
株式会社共栄は、1970年に創業された「棺」をメインとした葬儀関連用品のメーカーだ。お棺の年間販売数は約10万本、累計販売本数は約400万本と、業界トップクラスの実績を誇るリーディングカンパニーである。
祖父が創業し、父が代表取締役社長を務めていた同社に入社し、2020年に三代目代表取締役社長に就任した栗原正宗氏に、これまでの経緯や今後の展望などについて話をうかがった。
アメリカ・中国への留学を経て、民間企業へ就職。さまざまな考え方を知った20代
ーーもともと家業を継ぐことをイメージしていたのでしょうか。
栗原正宗:
共栄は祖父が創業した会社ですが、実は私自身は「この会社を継ごう」と明確に意識していたわけではありませんでした。高校卒業後は、従兄弟のいるアメリカの大学へ留学し、経営と経済について学びました。その後、「英語だけでなく、中国語もできた方が今後の世界情勢を見ると役に立つのではないか」と思い、さらに中国へ語学留学をします。
留学後は、「他の企業の考え方を知っておいた方がいい」という父の勧めもあり、中国現地の企業へ就職しました。さらに外の世界を知りたいと思い、帰国後は受電設備や分電盤などを製造する日東工業株式会社に入社しました。そこでは大企業の考え方や、多くの方のニーズに合った製品を大量生産するビジネスモデルを学ぶことができたと実感しています。加えて、価値を伝えることの大切さも教えていただきました。
ーーその後、株式会社共栄に入社し、社長に就任するまではどのような経緯があったのでしょうか。
栗原正宗:
日東工業株式会社では、現場の業務から会社経営の考え方まで、さまざまなことを学ばせてもらいました。そして2007年、「これまで学んだことを糧に、共栄に入社しよう」と思い、弊社に入社したのです。
その後まもなく、リーマンショックが発生し、弊社のビジネスモデルの転換点を迎えます。周囲の会社は価格競争を行い値下げを進める中で、私は父に「いいものづくりをしようと思うと、コストがかかるためどうしても高価になってしまう。価格競争で疲弊するよりも、弊社の商品の品質の高さを伝えていくことが重要なのではないか」と提案しました。
これまでも人々の心に届くよう、品質や材料にこだわり、モノづくりを続けていました。それに加えて、適正価格で販売することも意識し、営業部を含めみんなで価値の伝え方にこだわりました。
その結果、他社と競うことなく業績を伸ばすことができたと自負しています。そのような経営方針の提案などを経て、2020年に代表取締役社長に就任した次第です。
業界トップクラスの取引実績を持つ理由

ーー共栄の「棺」の強みをお聞かせください。
栗原正宗:
「高品質なお棺」と「多彩な商品ラインナップ」の2点だと思います。元々弊社は材木屋で、お棺にも高品質な木材を使用することにこだわっています。
また、故人の方のイメージに合わせたお棺を選んでいただけるよう、お棺のデザインは100種類以上をご用意しています。色はもちろん、ジーンズ柄のものや、広島県に本社があるご゚縁で広島東洋カープとコラボしたお棺などを製造してきました。
さらに、故人のご家族の方の気持ちに寄り添い、華やかにお見送りのできる仏衣(着物)や、お別れの品を収められる木箱も販売しています。こうした取り組みが話題となり、現在では全国1,000社以上の葬儀会社と取引があります。これは、業界内でもトップクラスの実績です。
ーー会社を経営する上で意識していることは何でしょうか。
栗原正宗:
私は、弊社従業員の「棺に対する思い」は非常に高いと思っています。しかし誰もが最初から高い思いを持っていたわけではなく、入社後に弊社の考え方をじっくり知りながら成長しています。
特に私が社員に伝えているのは、「素直さを大切にしてほしい」ということです。最初は誰もが未経験で、自信がなくて当たり前です。分からないことがあったら先輩に質問する素直さや、お客様から言われたことを正確に受け止める素直さなどを重視しています。
結果に結びつかない時もありますが、そうした際も弊社の評価制度には「行動を評価する」基準があるため、マイナス評価とならないケースが多くあります。金額重視ではなく、お客様との長期的な信頼関係を大切にする営業になってほしいと考えています。
現場では丁寧にお棺を製造しているので、営業には胸を張って弊社の製品を葬儀会社の方にご説明し、価格勝負ではなく「あなたの話を聞いて、買うことを決めた」と言っていただける経験をしてほしいです。会社という場所で、長く同じ時間を共有する仲間だからこそ、一緒にチャレンジして達成感を得られると嬉しいですね。
今後は葬儀会社との新規取引に力を入れ、着実に取引先を増やしていきたい

ーー今後の事業展開について教えてください。
栗原正宗:
現在は1,000社以上の葬儀会社と取引のある弊社ですが、これからさらに新規開拓を勧めていきたいと考えています。冠婚葬祭を広く手がけるような大手企業と取引をしたい気持ちもありますが、やはり多くの方がお葬式を頼むのは、地域の葬儀会社です。そのため、新しく開業された中小の葬儀会社などとの取引を増やしていきたいと思っています。
弊社は現在、全国の葬儀会社様と取引をしており、年間の売上高は17億円ほどです。これを社員全員で着実に増やしていきたいと考えています。
編集後記
入社後からさまざまなアイデアを出してきた三代目代表取締役社長の栗原正宗氏。社長就任後も新しいお棺の製造や関連製品の販売、人材育成などに積極的に取り組み、積極的に事業拡大につながる改革を続けている。同社はこれからも価格競争に巻き込まれることなく、多彩な製品を世の中に送り出すことで成長を続けていくことだろう。

栗原正宗/1980年広島県生まれ。高校卒業後、アメリカ(シアトル)の大学へ留学し、経営・経済を学ぶ。その後、中国(上海)へ語学留学をしたのち、中国で棺づくりに必要なパーツ製造を行う企業に入社。帰国後、日東工業株式会社に入社。2007年に祖父が創業し、父が代表取締役を務めていた共栄へ入社。2020年、同社代表取締役に就任し、現在に至る。