※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

建設業界は少子高齢化による労働力不足や技術継承の課題、材料費の高騰といったさまざまな問題を抱えている。特に大都市圏に比べて人口減少が顕著な地方では、事業を継続し、成長させるためにさらなる努力が必要とされる。

そのような状況の中、岐阜県の東濃地方に本社を構える株式会社イトウ建材店は創業から70年以上の歴史を持つ老舗企業である。同社は社員を大切にする社風を守りつつ、新たな挑戦を続けることで100年企業を目指し、着実に前進している。2023年に41歳で代表取締役に就任した伊藤太一氏に経営理念やビジョンについて話を聞いた。

幼少期からの家業継承への思いと、経営者としての学びを深めた大手銀行での経験

ーー社長就任までの歩みを教えてください。

伊藤太一:
私は幼い頃から家業である弊社が地域の暮らしを支えている姿を見て育ちました。そのため、いずれ父の後を継ぎ、家業をさらに発展させたいという思いを自然に抱くようになっていました。

就職活動の際には、経営者として必要な知識やスキルを身につけることが将来のために不可欠だと考え、金融業界を選びました。そして、銀行に入社し、法人営業やシステム開発、本部企画など、多岐にわたる業務を経験しました。これらの経験が現在の自分の強みになっていると感じています。決算書の分析方法や銀行との折衝術、論理的な思考法や伝え方といったスキルは、経営者として非常に役立っています。

社長への就任は、父が急逝したことで予定より早く社長を引き継ぐことになりました。その際、社員さんや職人さんが自分についてきてくれるのか、取引先からこれまで通り仕事を任せてもらえるのか、といった心配が頭をよぎったのです。

しかし、それらの不安は杞憂に終わり、社員さんを始めとして多くの方々が一生懸命支えてくれました。この経験を通じて仲間の存在のありがたさ、父の偉大さを改めて実感し、心から感謝しています。

創業70年の歴史に裏打ちされた岐阜県トップクラスの施工実績と信頼

ーー貴社の事業内容と強みをお話ください。

伊藤太一:
弊社は創業から70年にわたり、岐阜県の東濃地方を中心に外構工事やエクステリア工事を手がけ、地域密着型の事業を展開してきました。弊社の原点は創業者である祖父が始めたセメントや砂といった建材の販売業です。その後、先代の父が建物周囲の環境を整える外構工事を取り入れ、さらに事業の幅を広げました。

現在では庭やカーポートといったエクステリア工事をメイン事業とし、個人のお客様からの直接依頼だけでなく、大手ハウスメーカーや地元工務店の下請けとして年間200件以上の施工実績を持つまでに成長しました。このエリアではトップクラスの実績を誇っています。

また近年では、外構工事で培ったノウハウを活かし、大型造成工事や不動産事業にも進出しました。これにより、お客様の多様なニーズに応じた幅広い対応を可能としています。

私たちの仕事は単に工事を完了させることが目的ではありません。工事完了後に時間が経過しても、不具合が発生した際には誠実に対応することを徹底しています。

この姿勢は父の代から受け継いだ大切なポリシーであり、これまで多くのお客様や取引先から「イトウ建材店なら安心して任せられる」と厚い信頼をいただく理由の一つといえるでしょう。その期待に応えるべく、今後も誠実な対応を心がけるとともに、さらなる技術向上に努めていく決意です。

社員を大切にする風通しの良い社風づくり

ーー社長に就任してからの取り組みや、大切にしている考え方を教えてください。

伊藤太一:
父が生前、常に口にしていた「感謝・和・信頼」という言葉を、私も経営の根幹として大切にしています。周りへの感謝を忘れないこと、和みの空間づくり、信頼の蓄積で会社の今があること、会社を率いる立場になって改めてその深い意味を実感するようになりました。イトウ建材店の進むべき道は、この「感謝・和・信頼」に集約されていると考えています。

特に力を入れているのが、風通しの良い職場環境の整備です。社員同士が気兼ねなく話せる雰囲気があることで、お互いを理解し合い、より良い関係を築くことができると信じています。加えて、社員の意見を積極的に取り入れるための改善提案制度を設けています。

全てが取り入れられる訳ではありませんが、この制度を通じて寄せられたアイデアの中には、業務の効率化や品質向上に直結するものも多く、ハンパ資材のセールといったように実際に成果を上げている取り組みもあります。

私は社員一人ひとりの声に耳を傾けることで、誰もがいきいきと働ける職場をつくりたいと常々考えています。これからも社員の意見を尊重し、全員が成長を実感できる会社づくりを進めていきたいと思っています。

100年企業に向けて。若手職人の育成と新規事業への果敢な挑戦

ーー今後の目標をお聞かせください。

伊藤太一:
イトウ建材店を100年続く企業にすることが私の最大の使命だと考えています。そのためには、次世代への技術の継承が欠かせません。現在、建設業界では高齢化が進み、熟練の職人が引退する時期を迎えています。彼らが長年の経験で培った技術やノウハウを次代を担う世代へスムーズに受け渡すことが急務です。

この課題に対応するため、若手の採用と育成に注力しています。即戦力となる人材を確保するだけでなく、実務を通じてスキルを着実に磨ける体制を構築する方針です。若い世代が能力を存分に発揮できる場を提供することで、100年企業への基盤を築いていきたいと考えています。

また、長年外構工事に取り組んできた私たちだからこそ蓄積したノウハウを活かせる新たな分野があると信じています。エクステリア業界にとどまらず、関連事業にも果敢に挑戦し続けることで企業としての可能性を広げていきたいと考えています。

変化を恐れず、新しい挑戦を続けることが100年企業への道筋だと確信しているため、この思いをイトウ建材店の将来を担う後継者たちにもしっかりと伝え、彼らとともに明るい未来を切り開いていきたいですね。

編集後記

創業70年で築いた信頼と実績を守りながら、時代の変化に合わせて新たな一歩を踏み出すことの大切さを伊藤社長は身をもって体現している。「100年企業」という大きな目標を掲げつつ、社員第一の社風を貫く姿勢には学ぶべき点が多い。

日本の地場産業を支える中小企業が永続的に発展していくためには、このようなビジョンを持ったリーダーの存在が不可欠だろう。激動の時代だからこそ、「感謝・和・信頼」の理念を大切にする伊藤社長の経営手腕に注目したい。

伊藤太一/1981年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。株式会社みずほフィナンシャルグループに入社し、法人営業、システム担当、企画担当を経験。2014年株式会社イトウ建材店に入社。2023年に代表取締役に就任。