※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

昨今、地球温暖化が進み環境への意識が高まる中、脱炭素の動きが加速している。アストモスリテイリング株式会社は、LPガス供給を基盤に、環境配慮型エネルギーを多様な提供方法で積極的に推進している企業だ。2024年には大陽日酸エネルギー株式会社との経営統合を実現し、新たな成長と事業拡大へのステージへと進んだ。

今回は、代表取締役社長の南部泰司氏に、これまでの歩み、異業種連携による事業拡大、組織体制の強化、そして今後のビジョンについて話をうかがった。

営業から人事を経験し、社員の成長を支える評価制度で組織改革

ーー代表取締役になるまでの経歴を教えてください。

南部泰司:
大学卒業後、三菱液化瓦斯株式会社(現:アストモスエネルギー株式会社)に入社し、関東や九州の支店で営業に約20年間従事しました。その後、国内事業本部の販売部長、コーポレート本部の人事部長を務めました。

人事部長時代には人事制度の刷新に取り組み、社員の成果を正当に評価し、努力が反映される仕組みを構築してきました。それまでの制度は組織の調和と安定を重視していましたが、働きやすさだけでなく、やりがいのある職場を実現するため、「頑張る人が報われる制度」を導入したのです。

このような経験を経て、2021年に当時アストモスエネルギー株式会社の100%出資会社であったアストモスリテイリング株式会社の副社長を拝命。翌2022年には代表取締役社長として経営を担うことになりました。

環境に優しいエネルギーの提供で、持続可能な社会の実現を目指す

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

南部泰司:
弊社はLPガスを中核としたエネルギー事業を展開し、一般家庭や法人顧客の環境に配慮したカーボンニュートラルLPガスを供給しています。もともとLPガスは、化石燃料の中でCO₂排出量が少なく再生可能エネルギーに次いで自然に優しいエネルギーの一つです。

しかし弊社ではさらに、LPガスの採掘から燃焼の工程で発生する温室効果ガスを世界各国の環境保全プロジェクト(※)によって創出されたCO₂クレジットで相殺(カーボン・オフセット)するカーボンニュートラルLPガスの販売にも取り組んでいるのです。これにより、LPガス使用によるCO₂排出を実質ゼロにすることを目指しています。

このような取り組みを進める中で株式会社レオパレス21より要請をいただき、同社の賃貸住宅約40万戸へLPガスを供給することにしました。この取り組みでは、弊社のカーボンニュートラルLPガス供給に加え、親会社であるアストモスエネルギー株式会社のグリーン電力とのセットによるエネルギー供給を通じ、株式会社レオパレス21の環境貢献企業としてのブランド価値向上に寄与し、また、弊社は環境にやさしいエネルギー利用の拡大を図っております。

近年、環境への意識が高まる中、脱炭素や地球温暖化への配慮が重要視されています。実際レオパレスに入居する20代の学生や社会人、60代以上のアパートオーナー層を中心に、環境に優しいLPガスの提供が高く評価されています。

(※)環境保全プロジェクト:地球規模での温室効果ガス削減・排出抑制に加え、新興国での雇用の創出や生物多様性の保護などの取り組みです。

ーー他社と差別化するために、どのような取り組みをしていますか。

南部泰司:
異業種との提携を積極的に進めています。水の宅配やWi-Fiの設置などの消費者サービス事業にも力を入れ、ガスの販売に留まらず、お客様の日常生活を総合的にサポートする多角的な事業戦略を推進しています。

さらに、電力販売も手掛け、総合的なエネルギーサービスの提供を目指しています。ガスと電気やインターネットのセット割りを行うことで、お客様に安心を提供しているのです。このように、常に「お客様にとって何が一番喜ばれるか」を考えながら、サービスの提供に努めています。他にも様々な異業種との提携を協議、検討しております。

ーー異業種との連携が貴社にどのような影響を与えたのか教えてください。

南部泰司:
異業種と組むことで、業界の枠を越えた新しい要求や課題に直面する機会が増えました。最初は戸惑いもありましたが、知恵を出し合い、解決策を見出しながら形にしてきました。その過程で新しいシステムや業務フローの構築を進め、事業統合を通じて多様なノウハウを習得できました。こうした異業種からの刺激を受け入れながら、他社にはない新しい消費者サービス事業への挑戦を続けています。

パフォーマンスを高めるために主体性を重視したカンパニー制

ーー貴社の組織体制についてお聞かせください。

南部泰司:
組織体制ではカンパニー制を導入しています。それぞれをひとつの会社のように位置づけ、事業展開を進める体制です。現在12カンパニー(4月より10カンパニーへ集約予定)に社長を配置し、各エリアでの経営判断を任せています。

全社方針は統一しつつ、日常運営は現地に委ねることで、迅速な意思決定を図っているのです。この仕組みにより、各拠点の責任と権限が高まり、組織全体のパフォーマンス向上につながると考えています。

また、全国のカンパニー社長とは月次でZoom会議を行います。カンパニー社長は他エリアの好例報告があると頻繁に連絡を取り合います。それが業績向上の最短ルートだと知っているからです。これらは事業統合会社のPMIを高速化させる効果もあります。

また、新規事業を立ち上げる際は、部署に縛られることなく、全国からプロジェクトメンバーを募ってチームを結成します。各カンパニーの社員たちにも積極的に参加してもらい、現場の知識や経験を活かしながらプロジェクトを進めているのです。

その結果、社員一人ひとりに新たなチャンスが生まれ、組織全体の成長につながっています。プロジェクトは同時にいくつも並行して進めていますが、事業統合により1,000人超となった組織がそれを可能にしています。

私が最も誇りに思うのは、社員一人ひとりが主体的に考え、行動する組織文化を築いていることです。新規事業にも柔軟に対応し、工夫しながら解決策を見つける風土が根付いています。

ーー採用において、どのような点を重視していますか。

南部泰司:
採用では人柄を最重視しています。デジタル化が進んでも、現場対応には顧客ファーストのマインドが不可欠です。技術は入社後に教育できるため、人間性を重視して採用することが最も重要だと考えています。

新規採用も行っていますが、新しいアイデアを生み出し、既存の枠組みを変革したいという意欲にある方々に、ぜひ私たちの仲間になっていただきたいです。弊社は、率直な意見を交わせる透明性の高い職場環境を大切にしています。

編集後記

南部社長の言葉には、エネルギー業界の未来を切り拓こうとする力強い決意が感じられた。LPガスの供給という枠を越え、消費者サービス事業に挑み続ける姿勢は、常識にとらわれない発想と行動力の表れだろう。

特に、「顧客ファースト」を掲げ、異業種との連携を積極的に進める事業形態は、同業他社との差別化を明確にし、さらなる成長の原動力となっている。今後、どのような革新と成長を見せてくれるのか。その歩みに期待が高まる。

南部泰司/1969年、東京都生まれ。駒澤大学法学部卒業後、三菱液化瓦斯株式会社(現:アストモスエネルギー株式会社)に入社。関東、九州などの支店で営業を経験し、2014年に国内事業本部の販売部長、2017年にコーポレート本部人事部長に就任。2021年にはアストモスリテイリング株式会社に出向と同時に副社長に就任し、2022年から代表取締役社長(アストモスエネルギー執行役員を兼任)。2024年、大陽日酸エネルギー株式会社との経営統合により、新しいアストモスリテイリング株式会社が発足。