※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

国内に3社しかないといわれている、アキュムレータ(蓄圧器)開発のパイオニアであるNACOL株式会社。国内マーケットの50%を占め、高い技術力で定評のある同社は、総合水圧機器のトップメーカーを目指して製品開発に邁進している。同社の代表取締役社長、杉村登夢氏に、新事業にかける抱負などをうかがった。

独自性の高い産業用アキュムレータにより国内市場で約半分シェアを確保

ーー貴社の事業について教えてください。

杉村登夢:
弊社のメイン製品であるアキュムレータは、水や油のエネルギーを気体のエネルギーに変換して蓄えておく装置です。「蓄圧器」とも呼ばれ、油圧アキュムレータは大きな動力が必要な機器には欠かせません。身近なところでは、アイドリングストップ運転や油圧ショベルなどに使われています。

主な取引先は重機メーカーや自動車会社であり、弊社は国内の産業用アキュムレータ市場で約50%のシェアを占めています。

ーー貴社の製品の強みはどんな点でしょうか?

杉村登夢:
弊社が製造するアキュムレータは、世界的に見ても他に類のない独自の構造を持ち、お客さまにとってメンテナンスしやすいようにつくられています。それが弊社の強みです。

出来合いのパーツを仕入れて組み立てているメーカーもありますが、弊社はお客さまが求める製品をデザインし、素材から製品まで一貫して自社で生産しています。1955年の創業以来、さまざまなニーズに応えるために積み重ねてきた特許の件数は、600件にのぼっています。

培った技術力を結集してアクアドライブシステム市場の開拓を目指す

ーー現在、注力している事業について教えてください。

杉村登夢:
これまでの油圧事業に加えて、水で機械を動かすアクアドライブシステム事業にも取り組んでいます。油圧アキュムレータで培ってきた技術力を活用しています。水圧によるシステムは、環境保全との親和性が高く、衛生面で管理に優れているなどの特性があります。こうした特性を活かすことで、異なる領域に進出していく計画です。

具体的には食品、医療機器、医薬品、化粧品、水中での作業が必要な分野や、防爆・防火機能が求められる分野などが考えられます。すでに複数の案件が動き出していますが、弊社が想定していなかったニーズも出てきており、手応えを感じています。

ーー水圧事業に進出した理由は何ですか?

杉村登夢:
油圧用アキュムレータの市場はほぼ飽和状態です。そのため、新しい領域へと事業の幅を拡張していく取り組みが必要だと思っています。

水は錆発生や潤滑性不足などの課題があるため、水圧を使って機能するシステムに積極的に参入しようとする企業は多くありません。弊社としては、この分野のパイオニアとなり、アクアドライブシステムのマーケットを開拓していきたいと考えています。

ニッチなマーケットかもしれませんが、他の企業が手を出しにくいブルーオーシャンに、弊社ならではの技術力を活かして、進出したいですね。既存の事業が安定している今こそ、新規事業に挑戦する絶好の機会だと思っています。

ーー現時点の水圧事業はどのように展開していますか?

杉村登夢:
水道水で駆動するモーターに水圧ポンプ、それに方向制御弁、圧力制御弁といったカテゴリーの製品をリリースしています。動作の複雑性や制御の繊細性など、さらにレベルを上げ、水圧機器の総合メーカーを完成させるために欠けているピースを埋めている最中です。水圧マーケットが広がり、お客さまのニーズを開拓していくなかで、製品カテゴリーもアイテムも充実させていきたいと考えています。

ものづくり企業としてリブランディングに挑戦

ーー貴社が求める人物像を教えてください。

杉村登夢:
弊社は企業の下請けではなく、開発型の企業です。製品のプランや設計図、性能試験といった、ものづくりで一番重要で、かつ楽しい部分に携わることができます。新卒、中途の区別なく、ものづくりの仕事に情熱のある方が望ましいですね。

また、弊社の社員は今も昔も勉強熱心です。「この時期になったら、この資格を取得しておこう」などと、モチベーションが高く、いい雰囲気が社内に根付いています。会社としても、前向きに取り組んでいる従業員に対する支援に積極的です。

ーー将来の展望は何ですか?

杉村登夢:
会社のリブランディングを進めています。油圧アキュムレータだけでなく水圧事業のパイオニアでもある企業として、M&Aによって事業の幅を広げているところです。スタートアップのように挑戦的かつ柔軟性を持った企業への転換に挑戦しています。

2024年4月に社名を日本アキュムレータ株式会社からNACOL株式会社に変更したのもその一環です。これまでの製造業のイメージを払拭して、生産性が高く、かつ働きやすい企業であることを全面に打ち出していきます。

編集後記

新規事業の立ち上げは、必ずしも思い通りに展開しないものだが、杉村社長は既存事業の将来性と自社の経営の安定性を冷静に見極め、新規事業の決断に至った。重工業から軽工業へ、油圧機器から水圧機器へという社運をかけた大胆な転換は、まさに社内ベンチャーの意気込みが感じられるものだ。今後、NACOL株式会社の新規事業がどのような道を歩むか目が離せない。

杉村登夢/1974年、静岡県生まれ。1998年、国士館大学政経学部を卒業し、東京の商社で“猛烈サラリーマン生活”を送る。2003年に渡米、UCI(カリフォルニア大学アーバイン校)でマーケティングを学び、2006年に帰国。日本アキュムレータ株式会社(現:NACOL株式会社)に入社し、製造部、営業部を経て、2013年に常務取締役に就任。2016年より代表取締役社長。