※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

2016年に設立された株式会社Payment Technology。「Payment(支払い)」と「情報テクノロジー」をかけ合わせた事業として、給与前払いサービスや「アルムナイ(退職者)」に特化したスキマバイトサービスなどを開発・運用している。今回は代表取締役の上野亨氏に、起業した経緯や企業のミッション、今後の展望をうかがった。

経理とIPOの知見を生かしてテック企業を設立

ーー社長のこれまでの経歴をお聞かせください。

上野亨:
経理業務に生かせる資格を取得した上で、ソフトバンクに入社しました。経理部門を経て、財務部門に異動した翌年、部門ごとの分社化が決まり、その1つがSBIホールディングスの前身となる「ソフトバンクファイナンス」でした。

僕は創業メンバーの一人として証券会社の運営に徹し、大手企業の上場を目指す企画にも携わりました。その後、IPO(新規公開株式)部門の立ち上げに加わり、法務以外の仕事はすべて担当したといえるでしょう。ネット証券が普及する流れに乗り、20代のうちにあらゆる経験を積めたことが、僕のベースになっています。

ーー独立した経緯もうかがえますか?

上野亨:
薬剤師として、自衛隊の基地内で薬局を経営していた祖父の影響が大きいですね。祖父の近くで育った僕は、仕事といえば自営業だと思い、幼少時代から起業を夢見ていました。当時のソフトバンクに入社を決めたのも、独立採算制で事業ごとに会社をつくっていたため、働きながら経営を学べると考えたからです。

17年間勤めたうちの10年を占めるIPO部門での仕事は、自分にとっての天職だったと思います。当時のSBIはまだ小さく、お客様は組織というより僕の実績を信じて、会社の一大プロジェクトであるIPOを任せてくださっていたと自負していました。

しかし、組織が大きくなるにつれ、思うように事業を進められなくなり、お客様に迷惑をかけるケースが出てしまったのです。結果として「僕が直接支援できる状況にします」と、お客様に宣言する形で、2015年に独立しました。

給与の常識を変えた立替方式の「給与前払いサービス」

ーー起業後の印象的なエピソードをお聞かせください。

上野亨:
1年ほどIPOの顧問を務めたのち、2016年に弊社を立ち上げました。柱を増やすために「給与前払いサービス」をつくったところ、その運営が面白く、そこから企業のサポート事業を派生させていきました。

「給与前払いサービス」は、弊社が導入企業様の従業員から前払いの申請を受け、給与を立て替える仕組みです。本当の給料日に、企業からお金を回収するビジネスモデルなのですが、当初はリーガル的な位置づけが曖昧でした。

もちろん、立て替えサービスは給与の「貸付」とは異なり、違法性がないことをサービス開始前に確認していました。最終的に金融庁と経済産業省と話した上で、お墨付きをもらうまでの期間が長く、弊社としては最も苦労した出来事だったといえます。

ーー現在の事業内容と強みを教えていただけますか。

上野亨:
主力事業は、給与前払いサービスの「前払いできるくん」と、企業のカムバック採用をサポートする「エニジョブ」の運営です。

弊社の強みは、「立替方式」を給与前払いサービス業界に広めたことでしょう。前払いとは、すでに働いた分の給与の一部を支払う仕組みです。これはスキマバイトの後、すぐに給与を受け取る流れと同じで、従業員が働いた分の報酬をすぐにもらえるメリットがあります。

前払いのノウハウを生かして立ち上げたのが「アルムナイ(退職者)」仲介サービス「エニジョブ」です。「アルムナイ」とは英語で「卒業生」「同窓生」を意味する言葉で、企業においては退職者や離職者を指します。導入企業様のアルムナイにアプローチし、自社内でスキマバイトの仕組みをつくれるシステムです。

働き手をアルムナイに特化することで、一般的なスキマバイトのように業務未経験者に手取り足取り教える手間がかからない点も支持されています。導入事例が増えているのは、飲食、物流、清掃業といった業界で、東証プライム上場の大手企業様にも活用いただいています。

アルムナイデータベースの活用でより良い世の中づくり

ーー貴社はどんなミッションを掲げているでしょうか。

上野亨:
アルムナイ採用・カムバック採用を自社で実現できる「エニジョブ」を通して、「アルムナイデータベースを世界中の企業が持つ世の中」を目指しています。

アルムナイデータベースは、採用活動のための「人材のプール」です。人材紹介会社を介さずに自社のプールへ直接求人し、採用できれば、人材確保がスムーズとなります。複数社のデータを統合すれば、さらにプールが拡大し、採用に仲介費用がかからない世の中をつくれるのです。

採用市場で使われる履歴書や職務経歴書は働き手の自己申告でつくることが慣行となっています。アルムナイデータベースで経歴をデータ化することで、人材にとっても「自分の経歴を認めてもらえる世の中」となります。企業にとっても過去の所属先のお墨付きがある履歴書は信頼しやすいでしょう。

また、月給制を基本とする日本の固定観念を変える、というミッションもあります。海外では、週給制や隔週での支払いも取り入れられています。僕としては、アルバイトは日払いが基本で、働き手が給与の受け取り方法を自由に選べることがベストだと考えます。給与を毎日もらえるのであれば、支払いのために無理にお金を借りずに済み、より良い世の中になるのではないでしょうか。

ーー今後の展望をお聞かせください。

上野亨:
スキマバイトとアルムナイデータベースの活用は、とても相性が良いことを伝えると共に、サービスの知名度を高めていこうと思います。デスクレスワーカーからホワイトカラーの順番でお取引先を広げ、2026年には海外企業も開拓していく予定です。

サービス導入時のイメージでは、直近1〜2年で辞めた人材にアプローチして、実際に戻ってくる方が15〜20%であり、まだまだ足りないと思っています。数字を上げるには、現役で働いている人や離職直前の人にもアプローチできる仕組みを構築するべきでしょう。

弊社は、ベンチャーマインドの会社ですが、大企業に対してもしっかりとした提案・交渉を続けてきました。新しいプロダクトや市場を生み出すことに挑戦し続けています。事業の成長を面白く思う人に加わっていただけるとうれしいですね。

編集後記

世の中にとって、より良い形を模索し続けている上野氏。アルムナイデータベースを通した人材へのアプローチは、いわば「同窓会の知らせ」だ。企業と人材が柔軟に手を取り合う価値観が一般化すれば、非常にクリアかつお互いが満足する雇用関係が実現すると感じた。

上野亨/1973年生まれ。1997年、ソフトバンク株式会社に入社。経理財務部にて資金調達やBPRプロジェクトに従事。1999年、イー・トレード証券会社(現株式会社SBI証券)に転籍。SBIグループの創業メンバーとして、SBI証券の立上げ、IPO部門の立上げに関わる。2013年よりSBI証券法人部長に着任。2015年に独立し、2016年に株式会社Payment Technologyを創業。代表取締役に就任。