※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

転職市場が活発化し、人材採用を取り巻く環境が大きく変化する中、従来の仕組みに風穴を開けるサービスを展開する企業がある。株式会社TalentXである。会社を率いる鈴木氏は、600年続く寺院の家系に生まれながら、あえて起業の道を選んだ。今やそのサービスは大手企業からも高く評価されている。レガシーな産業と言われる人材業界の常識を塗り替える挑戦の軌跡を取材した。

600年続く寺院の家系に生まれ、ゼロから起業を志す

ーーまずは鈴木社長の経歴からお聞かせください。

鈴木貴史:
和歌山県の歴史ある寺院の家系に生まれました。幼少期から、ゼロから何かを作り上げていきたいという気持ちが強くあり、600年以上続く歴史やルールの中で生きていくのではなく、自由に自分の人生を切り拓いていきたいと考えていました。具体的に言えば、公務員や大手企業で出世していく道のりよりも、起業し事業を立ち上げることに関心を抱いていたのです。

その実現に向けて、起業家を多数輩出していた大手人材会社の株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に新卒で入社しました。入社後はdodaという転職サイトの法人営業を担当することになりましたが、ITベンダーなどを中心に営業活動を行う中で、日本の採用や転職の現場で起こっているミスマッチの課題を体感する機会が増えていきました。

ーーミスマッチの課題とは具体的にどのようなものがあったのでしょうか?

鈴木貴史:
企業側は人材紹介会社や転職サイトなどの外部サービスに過度に依存している状況で、求人票だけでは自社の魅力を伝えきれていませんでした。また優秀な人材であるにもかかわらず、経歴や年齢だけで次のキャリアステップに進めない求職者をよく目にしました。そこで、「企業の社員と求職者個人を直接つなぐ仕組みがあれば、最適なマッチングが生まれるのではないか」というアイデアに至りました。

ーー創業から現在のTalentXを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

鈴木貴史:
最初はリファラル採用という発想から、人と人とのつながりを活かした転職・採用のプラットフォームを構想していました。想定したのは、利用者全員がエージェントとなり、自身のネットワークから友人や知人を企業に紹介するクラウドリクルーティングの仕組みです。

しかし、人を紹介して対価を得るには法律の壁があり、本格的に個人向けにビジネスを展開するには法改正を待つ必要がありました。そこで最初は、企業の社員が知人を紹介するリファラル採用に絞り、採用マーケティングのプラットフォームとして拡張していく前提で、法人向けの採用SaaSとして「MyRefer」を立ち上げました。

リファラル採用という新しい概念を普及させるのは困難もありましたが、その当時、人材紹介や求人メディアを使った採用手法が主流であった日本のHR市場に大手企業の事例を1社1社積み上げ、MyReferを拡大していきました。

次第にリファラル採用は優秀な人材を効率よく獲得する採用手法として市場に広がり、日本企業の61%に活用いただくまでになりました。しかし、これだけではHRのインフラとなるサービスにまで至らないと考え、複数のプロダクトがプラットフォームとしてつながるコンパウンドスタートアップの運営を決断しました。

当初の構想であった採用マーケティングのプラットフォームを目指すうえでの第二の矢として、企業の過去応募者データをタレントプールとして資産に変え、マーケティングすることで採用に結びつけるMyTalentを、第三の矢として企業が自前で採用サイトや採用オウンドメディアを作り、候補者の興味履歴をトラッキングしながら採用に結び付けるMyBrandをリリースしました。

データを起点に、リファラル採用の強みを活かした採用マーケティングの分野でプラットフォームを拡張し、企業が外部のサービスに依存するのではなく、自社採用力を強化できるMyシリーズの開発を進めたことで、それぞれのシナジーで複利成長をもたらす成長事業に進化させることができました。

リファラル採用を起点にサービス開発を続け、国内大手企業からも高い評価を得る

ーー貴社の事業概要から具体的な強みまで教えていただけますか。

鈴木貴史:
TalentXでは、従来のMyReferに加えて、企業が優秀な人材を効率的に獲得できるサービスを展開しています。採用ブランディングやタレントマーケティングなど、採用手法を広くカバーできるプラットフォームを目指しています。

現在では、大手自動車メーカー、大手総合電機メーカー、大手広告代理店、大手コンサルファームなどをはじめ、日本を代表する大企業に導入いただいています。大企業に高い評価をいただいている点が大きな強みではないでしょうか。

ーー貴社ではどのような人が活躍していますか。

鈴木貴史:
「走りながら考える」人材が活躍しています。新サービスを次々に生み出す当社では、与えられたKPI(重要業績評価指標)を単に消化するだけの人材より、自ら課題を見つけ出し、考え、行動することが求められます。明確なWillや思いをもち、自らを奮い立たせる原動力と十分なポテンシャルを兼ね備えていることが大切だと考えています。

HR領域の歴史を塗り替えるような価値創造を通じて、目指すは時価総額1兆円

ーー10年後の展望について教えてください。

鈴木貴史:
弊社が目指すのは、人事や採用に特化したHR(人事)テック企業の枠を超えた挑戦です。現在、日本の労働人口が社会問題化されていますが、日本の転職市場は年間転職者数300万人程度であり、この少ないパイを多くの企業で取り合っている状況が続いています。このようななか、人材紹介や求人メディアといった既存の手法で競合と「戦う採用」をするのではなく、転職の潜在層から「戦わない採用」を推進していきます。

大手人材会社がこれまで作ってきたゲームのうえで戦うのではなく、企業が自前で採用マーケティングを行う新しい市場を創出して将来的には時価総額1兆円の企業を目指し、既存の大手人材会社が作った市場をゲームチェンジしていきたいと考えています。単なる既存事業の延長線上や売上を追うのではなく、HRテック領域の歴史を塗り替えるような全く新しい価値創造を通じて企業価値を向上させていきます。

そのために現在は人材採用にも積極的に取り組んでいます。走りながら考え、自らを成長させ続ける人材こそが、弊社の未来を切り拓く原動力になります。将来を担う仲間をお待ちしています。

編集後記

人材業界の常識を覆す革新的なサービス開発を通して成長してきたTalentX。創業からわずか数年で日本を代表する大手企業に評価され、着実に基盤を築いてきた手腕に驚かされた。

鈴木氏の言葉は、世の中に新たな価値を生み出し続けようとするスタートアップ精神の迫力に満ちている。時代の変革期に向けて、どんな新しい可能性がTalentXから生み出されていくのだろうか。10年後には時価総額1兆円を超え、リクルートやパーソルグループを凌ぐビジョナリーカンパニーを実現するという壮大な挑戦はここからが正念場だ。

鈴木貴史/1988年、和歌山県生まれ。株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)にて、HRTech領域の新規事業開発に従事。2018年に株式会社TalentXを設立し、代表取締役社長CEOに就任。採用マーケティングプラットフォーム「Myシリーズ(MyRefer, MyTalent, MyBrand)」として全国1,000社の企業の採用を支援。2019年、経済産業省後援「第4回HRテクノロジー大賞」採用部門賞、日本の人事部「HR Award2019」を受賞。2021年、東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。著書『戦わない採用 | リファラル採用のすべて』