
企業や個人の健康リテラシーの向上と行動変容を促し、予防医療の普及を目指す株式会社リンケージ。オンライン禁煙支援からフェムテック、メンタルヘルスケア、さらには心臓突然死のリスクの見える化まで、多岐にわたるサービスをBtoBで展開し、企業の健康経営をサポートしている。ヘルスケア業界に革新をもたらす同社の代表取締役社長CEO、生駒恭明氏に、事業の核心と今後の展望を聞いた。
不動産業界からヘルスケアの道へ
ーー社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
生駒恭明:
大学卒業後、家業の関係で不動産の勉強をする必要があり、不動産仲介の会社に1年ほど在籍しました。そこで不動産マネジメントの基礎は学べましたが、本当に自分がやりたかったことは何かを考え、当時第二新卒採用を行っていたプライベートエクイティ(PE)ファンドという企業を買収して企業価値を向上させる会社の門を叩きました。戦略コンサルの出身者やMBAホルダーなど経験豊富な方が多い中、社会人経験1年程度の私にとっては、非常に鍛えられる環境でした。
ーーヘルスケア分野に進まれたきっかけは何だったのでしょうか。
生駒恭明:
祖父が産婦人科医、父が歯科医という医療家系で育ったこともあり、元々ヘルスケア分野には関心がありました。ヘルスケアにコミットしている理由は、迷いなく売上を伸ばせるから。売上を伸ばすことが必ず誰かunhappyな人がhappyになることに繋がっているはずだと信じられるからです。
予防から始まる健康経営の未来

ーー貴社の主要な事業内容について教えてください。
生駒恭明:
弊社は、企業向けに予防医療に関するサービスを提供しています。具体的には、オンライン禁煙プログラム、女性の健康課題をサポートするフェムテックサービス、メンタルヘルスケアサービスなどです。そして、世界でも珍しい「心臓」を専門とした画像診断センターであるCVICグループをグループに加え、心臓突然死のリスクを早期発見する取り組みも進めています。
これらを通じて、働く人々が直面するほぼ全ての疾患を予防できる、プラットフォームの構築を目指しています。
ーーオンライン禁煙プログラムについておうかがいできますか。
生駒恭明:
弊社が提供するオンライン禁煙プログラムは、企業向けサービスの中でトップクラスのシェアを誇ります。トップシェアを維持できる理由の1つは治療完了率の高さです。通院型の禁煙外来では治療完了率が3割程度のところ、弊社のプログラムでは95.5%の方が治療をできています。また、オンラインでいつでも予約でき、薬も自宅に届くため、働く人にとって利便性が高いことも評価を頂いています。
禁煙に成功すれば将来の医療費が大幅に削減できるというデータもあり、健康保険組合にとってメリットが大きいと考えています。特に「チャンピックス」という治療薬の供給が再開されれば、さらに多くの方の禁煙をサポートできると期待しています。
ーー女性向けヘルスケアや生理痛体験研修についてお聞かせください。
生駒恭明:
女性特有の健康課題は、働く女性の生産性に大きな影響を与えます。しかし、婦人科検診の受診率は低く、多くの方が我慢しているのが現状です。弊社では、2020年から女性向けヘルスケアサービスとして、月経関連疾患や更年期症状まで幅広く女性特有の健康課題に対して女性自身の気づきを促し、婦人科専門医へチャット相談したり、受診までをサポートしてきました。
さらに、大阪大学の教授陣で立ち上げた大阪ヒートクール社と提携し、生理痛を疑似体験する研修を企業に提供しています。これにより、男性管理職や同僚が生理のつらさを理解し、職場環境の改善や相互理解を深めるきっかけ作りを目指しています。この研修はメディアにも取り上げられ、大手企業だけでなく中小企業や自治体、学校法人からもお問い合わせがあります。
ーー心臓画像診断サービスはどのようなサービスですか。
生駒恭明:
弊社のグループであるCVICグループは、世界でも珍しい「心臓」を専門とした画像診断クリニックグループです。他の臓器と異なり、常に拍動する心臓のMRIは高度な画像診断技術を必要としますが、大学病院や総合病院から保険診療で累計10万人を超える患者様をご紹介いただくことで、実績と経験を積み重ねてきました。心臓MRIにより、自覚症状なく長い年月をかけて少しずつ進行する心臓病のリスクを発見し、予防行動につなげることが可能になります。心臓疾患による突然死は、働き盛りの世代にとっても大きなリスクですが、その予防はあまり進んでいません。働く人が突然倒れるリスクを減らすことは、社会全体にとっても非常に重要だと考えています。
予防医療を普及させるポイントは「IT」と「体感」
ーー予防医療を普及させる上での課題は何だとお考えですか。
生駒恭明:
最大の課題は、企業側のリテラシーが不足していることです。健康経営の優先順位が他の経営課題より低く見られがちなこともあります。また、意思決定層である男性管理職が、女性特有の健康課題やメンタルヘルスの重要性について十分に理解していないケースが見られます。
弊社はそうした課題に対し、ITの力でアクセスのハードルを徹底的に下げています。具体的には、オンライン診療やLINE相談などを活用し、時間や場所を選ばずに専門家のサポートを受けられるようにしています。
また、生理痛を疑似体験する研修のように、実際に「体感」してもらうことで、リテラシーの向上と共感を促す取り組みも重要です。企業には、健康経営が従業員の生産性や企業価値の向上に繋がることを、データや事例を交えて丁寧に説明しています。
健康診断など「予防」に関して面倒だと感じたり、「オプションだから」と後回しにしたりする気持ちは理解できますが、その小さな積み重ねが、将来の健康を大きく左右します。病気になってからでは遅い、あるいは治療に多くの時間とコストがかかるケースが多いのです。弊社のサービスは、そうした「分かってはいるけど、一歩が踏み出せない」方々をサポートするためにあります。まずは気軽に相談できる窓口を知っていただきたいです。
IPOも見据えた成長戦略で描く未来
ーー今後の5年、10年を見据えたビジョンをお聞かせください。
生駒恭明:
禁煙事業は「チャンピックス」の安定供給を追い風に、より多くの方の健康と医療財政の改善に貢献していきます。また、女性向けヘルスケア、メンタルヘルス、そして心臓突然死の予防の各領域でもニッチトップを目指し、それぞれのソリューションを確立したいと考えています。特にメンタルヘルスは世界的に見ても確立されたソリューションが少ないため、最新技術を活用して新たな価値を創造していきます。
将来的には、日本で培った予防医療の知見を、高齢化が進む東南アジアなどの国々にも展開していきたいです。IPOも視野に入れ、事業成長を加速させていきます。
編集後記
予防医療は、個人の健康寿命を延ばすことはもちろん、企業や国全体の持続可能性にも関わる重要なテーマである。生駒氏の言葉からは、多様な経験に裏打ちされた事業への深い洞察と、社会課題解決への強い意志が感じられた。「企業側のリテラシー向上」と「個人の行動変容」という二つの大きな壁に対し、ITと体感の力で挑む同社の取り組みは、まさにその突破口となり得るだろう。

生駒恭明/京都大学法学部卒。祖父が産婦人科医、祖母が看護師、父が歯科医という医療家系に生まれる。MKSパートナーズにて企業再生に従事し、特にヘルスケア領域でのM&Aを通じて数多くの新規事業を創出。2018年11月より株式会社リンケージ代表取締役社長CEOに就任し、予防医療のプラットフォームの構築を牽引している。