、お酒の消費が10月以降の冬場に集中し、夏場はお酒を飲む人が多くありませんでした。
そうした傾向もあり、年末まで販売したお酒のびんが、年明けから春にかけて当社に返却されるというサイクルが確立されていったのです。その後、時代が進むと紙パックなども登場し、業界全体が大きく変化していく中で、弊社も事業の形を少しずつ変えていきました。
生協との連携で広がる環境配慮型ビジネス

ーー貴社の事業内容について教えてください。
吉川康彦:
弊社の主力事業は一升瓶などの使用済みのびんを買い取り、洗浄して販売を行うびんのリユースです。近年特に取引が増えているのが量り売り店さんですね。環境意識の高い量り売り店さんとの取引は、弊社の事業にとって重要な位置を占めています。以前は使い捨てだった容器を、リユース可能なびんに切り替えていただき、広口瓶を洗浄する仕組みを構築しています。
ーーリユースカップ事業についてもお聞かせください。
吉川康彦:
最近では、ニーズを受けて多くの企業で使い捨ての紙コップからリユースカップへの切り替えを実施しているようです。外資系企業は特に環境意識が高く、紙コップの使用を控える動きが出てきているのです。弊社では、そうしたニーズに応えるべく、環境に配慮したイベントに出店する団体様に対して、リユースカップの貸し出しなどを行っています。
リユースカップについては、今後の成長が期待できる分野なので、弊社の経験とノウハウを存分に活かしていきたいと考えています。
さらなる環境負荷の低減を目指す、サステナブルな取り組み
ーー貴社ならではの強みについて教えてください。
吉川康彦:
弊社の大きな強みは、在庫に十分な敷地を持っていることです。大型トラック車が数台同時に出入りできる規模の倉庫が複数あり、この規模感がびんの安定供給を可能にしています。狭い土地ではびんを保管しておけるスペースが少なく、急な需要増に対応できないケースも出てくるでしょう。
しかし、お酒をつくりたくてもびんが足りないという事態は避けなければなりません。弊社では、そういった事態を防ぐために在庫をしっかりと確保できる環境を整えています。
また、日本は器用に変化に対応する一方で、伝統的な価値を見失いがちな面があると感じています。たとえばフランスのワインびんは形状が変わらず、むしろそれが伝統となり価値を高めているのです。私たちはびんの安定供給を通じて、そういった伝統的な価値も守っていきたいと考えています。
ーー環境への取り組みについてはどのようにお考えですか?
吉川康彦:
現在、太陽光発電を導入し、自然エネルギーの活用を進めています。まだ十分に活用できているとはいえませんが、今後はより一層発展させて、環境に配慮した洗びん作業を目指していきたいと考えています。また、輸送面での環境負荷の低減も重要な課題です。
過去にドイツのフライブルクが環境都市に選出されたときに視察に行きましたが、物流に馬車を使っていたのです。そうした例も参考にしながら、日本に合った方法を模索していきたいと思います。
弊社の事業は循環型で環境に優しいビジネスです。ガラスびんは新規製造に比べてリユースの方が大幅にCO2排出を抑えられます。これからも、時代の要請に応える形で、環境負荷低減の取り組みを進めていきたいですね。次の世代により良い環境を残せるように、さらなる進化を目指していきたいと考えています。
編集後記
環境配慮型ビジネスは、昨今のトレンドとして注目を集めているが、同社はそれを戦後から実践してきた。太陽光発電の活用や、リユースカップの提供など、時代に合わせた進化への努力も怠らない。持続可能な社会の実現に向けて、同社の果たす役割はますます大きくなっていくことだろう。

吉川康彦/1962年生まれ。大学卒業後、日本酒類販売株式会社に入社。1989年、株式会社吉川商店に入社し、常務取締役就任。2005年、代表取締役社長に就任。びんリユース推進全国協議会共同代表、納税協会会長などの公職を兼任。