
納棺師という専門性を軸に、葬儀のあり方に新たな価値を提案するディパーチャーズ・ジャパン株式会社。同社は、納棺師が葬儀全体をプロデュースする「おくりびとのお葬式」を展開し、故人とご遺族の最期の時間を丁寧に紡いでいる。
関連会社では、アジア各国での技術指導経験を活かした教育機関「おくりびとアカデミー」を運営し、納棺師の育成にも注力している。今回は、北海道エリアや関東・関西エリアで、事業を展開し、変わらぬ思いで質の高いサービスを提供し続けている、同社代表取締役の木村光希氏に話をうかがった。
父の背中を追いかけて選んだ、おくりびとの世界
ーー納棺師という仕事を選んだきっかけはどのようなものですか。
木村光希:
私はもともと父親が納棺師で、いわゆる「おくりびと」の仕事をしていました。父のお弟子さんが家に住み込んで、父から技術の指導を受けている姿を見て育ちましたが、納棺師という仕事を理解したのは、中学生時代の、曽祖母の葬儀のときでした。そのときに、父の仕事ぶりを目にして感銘を受けたことがこの仕事に就きたいと思ったきっかけです。
大学時代に、父の会社でインターンとして納棺師の仕事を始めました。昼は大学、夕方はサッカー、夜は納棺師という生活を送る中で、この仕事の素晴らしさを実感したのです。ご遺族からの感謝のお言葉や、故人様を安らかな表情にすることに大きなやりがいを覚えました。ただ、同時に課題も感じていました。
ーーどのような課題を感じたのでしょうか?
木村光希:
課題は主にふたつあり、ひとつは納棺師の育成方法についてです。当時は古い徒弟制度のように「現場に出て体で覚える」という教え方が主流で、理念や心の部分、体系的なカリキュラムやマニュアルなどが欠落していました。これでは非効率ですし、師匠によって弟子の育ち方も変わってきます。より良い納棺師を育成するためには、教育の質の向上が必要だと感じました。
もうひとつは、ご遺族と関わる時間の短さでした。納棺師の仕事は基本的に葬儀会社から依頼をいただくため、一連の儀式が終わるとすぐに他所へ移らねばなりません。故人様やご遺族と深く関わることが難しい状況に、常にもどかしさがありました。もっとご遺族との信頼関係を培い、より良いお別れとするために、納棺師の役割に深さと幅をもたせてゆく必要性を強く感じたのです。
確かな技術と心を兼ね備えた丁寧な葬儀づくり
ーー会社を設立した経緯や事業内容について教えてください。
木村光希:
2013年に独立し、納棺師の技術を教える株式会社おくりびとアカデミーを設立しました。当時、中国や韓国、台湾、マレーシアなどで納棺師の技術指導を行っていたため、そこで蓄積したカリキュラムやマニュアル作成のノウハウが活きています。
その後、2015年に弊社を設立し、葬祭ブランド「おくりびとのお葬式」を立ち上げました。これは納棺師が葬儀全体をプロデュースするというものです。一貫してご葬儀に関わることで、単に知識や経験だけでなく、故人様の様子の変化に対する深い知見を有していることでも安心できるご葬儀を提供しています。
なお、「おくりびとのお葬式」という名前は、父が映画「おくりびと」の技術指導を務めたご縁や、私どもがこの呼称の商標をもっていることなどからつけさせていただきました。
ーーめざしている納棺師のあり方とはどのようなものですか?
木村光希:
納棺師のクオリティとは、コミュニケーションと対話能力、そして知識と技術、最後に心の部分で成り立っていると思います。まず、コミュニケーションと対話の能力とは、ご遺族としっかりと対話し、ニーズを丁寧に汲みとってご遺族が納得できるサービスをご提案できる力です。また、知識と技術面では、ご遺体への処置、メイク、着付けなどの高い技術と知識を習得する必要があります。
しかし、これらのバランスが整っていても、ご遺族や故人様と向き合ってゆく中で、自分自身の心が不安定になってしまってはプロとして失格です。自分の心の維持も含めて、安定したサービスを提供するためにも、心の部分が必要です。「自分の家族に不幸があったときに、弊社のスタッフに依頼したいと思えるか」を常に考え、100%のサービス提供を心がけています。
「より良いお別れ」を通して、より良い社会に貢献する

ーー今後の目標や展望を教えてください。
木村光希:
現在、北海道の札幌市、函館市と、関東圏、関西圏に直営拠点を展開しています。札幌では2024年11月に6店舗目がオープンし、地域を絞ったドミナント戦略で事業を拡大しています。今後5年間で、主要都道府県への出店をめざし、ゆくゆくは日本中の方が私どものサービスを利用できるような状況をつくりたいと考えています。
組織として大きくなっていくと、クオリティの担保が課題となってくるため、より良いサービスを提供していくためにも、教育制度だけでなく、バックオフィスやコールセンター、マーケティング部門などの層も厚くしていく方針です。現場のスタッフがより働きやすく、より成長できる環境がつくれるように、社内制度の見直しにも取り組んでいきます。
私たちは「より良いお別れが、より良い社会をつくる」と信じています。良いお別れができれば、残された人の人生も良い方向に変わっていくと思うのです。自分の大切な時間をこの経験に投じたいという方、この理念に共感し、ともに成長していきたいという方に入ってきていただけたら嬉しく思います。
編集後記
納棺師としての技術や知識はもちろん、遺族に向き合う心、そして自身の心の安定まで、すべてを100%のクオリティで提供する。その思いは、単なるサービス業としてではなく、人生の大切な瞬間に携わるものとしての強い責任感に裏打ちされている。
「自分の家族に不幸があったときに、依頼したいと思えるか」と、自らのサービスを厳しく問い続ける姿勢こそが、ディパーチャーズ・ジャパン株式会社の成長と信頼を支える原動力なのだろう。

木村光希/1988年、北海道生まれ。大学在学中に父が代表を務める納棺師の会社に入社。2013年、株式会社おくりびとアカデミーを設立し、代表取締役就任。2015年、ディパーチャーズ・ジャパン株式会社を設立。代表取締役を務め、納棺師が葬儀のすべてを担当する葬祭ブランド「おくりびとのお葬式」を展開している。著書に『だれかの記憶に生きていく』(朝日新聞出版)がある。NHK「プロフェッショナルー仕事の流儀ー」では若き納棺師として紹介された。