※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

労働時間が長く、なかなか休みが取れないといったイメージが拭えない建築・土木業界。そんな中、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、残業を大幅に削減し、従業員がいきいきと働ける職場づくりを行っているのが、有限会社大田原工業だ。

土木業界に入ったきっかけや、社長就任を決意したときのエピソード、働きやすい環境づくりへの取り組みなど、代表取締役の佐藤亮太郎氏にうかがった。

高校を中退し、先輩の背中を追って仕事に明け暮れる日々

ーーまずは貴社に入社した経緯についてお聞かせください。

佐藤亮太郎:
高校に入ってから上手くなじめず、それならばいっそ学校を辞めて働きに出ようと、就職活動を始めました。高校を出ていなくても雇ってもらえる仕事を求めて、職業安定所で地元の建設業を探しました。そこで弊社の求人を見つけたことがきっかけです。

ーー実際に入社してみてどのように感じましたか。

佐藤亮太郎:
右も左もわからず、親方に言われた通りにただがむしゃらに働いていましたね。当時の親方たちは「背中を見て覚える」という教育方針でした。そのため、目の前の作業に集中しなければいけませんでした。だからこそ技術を身につけられたのでしょう。今となっては良かったと思っています。

現場作業が性に合っていたようで、仕事がきついと思ったことはあまりなかったですね。それから少しずつ責任のある仕事を任せてもらえるようになり、やりがいを感じるようになっていきました。

ーー社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。

佐藤亮太郎:
当時は工事部長として、現場管理を担当していました。そんな中、現会長から「もう私は第一線から退き、若い力で会社を盛り上げていってほしい」と相談を受けました。そのときは自分が社長になるなんて考えてもみなかったため、非常に驚きましたね。

入社当時は10人以下だった従業員も、その頃にはある程度増えていたため、従業員とその家族の生活が自分にかかることを考えると簡単に答えを出せず、1週間ほどじっくり悩みました。その後、役員会議で当時の役員全員からも打診を受けたので、引き受けることを決心したのです。

ーーそれまでと比べて社長に就任してからの業務に、どのような違いを感じましたか。

佐藤亮太郎:
現場仕事しかしてこなかったため、知識不足から最初は本当に恥ずかしい思いをたくさんしましたね。ただ、従業員とは長年一緒に働いてきたこともあり、社長就任後も関係は良好なままでした。

経営者は従業員と一定の距離があった方がいいと考える方もいると思います。しかし、私にはそのスタンスは合わないので、従業員たちとは分け隔てなく接しています。社長と従業員という関係性ではなく、一緒に働く仲間のような感覚ですね。

即日対応と一貫施工で顧客の信頼を獲得

ーー改めて貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

佐藤亮太郎:
私が入社した頃、弊社は建築会社の下請けとして、主に足場の組み立てや基礎工事を行っていました。その後、土木工事業に参入し、現在は住宅地をつくる宅地造成工事をメインに手がけています。

弊社の強みは、機動力の高さです。お客様からのご相談には、即日対応を心がけています。たとえば大雨による被害が発生した場合、夜中でもすぐに現場に駆けつけます。それがお客様の安心感につながっていると思いますね。

もうひとつが、自社で一貫してすべての工事を請け負っている点です。宅地造成工事には土木、大工、設備などさまざまな事業者が関わるのが一般的ですが、弊社はすべて自社で対応しています。これにより品質管理がしやすく、納期を短縮でき、さらにコストも抑えられるため、お客様から高く評価していただいています。現在は主に既存顧客の依頼を請け負っていますが、今後は新規案件も獲得していきたいと考えています。

ーー人材育成はどのように行っているのですか。

佐藤亮太郎:
若手に経験を積ませて、ベテランがサポートする体制をとっています。ベテランがしっかりとフォローし、経験が浅い人でも安心して働ける環境が整っています。そのため自動車の整備士や介護士など、異業種から転職してきた未経験の人も活躍していますよ。

従業員の働きやすさを意識した社内改革について

ーー組織づくりに関してはどのような取り組みをしていますか。

佐藤亮太郎:
従業員のセカンドキャリアをつくるため、新たに営業職を設けることを検討しています。現場仕事は体が資本ですが、年齢を重ねると体力仕事が厳しくなってくるでしょう。そこで現場仕事ができなくなった後に、新たな選択肢を提供したいと考えています。営業は現場のことを知っていた方が有利であるため、現場経験者にはうってつけだと思います。

ーー働き方改革についてお聞かせください。

佐藤亮太郎:
クラウドシステムを活用し事務作業を効率化することで、労働時間の削減を実現しています。たとえばこれまでは現場で写真を撮り、事務所に戻ってから写真の整理を行い、報告書を作成していました。しかし、クラウドシステムを使って工事写真を転送すれば、現場仕事をしている間に内勤のスタッフが作業できます。

そのため、現場作業が終わった後に事務所で行う作業が大幅に減ることで、残業時間の削減につながるのです。現場を監督する立場になっても、作業員のときと労働時間はほぼ同じです。また、評価に偏りが出ないように、人事評価制度の見直しも行っています。

弊社では安全かつ正確に作業をするため、従業員にいくつもの講習を受けてもらっています。そして業務に必要な知識と技術を習得した従業員に適切な評価ができるように、制度の見直しに取り組んでいます。

コミュニケーションを意識した組織づくりと今後の目標

ーー貴社の雰囲気について教えていただけますか。

佐藤亮太郎:
従業員の年齢層が10代~80代と幅広いのですが、休憩時間に雑談するなど和気あいあいとした雰囲気がありますね。たとえ仕事でぶつかったとしても、作業場を離れたら笑顔で会話したりして、従業員同士の仲が良いと感じています。

また、従業員の約半数が外国人実習生であるため、積極的にコミュニケーションをとるように心がけています。特に言葉を話せなくても一緒に楽しめるサッカーやボーリングなどをして交流を深めています。

また、「土木仕事は古臭くてきつい」というイメージを払拭するため、社屋を改装してデザイン性のある内装にしました。土木業界に対するイメージが少しでも良くなればと思っています。

ーー最後に5年後、10年後の目標をお聞かせください。

佐藤亮太郎:
ここ10年で従業員数が増えてきたため、仕事の質と技術力を高め、利益率の向上を目指したいですね。従業員はあまり増やすつもりはなく、海外実習生と日本人従業員の割合を4:6から8:2くらいにしたいと思っています。

求める人物像としては、真面目で謙虚な人がいいですね。一生懸命に努力する姿勢は、どんな仕事でも大切だと思います。そして5年後までには、お互いを高め合い、成長できる環境にしたいと思います。同じ志を持って働く仲間同士が高いモチベーションを維持して働ける職場を目指していきます。

編集後記

高校生活に馴染めず、逃げ場を探すように入った会社で、経営者となり先代から事業を引き継いだ佐藤社長。業務の効率化を進め、現場で働けなくなったその後のキャリアについて検討するなど、従業員思いであると感じた。地元で厚い信頼を得る有限会社大田原工業は、これからも従業員とともに、さらなる成長を遂げるだろう。

佐藤亮太郎/1981年、千葉県生まれ。1998年に有限会社大田原工業に入社。その後2011年に取締役工事部長に就任。2020年に代表取締役社長に就任。現在は格闘技やサッカーチームを始め、地域の若い力を応援する活動にも積極的に取り組んでいる。