
神奈川県小田原市のそば粉製造会社、久津間製粉株式会社。同社は明治時代から質の高いそば粉を創り続け、おそば屋さんを中心に多くの顧客を獲得している。老舗としての誇りを持ちつつも、過去にとらわれず果敢に挑戦する姿勢こそが、創業から120年と長きにわたり同社が愛される理由だ。今回、代表取締役社長の久津間裕行氏に、新たな挑戦として始めた「冷凍生そば」製造事業のほか、同社の強みや今後の目標を聞いた。
基本理念の打ち出しやボトムアップ型経営で社内の士気を高める
ーー社長就任までの道のりを聞かせてください。
久津間裕行:
大学卒業後は、食品専門商社に入社し、2年目からは名古屋支社勤務となりました。先輩たちや取引先に恵まれ、このときに教えてもらった商売のイロハは今でも役に立っています。
5年ほど勤めた後、長男として家業を継がなければという思いから、実家に帰って久津間製粉へ入社しました。最初の1年間は工場で商品について学び、営業や配送など幅広い経験を積んでから、代表取締役社長に就任しました。就任当初は「私の代で会社を潰してはいけない」と、猛烈なプレッシャーを感じていたことを覚えています。
ーー就任後はどのようなことに取り組んできましたか。
久津間裕行:
1つは、事務作業に手作業が多かったので、ペーパーレス化とデジタル化を進めました。また、商品の品質により一層こだわることを改めて社員と共有する目的で、「材料へのこだわり、おいしさへのこだわり、安心・安全へのこだわり」を基本理念として打ち出しました。
社長に就任してから特に重視しているのは、社員との綿密な情報共有です。トップダウン型ではなくボトムアップ型の経営で、会社のことはみんなで一緒に考えようという姿勢を意識しています。
「常にナンバーワンを目指す」徹底した品質へのこだわりが強み

ーー事業内容について教えてください。
久津間裕行:
弊社は1903年に曾祖父が創設した会社で、主にそば粉の製造・販売を行っています。そのほか、おそば屋さんの廃業に歯止めがかからない昨今の状況を受け、1年ほど前に冷凍生そばの製造事業を開始しました。私たちがおそば屋さんに代わって毎日の製麺作業を担うことで、少しでも営業を継続していただけるのではとの思いから、本事業を立ち上げました。
また、冷凍生そばは居酒屋やホテル、ゴルフ場といった高価格帯の店や施設とも相性が良く、そういったところへ販路を拡大したいという狙いもあります。将来的には、一般消費者にも提供できたらと考えています。ただ、さまざまな展開方法を考えてはいますが、おそば屋さんに商品を提供することが私たちの1番の喜びであることは変わりません。
ーー貴社の商品は、どういった点で他社と差別化していますか。
久津間裕行:
大きな差別化ポイントは、品質において常にナンバーワンを目指している点です。材料選びから創り方まで、徹底的にこだわっています。また、品質に対して妥協のない製造部や、商品の魅力を伝える営業部など、各部門の日々の努力も弊社の強みです。
私たちにとって本当に嬉しいことは、新そばの時期にお客様が「昨年より良いね」と毎年褒めてくださることです。新しく始めた冷凍生そばの製造についても、継続して注文してくださるお客様が少しずつ増えており、この事業を始めて良かったと感じています。
和食を手がける一企業として、そばの魅力を国内外幅広い層へ伝えていく
ーー今後の注力テーマを教えてください。
久津間裕行:
既存のお客様を大切にすることは大前提として、弊社がある神奈川県はもちろん、首都圏・関東圏、そして全国への販路拡大を目指します。冷凍生そばを、今までより幅広いジャンルの店舗や施設へ展開していく予定です。
また、海外ではすでにタイ、中国、シンガポール、マレーシア、フランスなどにそば粉を輸出していますが、今後もより多くの国へ展開していけたらと考えています。海外には冷たいものを食べないという食文化がある国もあり(特に東南アジア)、そういった国の人はせっかく日本を訪れても、温かいそばしか食べないケースが少なくありません。
私たちは和食の一翼を担っている企業として、冷たいそばを食べる習慣も含め、日本の食文化について自信を持って世界に発信していきたいです。また、人材採用に関しては、特別な能力などは求めていません。そばが好きでやる気がある方と一緒に働けたら嬉しいです。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
久津間裕行:
私たちはそばの美味しさや魅力を今後もより一層伝えていきたいと思っています。そばは「おいしい」・「ヘルシー」の両方を兼ね備えていますし、麺自体に味があることも大きな特徴です。幅広い世代、特にそばをあまり食べない若い世代に、おいしいそばを味わってもらえるようこれからも発信を続けていきます。
編集後記
新しく始めた冷凍生そば製造事業に関して「1年ほど改良に改良を重ねて開発した」と語った久津間社長。品質に妥協しないストイックな姿勢からは、業界を牽引してきた老舗企業としての誇りが感じられた。今後は海外展開により注力していくとのことで、同社のそば粉や冷凍生そばが世界で広まり、日本の和食の評判をさらに高めてくれることに期待したい。

久津間裕行/1995年、久津間製粉株式会社入社。工場勤務を経て、営業に従事。営業本部長、専務を経て、2021年に代表取締役社長に就任。