※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

電力会社の燃料運用計画、化学メーカーのプラント稼働計画、製紙会社の原材料輸送にかかる配船計画。これらのプランニングは膨大な要素が複雑に絡み合うため、社会基盤を支える大企業であっても、特定の社員の職人技に頼っているのが実情だ。

株式会社ALGO ARTISの代表取締役社長 永田健太郎氏は、社会基盤を支える企業が抱える、複雑かつ属人的な計画立案の解決に向けてに正面から取り組むビジネスを展開している。社会基盤の最適化を目指す永田社長に、ソリューションビジネスの展望をうかがった。

顧客から聞く話の中にこそ真の課題があり、新たな事業の糸口がある

ーー起業するまでの経緯をお聞かせください。

永田健太郎:
大学院の博士課程まで宇宙物理学を学んでいましたが、いったん学者の道に区切りをつけ、次第に社会に貢献できる仕事に就きたいと考えるようになりました。

2008年にコンサルティング会社に入社したものの、リーマン・ショックの影響で2年目で退社し、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に転職しました。DeNAに12年間在職し、2017年からスピンオフするまでの4年間は100社以上の企業からお話を聞く機会をいただきました。

その中で浮かび上がってきた課題に対し、AIを活用したソリューションを提供する事業に取り組むようになりました。ただ単にデータから課題を形成するのではなく、お客さまの具体的な悩みを深掘りしていくうちに新しい事業が生まれてくると感じたのです。

大企業からのスピンオフは事業の発展のツールになる

ーー貴社が展開している事業を具体的に教えてください。

永田健太郎:
弊社のお客さまは、電力会社や製造業の大企業が中心です。弊社では、「ヒューリスティック最適化」というアルゴリズムを使い、大量の資源を調達する際の配船計画や、複数の製品を複数のラインで生産する際の生産計画を最適化するソリューションを提供しています。

これらの業務は多くの制約条件が複雑に絡み合うという難しい課題がありますが、驚いたことに、弊社が関わる以前は熟練の社員が職人的な技を使い膨大な時間をかけて処理していました。

弊社の最適化ソリューションの導入によって、計画立案に絡む時間の削減、属人化の解消、運用コストのカットなどにつながったのです。

ーー立ち上げの時期に大企業との取引ができたのは経営面でも恵まれていましたね。

永田健太郎:
弊社がDeNAという大企業からのスピンオフ(※)したことが、非常に大きな意味を持っていたと思います。実際、複数の電力会社さまなどとのお付き合いも、私がDeNAに在籍した頃から始まっていたので、大きなアドバンテージになりました。

スタートアップ企業には、たとえ優れたサービスを提供していても、社会的信用が不足しているために評価されないケースが少なくありません。そういう面を考えると、弊社のようなスピンオフという起業の方法をもっと積極的に活用してほしいと思います。

(※)スピンオフ:企業の特定部門を分離して別会社としてを設立すること。独立後も資本や業務提携の形で関係性が続くことが多い

パッケージ型ソリューションの確立と海外展開

ーー今後も大規模な最適化ソリューションの提供が貴社の主力になっていくのでしょうか?

永田健太郎:
弊社では、現在の主力事業を「Optium(オプティウム)」と名付けていますが、これとは別に「Planium(プラニウム)」という事業も開始しました。こちらの事業は、Optiumのようにカスタマイズされたソリューションではなく、ある程度パッケージ化したソリューションです。

具体的には、Optiumで蓄積したノウハウを活用し、パッケージ化のベースとなるプラットフォームを構築することによって、低コストかつスピーディにさまざまな産業に横展開できるようにしていこうというものです。今は化学品分野をターゲットにして開発に取り組んでいますが、今後は他分野への横展開を目指しています。

ーー今後の展望を教えてください。

永田健太郎:
まずは5年以内の上場を実現したいと考えています。そのためにも、カスタマイズ型のソリューションであるOptiumの成長は維持しつつ、パッケージ型のソリューションであるPlaniumも多くの企業に活用していただきたいと考えています。パッケージ化を図ることで大企業だけでなく、中規模の企業にも最適化のメリットを提供できるようにしたいですね。

もう一つは海外展開です。弊社が提供しているサービスは海外でもニーズのある領域ですので、着実に海外にも広げていきたいと考えています。

高い能力があっても組織カルチャーにフィットしなければ採用できない

ーーこれから貴社の事業を発展させるために必要な人材を教えてください。

永田健太郎:
弊社には、世界でもトップクラスのアルゴリズムエンジニアが在籍していますが、今後はこれに加えてソフトウェアエンジニアの確保も重要です。エンジニアの獲得競争は厳しいですが、パッケージ化も含めて事業をスピーディに拡大していくためには必要です。

もう一つ必要だと考えているのが、コーポレート人材の確保です。ここまで技術的な領域が先陣を切って成長してきましたが、次のステップを考えると、経理、総務、法務といった企業の基盤領域を固めておく必要があります。組織基盤が整備されていないと、スピーディーなビジネスの成長が難しいですから。

ーー採用において重視しているのはどんな点ですか。

永田健太郎:
個人として優秀であることよりも、さまざまな才能をもったメンバーと協働して、チームのパフォーマンスを向上させられる人材を必要としています。

幸いにも、弊社の離職率はかなり低いのですが、その理由を調べてみたところ、顧客や社会への価値提供という目的意識を共有しながら、各メンバーが自分の強みを持ち寄って互いに信頼し合って仕事の成果をあげているからであることがわかりました。メンバー一人ひとりが顧客に最高の価値を提供しようというカルチャーが根付いています。

編集後記

統計的なデータが教えてくれるのは、あくまでも全体的な傾向である。しかし、企業が日々の事業を遂行するうえで抱えているのは、個別の具体的な課題だ。永田社長はDeNAという大企業に籍を置くことで、100社におよぶ企業からそうした個別の具体的な課題を聞く貴重なチャンスを得た。

そして、その課題解決を事業化する過程でDeNAをスピンオフし、縁を大切にしながら着実に実績を積み上げている。ALGO ARTISが産業界全体の生産性向上に貢献することが期待されている。

永田健太郎/1980年神奈川県生まれ。宇宙物理学の博士号を取得後、株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)でコンサルタントとして従事。2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、事業管理やデータマイニング、ゲーム・海外・オートモーティブ事業の立ち上げに携わる。2018年にAIを活用した最適化プロジェクトを開始し事業化。スピンオフにより株式会社ALGO ARTISを設立し、製造・エネルギー・運輸産業を中心に運用計画の最適化ソリューションの導入を進めている。