※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

業務用固形燃料の製造から始まり、カセットコンロの製造、カセットボンベの充填、さらに近年では飲料水の生産や発電機の製造など、私たちの生活に欠かせないライフラインとなる製品を40年以上にわたり生み出してきた株式会社ニチネン。

固形燃料のメーカーは国内ではそう多くないというが、シェアを獲得し続けている秘策とは何か。同社の代表取締役社長である小林裕一郎氏に、社長就任までの経緯や主力商品の強み、商品の開発の源などについて話を聞いた。

多忙を極める実家を見て入社を決意

ーーニチネンの社長に就任するまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

小林裕一郎:
幼い頃から商売人の息子として育ち、いずれは家業を継ぐという意識は染みついていましたが、社会経験を積むつもりで大学卒業後は商社に入社しました。

ある日、たまたま友人がアルバイト先を探していたため実家を紹介したところ、その友人が会社が多忙を極めている状況を伝えてくれました。少しでも手助けして力になりたいと、ニチネンに戻ることを決めました。

弊社では、工場、経理、営業職などひと通りの業務を経験し、専務取締役に就任しました。創業者である先代社長に厳しく鍛えられたおかげで今に至る礎を築くことができ、大変感謝しています。先代が元気なうちに事業を継承し、重圧もありましたが優秀な従業員たちの支えのおかげでここまで勤め上げることができたと思っています。

成功の鍵は一貫生産。部品の製造からガスの充填まで

ーー主力商品であるカセットボンベは飲食業界トップシェアですが、貴社ならではの強みを教えてください。

小林裕一郎:
カセットボンベの製造メーカーは国内でも3社程度で、新規参入のしづらい市場とされています。その中でも弊社は容器である缶の製造からガスの充填までワンストップでおこなっているところが強みです。

東日本大震災のときは、ライフラインが壊滅したことから、カセットボンベの需要が異常に高まりました。缶を外注している同業他社では缶工場自体が被災し稼働がストップしたため、需要があってもガスを充填できなくなるという事態が起きました。

弊社では一貫生産しているため、同様に被災しましたが工場を止めずに済みました。毎日フル稼働で製品の供給を続け、復興への貢献につなげることができたのです。世間に対する貢献度の高い製品であり、世の中にはなくてはならない企業だと認めていただく機会になったのではと思います。

ーー新たにカセットボンベ式携帯発電機の開発もされていますね。

小林裕一郎:
もともと弊社では保管のしやすいカセットボンベを製造していたのですが、防災意識の高まりにより需要が増え、大学と共同で先行してカセットボンベ式携帯発電機の開発を手掛けてきました。

冬場の寒冷地で使用できるようにヒーターを搭載し、一酸化中毒による事故を防止するためのセンサーをつけるなど、従来にはない工夫を取り入れました。さらにはガソリンとカセットボンベの2WAY使用が可能となる史上初の製品ということで非常に好評をいただきました。日本全国の地方自治体による防災活動において30%以上の導入実績を誇り、現在も需要が高まっています。

ーーまさにライフラインの要ともいえる貴社の製品ですが、他にはどのような事業を手掛けていますか?

小林裕一郎:
日本では地震などの災害も多く、毎年猛暑が続く中、水道水を飲む方が減ってきたこともあり、ミネラルウォーターの需要が高まっています。そこでライフラインを支える事業として飲料水の開発にも取り組んできました。

多額の投資をおこない、水質にこだわった商品開発の結果、「おいしい」と言っていただけるリピーターのお客様に多くついていただくことができました。おかげで飲料水事業は競合も多い中、全国トップ10に入るほどの売上を誇っています。

今年の元旦に起きた能登半島の地震の際も、正月休みではありましたが1月3日には工場を開け、被災地に約1万ケースの飲料水を送り届けました。防災用品などライフラインとなる商品を手掛けている弊社だからこそ、そうした災害時にもスピーディに対応できる体制をとり、貢献度の高い活動につなげられるのだと自負しています。

開発の源は優秀な従業員。スキルアップを図り新商品開発に臨む

ーー数々の製品を生み出してきた根底には、どのような経営方針があったのでしょうか?

小林裕一郎:
まずは従業員に一番幸せになってもらう、というのが弊社の務めだと思っています。商売の理念として、「売り手よし、買い手よし、使い手(世間)よし」の三方よしが基本ですが、それは従業員が消費者の生活に役立つ製品を提供し、購入いただいた方々に使っていただき、適正な利益を得ることで、皆が満足できるということ。そのような考えのもと、日々製品づくりに励んでいます。

ーー数々のヒット商品における開発の源は何でしょうか?

小林裕一郎:
やはり、センスのある優秀な従業員がそろっていることに尽きると思います。開発事業では若手も育ってきており、彼らにはデザインや機能性などを含め一から独自の発想で商品をつくっていってほしいと伝えています。

これまでは各部門でのエキスパートを生み出し、分業制を取り入れていましたが、各々の責任や視野を広げるためにも組織改編をおこないました。仕事の幅を広げることで、これまでとは違った視点で生産の合理化が可能となります。お互いにアドバイスしながら切磋琢磨しあえる環境になったことで、商品開発にもさらに磨きがかかるのではないかと期待しています。

ーー最後に、今後の展望を聞かせてください。

小林裕一郎:
カセットボンベや発電機、飲料水事業など、既存の事業をこれまで以上にきっちりと守り続けていくと同時に、新製品開発の流れも止めず、これからも安全な製品を皆様に提供することで売上の増大を図っていきます。

新製品に関しては、これまで既存の枠の中で活動していたこともあり、今後はジャンルにとらわれずに違った分野への挑戦も考えています。そのために従業員も充実させ、全員が経営参加する意気込みで仕事に取り組み、スキルアップに努め、勢いを止めずに進んでいく所存です。

編集後記

納得のいく製品をつくるまで何度も失敗を重ねてきた小林社長。座右の銘は「凡事徹底」だという。「品質を高めるためには、当たり前のことを徹底してやり抜く努力が必要。諦めなければ失敗はないのです」と、苦労して生み出してきた製品について誇らしげに語った。ニチネンが新たに世に送り出す独創的な商品に期待が高まるばかりだ。

小林裕一郎/1966年、横浜市生まれ。大学卒業後、商社に入社。3年間の修業後、株式会社ニチネンに入社。製造部、経理、営業部門を経験し専務取締役に就任。2011年に代表取締役社長に就任。