
建設業界では、深刻な人手不足と働き方改革への対応が喫緊の課題である。75歳以上の後期高齢者の人口割合が増え、極端な少子・超高齢社会になる「2025年問題」は、建設技能労働者にも波紋を及ぼしている。建造物の品質を確保する上で特に重要な検査業務においては、熟練技術者の経験と膨大な工数を必要とするため、人材不足は業界の生産性向上を妨げる要因となる。
こうした中、3次元データとAI技術を活用して建設検査の自動化に挑戦する取り組みをしているのがDataLabs株式会社だ。配筋検査の自動化システムを開発し、わずか1.5年で200以上の現場への導入実績を持つという。代表取締役CEOの田尻大介氏に、事業内容や建設業界の将来像などをうかがった。
宇宙開発から建設DXへ。異業種からの参入で見出した建設業界の可能性
ーー会社設立までの経緯を教えてください。
田尻大介:
私のビジネスの原点は、小学校4年生の時に参加した、宇宙少年団のスペースキャンプにあります。全国の仲間との2週間にわたる共同生活を通じて、宇宙への興味が芽生え、それが後のキャリア選択に大きな影響を与えたと思います。
大学の在学中、多くの同級生が商社や銀行への就職を選ぶ中、私は自分の興味に忠実に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ入社したのです。配属された地球観測衛星に関する部門では、国際的なデータ利活用の促進に携わる機会を得られました。
しかしながら、組織の規模が大きいがゆえの意思決定の遅さや、形式的な手順や決まりごとの多さに疑問を感じるようになりました。技術をより直接的に社会に役立てたいという思いから、ドローン関連のベンチャー企業への転職を決断します。
その企業では3次元データを建設現場で実際に活用する現場に携わり、刺激的な経験を得ながら建設業界の可能性に魅了されました。創業期の会社で非常に激務でしたが、技術が実際のビジネスで活用される現場を目の当たりにし、大きなやりがいを感じましたね。
その後、従業員に外国籍の方の多い国際色豊かな衛星ベンチャー企業で経験を重ねた後、自分たちで事業をやりたいと考え、DataLabs株式会社を起業します。当初は資金調達を前提としない受託型のビジネスモデルでスタートしましたが、売上が順調に推移する中で東京大学との協業も始まり、本格的なスタートアップとしての道を歩み始めることになりました。
スタートアップ奨励賞を受賞、3次元データ活用で建設検査の革新を

ーー現在提供されているサービスについて、詳しくお話ください。
田尻大介:
建設現場における配筋検査の自動化システムを販売しています。建築物を建てる際、コンクリート内部の鉄筋が設計通りに配置されているかを確認する必要がありますが、従来は3人1組での手作業による煩雑な検査が必要でした。
そこで私たちは、iPadなどに搭載されたセンサーから得られる3次元データを活用し、この作業を一人で効率的に実施できるソリューションを開発しました。検査データは自動的にレポート化されるので、業務効率が大幅に向上します。
すでに200社以上、約1万5千カ所の検査箇所に適用されており、清水建設様や大林組様といった大手建設会社でも導入いただいています。この実績が評価され、国土交通省が実施する「インフラDX大賞」においてスタートアップ奨励賞を受賞いたしました。
さらに、全国展開を加速させるため、地域に根差したパートナー企業との連携を強化しています。北海道から沖縄まで、各地域の事情を理解し、私たちのソリューションを必要としているお客様を発掘できるパートナー企業のネットワーク構築を進行中です。
建設業界のデジタルインフラを目指して、アジア展開も本格化
ーー将来的なビジョンについてお聞かせください。
田尻大介:
建設業界のデジタルインフラを目指して事業を展開してまいります。現状、建設業界はプロジェクトベースの業務が中心で、継続的なサービス利用という形態との親和性が低い状況です。私たちは、新設インフラの検査から維持管理、点検、補修工事まで、建造物のライフサイクル全体をカバーし、データでつなぐ統合的なプラットフォームの構築を計画中です。これらを通じて、建設業界全体のDXに貢献したいですね。
また海外展開としては、アジア市場での展開を積極的に推進中です。タイやフィリピンの国土交通省に相当する機関との連携を進めており、シンガポール及びタイでは現地代理店を設立しました。システムの根幹部分は日本と同様に使用できることが判明しているので、今後さらなる市場拡大を見込んでおります。
ーー人材育成において重視されている点を教えてください。
田尻大介:
知的好奇心が強く、新しいことへのチャレンジを楽しめる人材との協働を重視しています。必ずしも建設業界での経験は必要ありません。むしろ、現場に行って新しいことを学ぶことが苦にならない方、さまざまなことに興味を持ち、自ら学び続けられる方と一緒に働きたいと考えています。また、変化を楽しめる柔軟性も重要な要素です。
弊社は、社員一人一人が達成感を得られる環境づくりに注力し、個々の成果が会社の成長に直結することを実感できる組織を目指しております。今後も優秀な人材の確保と育成に力を入れ、グローバルな事業展開を支える組織基盤の強化に取り組んでいきたいですね。
編集後記
建設業界のデジタル化は、政府が掲げる「Society 5.0」実現の重要な要素であるが、現場の実態は依然として多くのアナログ作業が残されている。宇宙開発で培った最先端技術と現場のニーズを巧みに組み合わせ、建設業界の課題解決に挑戦している田尻社長の取り組みは非常にエキサイティングだ。全国の建設現場のDXを加速させ、さらにはアジア市場への展開も視野に入れる同社の今後の展開に注目したい。

田尻大介/1990年生まれ。宮崎県出身。新卒でJAXAに入社し、衛星データの利活用や有人宇宙事業に従事。その後、ドローン関連ベンチャーで三次元計測事業や新技術導入を担当し、衛星ベンチャーではBtoB SaaS事業開発を牽引。2020年にDataLabs株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。建設業界向け点群データの自動3Dモデル化技術を活用したクラウドシステムを提供し、業務効率化と生産性向上に貢献している。