※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

1983年に大阪府の北野田に理容室を開店して以来、関西を中心に理容室・美容室チェーンを展開している株式会社WAKAMATSU。理美容業界における自社の成長を見据えて、2023年に投資ファンドによる外部資本を受け入れ、経営体制を刷新した。

創業者の父と2代目社長の兄を持ち、2024年に代表取締役に就任した若松東克氏は、理美容業界全体の待遇改善やキャリア形成に貢献するべく、改革を進めている。ファンドによる投資を受け入れた経緯や自社サロンの特徴、業界への思いについて、若松社長にインタビューを行った。

理美容師の可能性を広げるために家族経営から脱却

ーー幼少期から家業を継ぐことを意識していましたか?

若松東克:
私は創業家の次男として育ちましたが、家業に携わることは考えていませんでした。高校時代は甲子園に出場し、大学まで野球に専念していました。大学卒業後も野球を続けるか迷っていた時に、幼い頃から見てきた父の仕事について考えるようになり、理美容師の仕事に興味が湧いたのです。

当時会長だった父と社長だった兄が会社を経営していたので、自分は「プレイヤーとして働きたい」という思いで専門学校に通い、理容師免許を取得しました。その後は修業も兼ねて他社のサロンで理容師のアシスタントをしていましたが、父や兄から「会社を手伝ってほしい」と言われ、入社に至りました。

入社当時は、組織としての明確な役割分担がなされていなかったため、店舗の管理や採用、マーケティングなど、店舗運営のためのさまざまな業務も行いました。

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

若松東克:
理美容師の仕事は拘束時間が長い一方で賃金が低く、人材不足が進む中で、WAKAMATSUが持続的に発展していくにはどうすれば良いのか、2年ほど前から家族で考えるようになりました。会社としての成長だけでなく、スタッフが成長でき、「WAKAMATSUで働いていて良かった」と思ってもらえる環境をつくるために、兄の提案で投資ファンドによる資本を受け入れることにしたのです。

ファンドが経営に参画するにあたって、父と兄は会社から退き、当時常務取締役を務めていた私だけが会社に残ることを条件とされ、初めは戸惑いました。しかし、兄から「ファンドの力を借りて会社を成長させてほしい」と託されたので、これまでWAKAMATSUが積み重ねてきたことを自分が継承しようと覚悟を決めたのです。

2023年に外部から社長を迎えて新体制がスタートし、課題も明確になった中で、2024年6月にバトンタッチを受けて、私が社長に就任しました。

生涯を通じて理美容師として活躍できる環境を創出

ーー貴社の理容室と美容室の特徴を教えてください。

若松東克:
美容室は「HAIR’S GATE」と「WITH HAIR」というブランドを展開しています。弊社の美容室のほとんどはスーパーやショッピングセンターの中に出店しており、予約なしで買い物のついでに、毎月でもお越しいただけるようリーズナブルな価格であることが特徴です。洗練されたデザインの店づくりにこだわり、30代から40代の主婦層を中心に、多くのお客様に日々ご利用いただいています。

理容室は「理容サービス」と「IN THE BARBER」というブランドがあり、ロードサイドをメインに出店しています。いわゆる大衆理容と呼ばれる業態では50代から60代のお客様が大半を占めていますが、弊社ではビジネスマンや子ども連れのご家族にも多くご来店いただき、最近では若い世代の方にもよりお越しいただけるような店づくりを意識しています。

たとえば、理容室を初めて利用される方でも分かりやすいように、従来「総合」と呼んでいたカット、顔そり、シャンプーのメニューを「プレミアム」、「調髪」と呼ばれるカットと顔そりのメニューは「スタンダード」、カットのみは「クイック」として、メニュー表記を改めました。

また、お客様の需要が少ないうえに技術の習得に時間がかかるパンチパーマを廃止し、基本的なカットや顔そり、シャンプーの技術を徹底的に磨くことで、満足度の高いサービスを提供したいと考えています。

ーー理美容師にとって貴社で働く利点は何ですか?

若松東克:
理容師に比べて、美容師は人数が圧倒的に多い反面、賃金が低いことなどの理由で離職率が高いのが現状です。一方で理容師は希少性の高さから比較的賃金が高いうえに、年配のお客様が多いことから年を重ねてもプレイヤーとして活躍できるというメリットがあります。

理容も美容も展開する弊社だからこそ、美容師から理容師への転換をバックアップできることが強みです。さらに、他社で働いていて、離職を考えている方にも「WAKAMATSUなら受け入れてもらえる」と思われるような存在になりたいと思っています。

理美容師の社会的な地位向上を目指して

ーー大切にしている考えをお聞かせください。

若松東克:
私たちの使命は、すべての理美容師の社会的地位を向上させ、夢と誇りを持って未来を切り拓くことができる環境をつくることです。そのために「社員とお客様のライフステージを豊かにする」という理念を掲げ、お客様はもちろん、社員を幸せにしたいと考えています。

社員の働き方や待遇についての不安をなくして、お客様にフルコミットできる環境を整えることが大切です。この業界で働く理美容師だけでなく、これから理美容師を目指す人や、業界を離れた理美容師にも活躍の場があることを伝えていきたいですね。

ーー最後に今後の展望を教えてください。

若松東克:
組織を刷新したことで、社員にチャレンジできる喜びや成長を与えられているだけでなく、私たちのビジネスの根幹である現場の理美容師の可能性を広げることができていると感じています。これまで内向きだった会社の体質を改め、弊社のビジネスモデルを外に発信することで、業界をリードできるような存在になりたいです。

理美容業界は大手企業が多くのシェアを占めているわけではありません。ほとんどが、個人サロンの集まりで形成されている中で、競争ではなく、互いの長所を引き出して共存共栄していかなければ、業界自体が衰退してしまうと考えています。

時代の変化に合わせたブランディングを行い、社員にとってもお客様にとっても魅力あるサロンをつくることが理想です。5年後、10年後にはなりたい職業ランキング1位になれるように、業界の発展に貢献したいですね。

編集後記

若松社長の言葉からは、理美容業界に対する深い愛情と使命感が伝わってきた。社員の働きがいや待遇改善に真摯に向き合い、「理美容師が誇りを持てる環境をつくる」という揺るぎない理念を貫いている。家族経営からの脱却や投資ファンドの導入といった大胆な経営改革も、現場への強い思いから生まれたものだ。

競争ではなく、業界全体の共存共栄を見据えるそのビジョンは、未来への確かな希望を感じさせる。次世代の理美容師たちに向けた、力強いエールともいえるだろう。

若松東克/1984年生まれ。2001年、和歌山県代表として夏の甲子園出場を果たした。初芝橋本高等学校にて史上初の甲子園出場投手を経験。2005年、近畿大学卒業。2007年、NRB日本理容美容専門学校を卒業し、理容師免許取得。2007年、株式会社若松(現:株式会社WAKAMATSU)入社、取締役に就任。2024年、株式会社WAKAMATSU代表取締役社長就任。