※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

刃物業界は、伝統的な製品が長く支持されてきた分野である。刃物の町として知られる岐阜県関市で70年以上の歴史を持つニッケン刃物株式会社もまた、長年にわたり定番製品の製造に専念してきた企業のひとつだ。

そんな中、同社は日本刀をモチーフとしたハサミやペーパーナイフといった独創的な商品の開発にも取り組み、その革新性が注目を集めている。商品開発の成功秘話、組織改革の取り組み、そしてグローバル市場への挑戦について、代表取締役の熊田祐士氏にうかがった。

職場体験が原点!刃物業界に挑む情熱

ーー入社までのご経歴を教えてください。

熊田祐士:
小学生の頃、父が経営するニッケン刃物の製造現場を職場体験で訪れたことがきっかけです。父が働く姿を見て、ものづくりに興味を持つようになり、「いつか自分もこの場所で働きたい」と考えるようになりました。大学卒業後、大手電機メーカーに7年勤務した後、ニッケン刃物に入社しました。電機メーカーで、オンリーワンの製品をつくることを学んだ経験は、現在の商品開発にも大きく影響を与えています。

ーー実際に入社して、貴社に対してどのような印象を持ちましたか?

熊田祐士:
入社して驚いたのは、大学4年次に卒業論文のため弊社の製造工程を調査した頃から何も変わらず、新商品の開発が進んでいないことでした。商品のラインナップが長年変化せず、定番のハサミをつくり続けていたのです。

また、社員一人ひとりは頑張っているものの、チームとしての横のつながりが薄いと感じました。活気ある職場を想像していたため、そのギャップに驚き、この状況を改善することが自分の役目だと感じましたね。

革新を形に!日本刀モチーフ製品の誕生

ーーどのような経緯で、新商品開発に着手しましたか?

熊田祐士:
入社直後、ベテランの営業担当者から「若手で新商品を考えてほしい」と依頼を受け、私を含めた3人でプロジェクトチームを結成しました。アイデアを出し合う中で、「ハサミに刃紋を入れたら格好いいのでは」という提案から、「刃紋といえば日本刀」という発想が生まれ、その場でスケッチを描きあげました。この構想が、開発部門や営業部門との協議を経て、試作品づくりへと発展したのです。

日本刀をモチーフにしたハサミは、それまで取引のなかった観光地の売店でも取り扱っていただけるようになり、この取り組みが全国規模に販路を拡大する契機となったのです。

ーーその後、さらに日本刀モチーフの商品開発を展開されたそうですね。

熊田祐士:
その成功を受けて、より日本刀らしい形を再現したペーパーナイフの開発も手掛けました。他社商品との差別化を図るため、刃をしっかり入れる機能性と、武将の愛刀をモチーフにしたデザインにこだわり、丁寧につくり込んで商品化したのです。

岐阜県関市の刃物が持つブランド力を基盤に、多くの企業がさまざまな商品を考案していますが、弊社では機能的な価値と、所有する喜びやワクワク感といった情緒的価値を組み合わせた商品づくりを大切にしています。

働きやすさを追求した組織改革の実践

ーー組織改革に向けてはどのような取り組みをしましたか?

熊田祐士:
社内の人間関係を重視し、日々の声掛けやチームワークづくりを通じて社員一人ひとりのモチベーションを高める取り組みを進めた結果、働きやすく明るい職場環境が整いました。また、「業績評価制度」を導入し、目標設定や評価基準を明確化することで、社員が自身の成長を実感できる仕組みを構築し、意欲の向上につなげています。

また、社員旅行などのイベントを通じて、職場の一体感を高めることにより、社員同士が自然に協力し合い、楽しみながら働ける環境が生まれました。さらに、年間休日を15日間増やすことで、社員がリフレッシュしやすい環境づくりにも取り組むなど、これらの施策を通じて、社内全体の働きやすさとモチベーションの向上を実感しています。

ーー貴社の採用において、重視している点を教えてください。

熊田祐士:
弊社では中途採用が採用全体の9割を占め、刃物業界の経験者だけでなく、未経験から成長した社員も多くいます。新しい世代の方々が「ここで働きたい」と感じる会社を目指し、ワクワクする商品づくりに挑戦し続けたいと考えています。

日々の業務を通じて実感するのは、謙虚さと向上心を持ち、常に成長したいという意欲のある人が、周囲と協調しながら着実に成果を上げているということです。こういった方々に仲間として加わっていただき、ともに成長する企業を目指したいと考えています。

オンリーワンの刃物で海外市場へ展開

ーー今後の中長期的な目標についてお聞かせください。

熊田祐士:
日本刀をモチーフにしたハサミやペーパーナイフ、そして近年発売した機能性とデザイン性を追求したハサミは、欧米市場において大きな可能性があると確信しています。展示会への出展や日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援を活用し、これらの商品を欧米市場へ展開していく計画です。

また、今年から自社工場で生産を始めた爪切りにも大きな可能性を感じています。日本製ならではの切れ味の良さを武器に、欧米をはじめとする未開拓の地域へ積極的に展開していく予定です。従来の定番製品の枠にとらわれないデザインと付加価値を備えた「ニッケン刃物らしい」と評価される爪切りの開発を通じて、さらなる市場拡大を目指しています。

最近では、ありがたいことにお客様から共同開発のご提案をいただく機会が増えており、「ニッケン刃物だからこそ一緒に取り組みたい」と評価していただける企業様との協業を、今後さらに増やしていきたいと考えています。

編集後記

70年を超える歴史を持つニッケン刃物株式会社。日本刀モチーフのハサミやペーパーナイフといった独創的な商品開発に挑む熊田社長の姿勢には、刃物業界に新しい価値を創造しようとする強い意志が感じられた。

社員一人ひとりが生き生きと働ける組織づくりと、日本の伝統的な刃物文化を現代的にアレンジした商品で新規販路を開拓し、グローバル展開を目指す同社。その挑戦的な取り組みは、これからも多くの驚きと感動を私たちに届けてくれるだろう。

熊田祐士/1984年岐阜県関市生まれ。幼少期から父の働く姿に触れ、ものづくりと会社経営に憧れる。大学卒業後、大手電機メーカーに入社し、品質保証部と調理家電の企画開発部にて7年間勤務。30歳で退社後、家業のニッケン刃物株式会社に入社。2018年、代表取締役に就任。独創的な自社ブランド商品の開発を進めるとともに、国内の新たな販路の開拓やグローバル市場への挑戦に注力している。