「笑顔あふれる自分らしい人生を」をビジョンに掲げる株式会社ARIA。2022年の設立以来、小児に特化した訪問看護サービスと年功序列に縛られない人事制度で急成長を遂げている。
月間2,000件以上の訪問看護を実施し、開設からわずか1年2カ月で70名以上の看護師を採用。8ヶ所まで拠点を拡大した同社は、看護師と利用者の自己実現をサポートしながら、地域医療の改革に挑戦し続けている。今回は、医療現場の課題解決に向けてまい進する、同社代表取締役の宮崎大輔氏にお話をうかがった。
SNSから始まった「理想の職場づくり」への挑戦
ーー看護師から転職し、起業に至るまでの経緯を教えてください。
宮崎大輔:
私は大学を卒業後、近畿大学病院のオペ室で3年ほど勤務しました。しかし、看護師の世界は年功序列が色濃く、この仕事をこのまま40年続けるのかと疑問を感じるようになりました。25歳くらいのときに、すでに独立している人と出会ったことをきっかけに、思い切って看護師を辞めたのです。その後は個人事業主として営業の仕事をしながら、営業会社でのマネジメント経験も積みました。
2020年ごろからInstagramやTikTokで情報発信を始め、「看護師あるある」のような動画を投稿したところ、予想以上に反響がありました。現在、TikTokのフォロワーは約4万5,000名、Instagramは約2万1,000名います。そこで気づいたのが、私と同じように不満や不安を感じている20代から40代の看護師が多いということでした。
ーー訪問看護ステーションの立ち上げを決意された理由は何でしょうか。
宮崎大輔:
正直なところ、最初から在宅医療をしようという思いがあったわけではありません。むしろ、SNSのフォロワーの方々と一緒に理想の職場をつくりたいという動機が一番大きかったですね。
看護の世界に戻るつもりはありませんでしたが、これだけ多くの人に見てもらえているのなら、SNSを活用した事業をしたいと考えました。自分自身が看護師を辞めた経験から、同じような思いを抱える看護師の方々に共感してもらえるような職場をつくりたいと思ったのです。そこで、2022年に弊社を設立し、2023年4月に「NewGate訪問看護ステーション」をスタートさせました。
子どもの成長と家族の安心を支える訪問看護
ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。
宮崎大輔:
弊社は訪問看護と訪問リハビリテーションを行っています。特徴的なのは、15歳未満の利用者が全体の7割を占めている点です。サービス自体は全年齢を対象としており、高齢者の方のがん末期ケアや神経難病のケアなども行っています。小児の分野では、医療的ケアが必要なお子さんや神経発達症のあるお子さんなどをサポートしています。
大阪はもちろん、全国的にみても訪問看護ステーションで小児の対応をしている事業所は少なく、全体の30%にも満たないのです。医療的ケアを必要とするお子さんや、発達に不安があるお子さんだけではなく、ご家族に対して、早期に介入し、家族全体を支援することで、子どもの自己肯定感を高め、将来の可能性を広げることができると考えています。
ーー利用者や関係機関からの反応はいかがでしょうか?
宮崎大輔:
非常にありがたいことに、好評をいただいております。弊社は大阪府内に6拠点あり、大阪全土をカバーできています。また、朝9時から夜22時まで対応しているため、学校が終わった後の時間帯でも利用者さまのもとへ訪問できることも喜ばれていますね。弊社はスタッフが多いため、突然の依頼や頻回の訪問にも柔軟に対応できるのが強みです。土日祝日も対応しているので、「本当に助かります」という声をよくいただきます。
また、スタッフが、1年間継続して関わったお子さんや状態が改善し訪問看護を卒業されるお子さまに手づくりのアルバムを自主的にプレゼントしたり、イベントの際に贈り物をしたりしています。このような細やかな対応も、利用者の方々に喜んでいただける要因の一つだと考えています。
訪問看護業界のリーディングカンパニーを目指して
ーー貴社の人事評価制度について教えてください。
宮崎大輔:
私たちは「笑顔あふれる自分らしい人生を」というビジョンを掲げています。これはスタッフに向けて掲げているビジョンです。自分自身が満たされ、高い満足度で働けて、はじめて利用者様を笑顔にすることができると考えています。
自身の頑張りがしっかり評価されるように、年功序列ではなく、成果に見合った報酬を得られる人事評価制度を導入しました。半年に1回、定性と定量の両方から評価を行い、昇給や昇格に反映させるのです。定量面では訪問件数や担当者数などの数字で評価できる項目を設定し、定性面では自己研鑽や利用者へのケアの質など、数字では表せない努力を評価の対象としています。
たとえば、コミュニケーション能力の向上を目指す場合は、ビジネスマナーの本を読破し、勉強会を2回以上実施するといった具体的な目標をスタッフ自ら立案してもらい、その達成度を評価に反映させています。
また、ICTの活用にも力を入れ、全スタッフにパソコンとタブレット、社用携帯を支給しました。医療業界はDXが遅れがちですが、弊社では積極的に導入を進め、利用者や医療機関とのコミュニケーションにチャットツールを使用するなど、業務の効率化を図っています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
宮崎大輔:
3年後までにはスタッフ数を現在の80名から300名程度にまで増やしたいと考えています。5年後までには訪問看護ステーション以外にも、デイサービスや保育園、学校などへ、福祉サービスを横展開させていきたいと考えています。なお、2024年12月からは相談支援事業所を開設する予定です。
最終的には、訪問看護業界で一目置かれる存在になりたいですね。規模だけでなく、社会的価値や影響力においても、大手企業と肩を並べられるように成長していきたいと思います。そして、より多くの医療従事者が自己実現を果たせる職場を広げていくことが私の夢です。
編集後記
看護師からの転身、SNSでの発信、そして経営者へ。宮崎社長の歩みは、まさに時代の最先端を行く。しかし、その根底にあるのは「人を大切にする」という、普遍的な価値観だ。小児に特化した訪問看護や、看護師が輝ける職場づくりなど、すべての取り組みが「人」を中心に設計されている。SNSのフォロワーとの対話から生まれた理想の職場が、これからも人々を笑顔にしていくことだろう。
宮崎大輔/1993年、大阪府生まれ。近畿大学附属看護専門学校卒業。近畿大学病院に入職し、3年間のオペ室勤務を経て、個人事業主として独立。営業代行として経験を積むほか、営業会社で組織マネジメントを経験し、2020年よりInstagram、TikTokなどで情報発信を開始。その後、2022年に株式会社ARIAを設立し、代表取締役に就任。現在は訪問看護事業に注力している。