
2001年に設立された株式会社アルプロン。人間の体づくりに欠かせない栄養素を補うプロテインのメーカーとして、複数の自社ブランドを展開している会社だ。代表取締役社長の坂本雅俊氏に、創業した経緯や企業としての強み、今後の展望についてうかがった。
26歳で起業し、大豆たんぱく質の販売を含む多彩な事業に挑戦
ーー社長のこれまでの経歴をお話しいただけますか。
坂本雅俊:
大学を卒業後、コンサルティング企業の営業職に就きました。神奈川県の川崎地区と横浜地区の担当として飛び込み営業を行う中で、コミュニケーション能力はかなり鍛えられたと思います。
入社4年目にして営業所長を任されたほか、熊本エリアの支店長を歴任したことも、自分自身の成長に大きく影響しました。熊本県には元気な中小企業が多く、退社するまでに数百名を超える経営者の方々とお会いし、いろいろなタイプの経営を学べたことを今でも感謝しています。
入社前から起業を夢見ており、26歳で独立したのですが、きっかけは過剰な自信による思い上がりでした。起業してから、前職で自分の成績が良かった理由は、会社の信用力があったからこそだと、すぐに痛感しましたね。
ーーいつ頃から経営者を目指していたのでしょうか?
坂本雅俊:
「リーダーでお金持ちの社長が一番かっこいい」という憧れは、小さい頃からありました。現実的には、会社を作ることは簡単で、継続こそが難しいとわかりました。
弊社を立ち上げてから、10年ほどは迷走していたといえます。飲食店の経営や民泊事業で失敗し、食品向けの機械を販売していた時期もあります。豆腐や食品添加剤の原料として、大豆たんぱく質を販売する事業をヒントに、プロテイン事業に転換したのは2012年頃です。
弊社は無事に24期を迎えられましたが、20年以上続く会社は決して多いといえません。人を雇って事業を続けるには、社会的意義と時の運が必要だと思います。
プロテインの自社ブランド「アルプロン」が全国で大ヒット

ーープロテイン事業を成長させた背景もうかがえますか。
坂本雅俊:
当時はパーソナルトレーニングが広まり始めた時代で、僕自身もスポーツジムに通い、トレーニング後に飲むプロテインの効果を実感していました。
しかし、月に1万円ほどかかるプロテイン代を負担に感じ、もっと安価な商品を作れないかと考えました。学生をはじめ、トレーニングに励む多くの人にお手頃なプロテインを飲んでほしいと思ったのです。原価的には3,000円程度で販売できると判断し、開発をスタートしました。
転機となったのは、楽天市場のウィークリーランキングで1位を獲得したことです。それを見たドン・キホーテのバイヤーさんから問屋を通して連絡があり、2013年9月から取引が始まりました。今ではドラッグストアやスポーツジムを含めて、全国の約2万店舗で販売しています。
いろいろな事業にチャレンジした中で、プロテイン事業の輝きは異質でした。黎明期ゆえの競争優位性に手応えを感じ、「他の事業をやっている場合ではない」と肌感覚で悟ったのです。
ーープロテインの魅力を改めてお聞かせください。
坂本雅俊:
プロテインは、体づくりに欠かせない栄養素の「たんぱく質」です。マッチョを目指す人やスポーツ選手が摂取するイメージがありますが、適量のプロテインによって、健康や美容にも良い効果をもたらします。
たんぱく質と同じく、人間に必要な3大栄養素である糖質・脂質は体を動かすエネルギーになり得るものの、ボディの形成には作用しません。髪の毛・爪・肌・筋肉・神経は、すべてたんぱく質によってつくられているのです。
原料の自社製造に注力し、「世界一おいしいプロテイン」をより多くの人へ
ーー貴社の強みを教えていただけますか。
坂本雅俊:
私たちはプロテインメーカーとして、初心者〜中級者向けの「ALPRON(アルプロン)」シリーズや、上級者向けの「IZMO(イズモ)」シリーズといった自社ブランドを展開しています。主な事業は、自社工場を中心とした製造業、店舗・EC・卸売での販売業、ブランディングやマーケティング活動、受託製造のOEMです。
一番の強みは「プロテインの味わい」であり、自分たちが「世界一おいしい」と思えるプロテインを目指して、2024年にブランドを全面リニューアルしました。世界中のプロテインを集めて、味の比較試験をするなど、徹底的にこだわったおいしさをぜひお試しください。
製造現場に関してはDXによるデジタル管理が進み、人的ミスの撲滅とフィードバックのしやすさを実現しています。食品安全の国際規格である「FSSC 22000」の認証を受けていることも強みの一つです。世界的に信用のある規格なので、大手企業のOEM受注にもつながっています。
また、グローバルなカーボンニュートラル(脱炭素化)にも賛同し、「SBT(Science Based Targets)」という国際認証を取得しました。日本国内のプロテインメーカーとしては、非常に画期的な取り組みだといえるでしょう。
ーー今後の展望をお聞かせください。
坂本雅俊:
外部から仕入れているプロテインの原料を、自社製造する事業に力を入れていきたいです。業界内では、たんぱく質の需要・供給バランスが崩れる「プロテインクライシス(たんぱく質危機)」が2050年に到来するといわれています。
弊社も「2030年にはたんぱく質が入手困難になる」と予想し、サステナブルなたんぱく質を自社で作り出す研究を進めてきました。3年以内に新製品を発売することを目標とし、既存ブランドもメイド・イン・ジャパンのプロテインとして海外に広めていきたいと思います。
編集後記
坂本社長は数多くのチャレンジと挫折を繰り返したからこそ、プロテイン事業が秘めた可能性を見逃すことがなかった。自分が必要とした商品が、時代の流れと合致したことは確かに「時の運」だが、経験の積み重ねが経営の才覚を磨いたことは間違いない。さらなる成長を遂げたアルプロンは、プロテインクライシスを乗り越えて私たちの健康を支えてくれるはずだ。

坂本雅俊/1974年生まれ。大学卒業後、株式会社ビジネスコンサルタントに入社し、熊本エリアの支店長を歴任。2001年、株式会社アルプロンを創業し、代表取締役CEOに就任。2013年より、試行錯誤を経てプロテイン事業に専念。故郷である島根県雲南市への雇用と税収貢献を目指し、本店を雲南市加茂町の工場に移転した。