キッチンや浴室、トイレなどの水廻り設備やガス機器、空調設備などをつなぐ管工機材は、私たちの生活を支える重要な商材である。その管工機材と住宅設備機器の販売を行っているのが、130年以上の歴史を持つ橋本総業株式会社だ。
大手鉄鋼メーカーを退職し、上場に向け奮闘したエピソードや、同社ならではの強み、大切にしている考えなどを、代表取締役社長の阪田貞一氏にうかがった。
大手企業から転職し、上場を成し遂げるための基盤づくりに奔走
ーーまずは前職の経験についてお聞かせください。
阪田貞一:
私は理系出身で大学卒業後は大手鉄鋼メーカーに入社しました。前職で特に印象的だったのは、入社後5年ほどして現場の管理者になったときの事です。若造でしたが、部下の人数も300人おりいろいろなトラブルがありました。私は責任を取るために毎回頭を丸めていました。
これは目に見える形で意思表示することで、彼らに「これ以上この人に迷惑をかけてはいけない」と思わせる気持ちからでした。今振り返ると、毎日驚きの連続でとても刺激的な日々でしたね。
ーー大手鉄鋼メーカー社員の阪田社長と橋本総業との接点は何だったのですか。
阪田貞一:
実は現会長との関係は予備校で知り合った、18歳の頃からの付き合いなんですよ。大学生になってからも会長との交流は続き、あるとき大学での研究活動の開始時刻が朝7時で、遠方から通っていた私は困っていました。
すると会長が「それなら一緒に住もう」と言ってくれたのです。大学院生のとき、一緒にアパートを借りて同居していました。卒業後、私は一般企業に就職し、会長は修業を終え、家業に入りました。それから月日が流れ、創業100周年のときに父親から会社を引き継いだ会長は、上場を目指そうと決意します。
ーーそこから阪田社長が橋本総業に入社した経緯を教えてください。
阪田貞一:
あるとき今の会長から「上場するために力を貸してくれ」と声がかかったのです。しかし、当時はひとつの会社で勤め上げるのが一般的で、ましてや大手企業からの転職は異例でした。結局会長の説得に応じ、40歳のときに転職を決意しました。
そして入社してまず驚いたのは、財務面の違いでした。それまで大手企業に務めていたため、給与は自動的に振り込まれるのが当たり前でしたが、どのように給与が振り込まれているのかを初めて知りました。
また、それまで経営幹部の一言で会社の方針が決まっていたため、明確な社内ルールがない状態でした。そこで社内規則や給与体系、人事制度などを整備していきました。こうして3、4年かけて土台づくりを進めた後、上場を果たすことができました。
情報提供、1日2回の配送体制、総合展示会の開催で他社との差別化を図る
ーー貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。
阪田貞一:
弊社は管工機材や住宅設備の流通・販売を行っている会社です。管工機材とは、水廻りや空調設備に取り付ける配管機材の総称で、天井裏や床下など、普段は目に触れない部分に設置されています。メーカーと直接取引している仕入先が700社、提携先ですと2,000社に商品を提供しています。
弊社の強みは大きく分けて3つです。ひとつは情報提供力。新商品や業界動向など、お客様に役立つ情報を積極的に伝えています。
もうひとつが、物流サービスです。1日2回の配送体制を敷き、午前中にご注文いただいた場合は、当日中に商品をお届けしています。全国で100台強のトラックが稼働しており、自社で配送センターを持っているため、配送会社のように小回りが利きます。
最後が、管工機材と住宅設備機器の総合展示会を主催していることです。前回開催した東京ビッグサイトでの展示会には、1万5千人もの方にお越しいただきました。この業界でこの規模の展示会を主催しているのは、弊社だけでしょう。
お客様から評価されるように努力し、社会に貢献。精神面の健康を維持することの大切さ
ーー社員教育で大切にしていることを教えてください。
阪田貞一:
まず何よりも大切なのが、自分からあいさつをすることですね。同じ商品を扱う競合が多い中で、人間関係づくりは重要です。関係性を築いた上で、相手にとってプラスとなる情報を付け足すことで、「この人から買いたい」と思ってもらえるのです。
価格競争には限界があるので、社員にはどうすればお客様に気持ち良く買っていただけるかを意識してほしいですね。
また、社員たちには「業界の発展に貢献し、堂々と儲けよう」とよく話しています。「自分たちが一人勝ちしよう」「とにかく商品をたくさん売って儲けよう」という考えだといつか足をすくわれてしまいます。競合他社に対しても競争相手と考えるのではなく、良きライバルと思った方が良いでしょう。
お客様に私たちの価値を認めていただき、その対価として利益を得る。その利益の一部を税金として社会に還元する。こうした好循環を生み出し、社会に貢献しようと努力する姿勢が大切だと考えています。
なお、今課題となっているのが、次の世代のリーダーを育てることです。そのために本部主導型から、自分で責任を持って実行し、結果に対して責任を取る自立型の組織を目指しています。さらに、新入社員研修以外に3年目、5年目、10年目といったキャリアステージに応じた研修を充実させていく予定です。
ーー会社を経営する上で意識している点をお聞かせください。
阪田貞一:
社員の健康維持・増進に積極的に取り組み、働きやすい職場環境づくりを強化しています。この取り組みが評価され、「健康経営優良法人ホワイト500」の認定を受けました。
健康を維持しながら働くには、特に精神面での健康が重要だと考えています。そのため、何かしら趣味を持ち、気軽に話せる相手をたくさん持つと良いと思いますね。仕事だけに生きているとどこかで行き詰まってしまうので、息抜きをする時間を持つことが大切です。
給与水準を上げて、業界の常識を変え消費者の選択肢を広げたい
ーー今後の展望についてお聞かせください。
阪田貞一:
2027年度までに売上高2000億円の達成を目指しています。この目標が達成できれば、採用強化のため月10万円のベースアップを実施し、約3年で給与水準を上げたいと考えています。月10万円上げるのに必要な金額は計12億円と、決して不可能ではありません。
また、社員たちには「次の世代につなげるために、自分たちが土台づくりをしよう」と鼓舞しています。会長も私も高齢なので、会社の地盤づくりは時間との勝負だと思っています。
さらに、管工機材や住宅設備の総合展示会の開催を今後も続け、業界の常識を変えていきたいですね。日本では各メーカーが独自のショールームを持っており、お客様が各店舗を見て回るのが一般的です。しかし欧米では問屋が主導し、複数メーカーの商品を一堂に展示しているのです。
一度で複数の製品を見られるので、お客様にとっては比較・検討しやすくなります。メーカーごとの縛りを無くし、お客様が自由に商品を選べる場を拡充できるように、専門商社としてこれからも尽力していきます。
編集後記
覚悟を決めて大手鉄鋼メーカーを退職し、組織の基盤づくりを行ってきた阪田社長。現在も総合展示会の開催や、自立型の組織をつくるための社員教育、給与アップに向けた取り組みなど、業界や会社の発展に余念がない。橋本総業株式会社は消費者が自由に製品を選べるよう、業界の改革に貢献していく。
阪田貞一/1950年生まれ。東京大学工学部卒業。1976年に新日本製鉄株式会社(現:日本製鉄株式会社)に入社。1992年に橋本総業株式会社に入社。2022年代表取締役社長に就任。