※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

職人不足・後継者不足が深刻化しているうなぎ業界。業界が抱える問題を解決しようと尽力しているのが、うなぎの卸売業を営む株式会社鯉平だ。

同社の代表取締役社長、清水亮佑氏は職人の育成にも力を入れ、業界の未来に全力で向き合っている。

日本の食文化を守るために、同社は一体どのような取り組みをしているのか。清水社長に詳しい話を聞いた。

会社を支えるステークホルダーの存在に震災をきっかけに改めて気づく

ーー入社後の印象的なエピソードを教えてください。

清水亮佑:
2011年3月11日の東日本大震災のときのことです。そのとき鯉平の社長だった父は韓国に出張中だったため「自分が何とかしなければ」という思いに駆られ、身体が勝手に動いたことを覚えています。従業員の安全確保やお得意様への連絡、仕入れの調整など寝ずに対応しました。

お客様が困っていないかとにかく心配で、震災をきっかけに私たちは本当に多くのステークホルダーに支えられているのだなと実感しました。また、有事のときに陣頭指揮をとることができたのも、今となっては貴重な経験だったと思っています。

ーー貴社の強みはどういった点にありますか。

清水亮佑:
1つは、コロナ禍や災害など、有事の際にも影響を受けにくい、うなぎという商材を扱っていることです。うなぎはもともと出前文化が根付いており、コロナ禍のデリバリー需要にもすぐに対応できました。また、うなぎは多くの人にとって毎日食べるものではないため、急に需要が減るといったこともありませんでした。

弊社は周辺にうなぎ屋の多い埼玉県さいたま市に会社があります。お客様の近くに会社があり出荷がしやすいというのは、物流面で大きな強みです。

そのほか、しっかりと指導してくれるベテランが若手の周りにたくさんおり、うなぎの丁寧な選別と高い加工技術を実現できていることも強みです。

直営店を活用して職人不足の問題解決に貢献

ーー経営者として大切にしている考え方を聞かせてください。

清水亮佑:
社員たちには何かしらの喜びを感じてもらいたいため、お金だけを目的にしてほしくありません。社員に働く目的や会社の使命を意識してもらうためにも、経営理念の唱和などを行うことは大切だと考えています。

また、私たちは業界のために働いており、その業界を構成する最も重要な存在は「うなぎの専門店」です。専門店を継続させるために弊社があるのだと社員たちには伝えています。業界の発展と日本の食文化の継続が、私たちにとって最も大切なことですから。

ーー業界のためにどういった取り組みをしていますか。

清水亮佑:
1つが職人の育成支援です。お得意様の若い職人が弊社に来てうなぎをさばく練習をすることがありますが、失敗することも少なくありません。お客様に売れないうなぎは、弊社の直営店で形を整えて販売します。

職人はこの業界の屋台骨ともいえる重要な存在です。弊社の直営店は職人の育成を通して業界の役に立っていると思います。

当たり前のことを地道に続けることが結局は大切

ーー新規取引先の開拓や採用についてはどのように考えていますか。

清水亮佑:
新規の取引先を開拓するために、弊社が取り組んでいることは特にありません。職人の育成やうなぎ専門店の加工の手伝いなど、業界やお客様のために当たり前のことをしていると、いつの間にかお客様が増えているのです。地道で当たり前のことが結局は一番大切なのだと実感しますね。

採用に関して、弊社は大企業のように多額の費用をかけて広告をたくさん出すような戦略はとれません。そのため、たくさんの人に応募してもらうような広告活動ではなく、「あなたに来てほしい」と特定のターゲット層に届くような活動が必要だと考えています。

この方法は弊社に合っており、実際に20代や30代の若手社員が社内にどんどん増えていますね。外国人社員の働きぶりも立派ですし、作業は外国人、接客は日本人など、適性で分けて採用を強化しています。

ーー今後の展望を教えてください。

清水亮佑:
弊社は事業規模を大きくしたり、売上を何倍にもするといったことを目標としていません。先人たちが築き上げてきた事業を継続することが、従業員やその家族、またステークホルダーの皆様の利益になると考えています。

最終的には、日本中のうなぎ屋が何かしらの形で弊社と関わっていて、弊社が業界の継続のために努力している会社だと思ってもらえている状態が理想ですね。

また、海外事業部を立ち上げて1年が経ちますが、うなぎの加工品の海外輸出も少しずつ増えています。これから業界で生き残るためには海外進出しかないので、海外への展開にも力を入れていきたいと思います。

私が会社のトップでいる以上、社員には新しい取り組みにチャレンジし続けてくれることを望みます。ベテラン社員や熟練の職人がいるからこそ若手が心置きなくチャレンジできます。若手が何か挑戦しようとしたときに、応援して支えること。これを今後も大切にしていきたいと考えています。

編集後記

過去には、若手社員が業界や会社のことを議論する「次世代経営幹部会議」を開催した清水社長。社員たちに業界や会社の状況を理解してもらい、本気で向き合ってもらいたいという熱い思いが感じられる。

今後は海外展開にも積極的に力を入れるとのこと。株式会社鯉平の活躍により、日本の食文化であるうなぎが世界中で愛される日がくるのが楽しみだ。

清水亮佑/1986年、埼玉県生まれ。中央大学法学部卒業後、大手証券会社に入社。その後、家業の株式会社鯉平に入社。2018年に専務取締役に就任、2023年より代表取締役社長に就任。