※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

静岡県沼津市に本社を置き、自動車用の部品を製造している株式会社山口製作所。同社は、1950年の創業以来、高い技術を持った地域密着型の会社として成長を続けてきた。そして、2023年に代表取締役社長に就任した山口聖三氏により、次のステージへと歩みを進めようとしている。山口製作所に新たな風を吹き込む山口社長に、これまでの歩みや、同社のこれからの目標などを聞いた。

世界で活躍した経験を活かし、家業を次のステージへと導く

ーー山口社長の経歴をお聞かせください。

山口聖三:
山口製作所は家業ですが、私は2022年まで、まったく違うキャリアを進んでいました。私は15歳から大学卒業まで単身でアメリカで過ごし、大学を卒業後はアメリカの大手コンサルティング会社であるアクセンチュア株式会社に入社。厳しい環境の中で、経営の基礎や問題解決力などを養いました。

その後、電通グループの戦略コンサルティング会社を経てマレーシアに移住し、30歳のときに現地でイベントの企画運営やHRテックを運営するUNLOCK DESIGN INTERNATIONAL SDN BHDを創業。6年後には外部の資金調達にも成功し日本へも進出しました。

そんななか、家族から実家を整理するから戻ってくるよう連絡がありました。久しぶりに実家で父から山口製作所の現状を聞き、その大きな発展ぶりに驚くと同時に、無限の可能性を感じました。

私は、これまでの経験を活かし、「山口製作所を次のステージへと進めたい」という強い思いを抱き、社長を継ぐことを決意しました。こうして、2023年に代表取締役社長に就任し、弊社の可能性を高め、地域とグローバルをつなぐ挑戦に取り組んでいます。

ーー山口製作所に入社してから、どのような苦労がありましたか?

山口聖三:
特に苦労したのが、会社の風土を「保守的な風土」から「変化を許容する風土」へと変えることでした。山口製作所は創業75年の歴史を持つ会社であり、長年培われてきた考え方や働き方が根付いています。そのため、新しい取り組みを導入しようとすると、「これまでの方法でうまくいってきたのだから変える必要はない」という声も少なくありませんでした。

しかし、変化の激しいこの時代で成長し続けるためには、意識改革が不可欠です。私は、「組織が変わるためには、意識を変える必要があり、意識変革にはまず個の行動が変わらなければならない」という信念のもと、一人ひとりが変化を受け入れ、小さな挑戦を積み重ねる文化を醸成することに力を注ぎ、ことある度に言い続けています。

もちろん、こうした風土改革は一朝一夕にできるものではなく、時間がかかります。今も継続中です。しかし、少しずつ変革の兆しが見え始め、社員の意識や行動にも変化が生まれてきています。今後も、「挑戦・変化することが当たり前の組織文化」を定着させるべく、改革を続けていきたいと考えています。

高い技術力を武器に、地域密着とグローバル展開を両立

ーー貴社の事業内容を教えてください。

山口聖三:
弊社は、自動車部品メーカー向けに、冷間鍛造・精密切削・樹脂成形・組立を核とし、照明器部品や配管部品をはじめとする幅広い自動車関連部品を、国内外で製造・販売しています。

拠点は、静岡県沼津市の本社を中心に、国内4拠点、中国4拠点、北米2拠点(アメリカ・メキシコ)、ASEAN3拠点(タイ・インドネシア・マレーシア)の計13拠点に事業を展開しています。

グローバル市場での競争力強化、各国のニーズへの対応、現地生産によるコストや品質の最適化、サプライチェーンの強化やリスク分散などを目的に、製造・販売のグローバルネットワークを拡充しています。

ーー貴社独自の強みは何でしょうか?

山口聖三:
当社の強みとして、まず挙げられるのが「技術力」です。1950年の創業以来、培ってきた高度な技術と、それを支える熟練の技術者が大きな財産です。この強みを活かし、高品質・低コスト・短納期を実現し、取引先から高い信頼と評価をいただいています。

次に、「多様なニーズに対応できる生産体制」も重要な強みです。当社では、圧造・切削・成形・組立の4つの加工技術を1980年代からグローバル視点で進化させ、常に「世界基準の品質」製品を提供してきました。これにより、多様化するお客様の要望にも柔軟に対応できます。

さらに、「グローバルネットワーク」の存在も大きな強みです。国内外13拠点を活用し、日本・中国・北米・ASEAN地域のお客様に現地直納を実現。地域に応じた最適な生産拠点を選定することで、競争力のある価格での提案を可能にしています。

社員の可能性を引き出し、ワクワクできる会社へ

ーー今後、注力したいテーマを教えてください。

山口聖三:
現在、弊社では2030年に向けた中長期経営計画を進めており、その中で「人材採用」「管理体制」「海外展開」の3分野の強化が必要だと感じています。

まず、人材採用の強化においては、与えられた仕事に責任を持って取り組むだけでなく、自ら主体的に課題を見つけ、やり抜く力を持つ人材を求めています。指示されたことを正確にやり遂げるだけでなく、自ら考え、付加価値を生み出すことで成長していってもらいたいと考えています。

管理体制においては、現管理職や次世代管理職候補の教育を強化するとともに、同業他社や異業種で豊富な経験を持つベテラン層の積極採用を進めています。彼らの知見が多様な世代と融合することで、社内に世代を超えた相乗効果が生まれると考えています。

そして海外展開においては、世界規模で変化するニーズに対応するため、新たな国への進出を積極的に検討すべきだと考えています。「攻め」と「守り」の両輪で、現状に満足せず、常に変化と挑戦を続けることで、中長期経営計画の目標である2030年を迎えられると信じています。

ーー将来的に、貴社をどのような姿へと成長させたいですか?

山口聖三:
弊社で働いている社員たちがワクワクでき、成長していく過程を一緒に楽しめる会社にしていきたいですね。私が過去に創業した株式会社アンロックデザインという会社の名前には、アンロック(可能性を開く)という、思いが込められています。

家業を継いだ時も、今も、山口製作所には無限の可能性があると信じています。社員、組織、拠点、そして会社そのものが持つ可能性を最大限に引き出し、ともに成長できることが何よりの喜びです。そして、変化と挑戦を続ける社員や会社が、世界のロールモデルとなるような存在を目指していきたいと考えています。

編集後記

山口社長がもたらした新たな視点によって、その可能性を広げようとしている株式会社山口製作所。それが可能なのは、長年培ってきたノウハウや熟練の職人たちの存在があるからこそだ。モビリティ業界が100年に一度の変革期に突入している今、中長期計画による同社の革新がどう活きてくるのか。変化する社会へと果敢に進む山口製作所の未来が楽しみだ。

山口聖三/1983年、静岡県沼津市で誕生。1998年に単身で渡米し、ブルースターアカデミーおよび、インディアナ大学を卒業したのち、2007年に帰国しアクセンチュア株式会社に入社する。その後、2011年に電通グループの戦略コンサルティング会社に転職。2013年にマレーシアでUNLOCK DESIGN INTERNATIONAL SDN BHDを設立し、2019年に株式会社アンロックデザインとして東京に進出。2020年にシンガポールに移住するが、2022年に家業を継ぐために株式会社山口製作所に入社。2023年に代表取締役社長に就任。