※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

お中元やお歳暮といった「フォーマルギフト」の需要が減少する一方で、親しい人へ日常的に贈る「カジュアルギフト」の市場が活況を呈している。そんな中で注目を集めているのが、スイーツを中心に企画から商品開発、販売、物流までを一貫して手がける株式会社アデリーだ。同社は、多品種少量のカジュアルギフトを提供し、市場の活性化を牽引するとともに、地域産業を次なるステージへ向かわせるための新しい流通方法を模索し続けている。代表取締役社長の小野典子氏に、企画から出荷までの総合プロデュースの秘訣や、社員一人ひとりとの直接的な対話にこだわり続ける理由についてお話をうかがった。

手書きのメッセージでつなぐ社長と社員の絆

ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。

小野典子:
大学卒業後にギフト商社に入社し、2年間勤めたのちに父が創業した弊社に入社しました。41歳で社長に就任しましたが、決心するまでには迷いがあり、最後の最後まで「やります」とは言えない自分がいました。そんな時、ふと思い出したのが、小学校の卒業文集に書いた「父の会社を継いで社長になりたい」という言葉でした。幼い頃からの夢が、迷う自分の背中を強く押してくれたのです。

過去に、人間関係で悩んだ経験があることから、現在は社員一人ひとりと対話を重ね、その人たちの働きやすさや気持ちに配慮することを大切にしています。

ーー具体的には何を心がけていますか。

小野典子:
私は、社長自らが採用や人事を担当することを大切にしており、社員一人ひとりとの直接対話を通じて会社全体の力を向上させたいと考えています。ただし、中間層を押しのけるような形ではなく、社長として会社のことを常に考えている私が責任ある対応を心がけることで、“説得力のある経営”を目指しています。2023年までは、年に2回、社員一人ひとりに800文字程度の手書きのメッセージを送っていました。

また、年に2回開催する経営方針発表会では、1日かけて各部署の計画発表と、会社としての目標を共有しています。全社員が発表の機会を持てる大切な場です。幸い社員同士の関係は良好で、退職事例はほとんどありません。実際に、正社員の離職率は全国平均を下回る水準であり、2024年には「やまぐち働き方改革推進優良企業表彰」の優秀賞を受賞することができました。

プロ集団が実現するギフトのワンストッププロデュース

ーー改めて貴社の事業について教えてください。

小野典子:
弊社は、スイーツを中心としたギフトの総合プロデュースを行っており、製造工程を除く、企画、デザイン、パッケージ、発送までを一貫してサポートしています。さらに、千疋屋総本店やホテルオークラといった有名企業とのコラボレーションによる独自のお菓子の企画・販売も手がけています。このようなビジネスモデルと、多品種を取り扱いながら少量発注ができる仕組みの実現により、カジュアルギフト市場を創出したとして、公益社団法人中小企業研究センターが主催する「グッドカンパニー賞」を受賞しました。

この仕組みを実現できているのは、長く勤める社員が多く、プロフェッショナルがそろっているからだと考えています。さらに、社内がワンフロアで構成されており、部署の垣根を越えた円滑なコミュニケーションが可能な点も強みです。弊社のビジネスモデルに興味を持ち、多くの業界関係者が見学にいらっしゃいますが、製造から発送まで総合プロデュースを行うモデルを実現した企業はまだありません。

ーーECサイトで商品販売を始めたきっかけをお聞かせください。

小野典子:
弊社のECサイトは自社で、これには明確な理由があります。焼き菓子は賞味期限が短く問屋を通すことが難しいため、販売方法はメーカーによる直営店舗での展開か、催事でのブース出展、あるいはECサイトに限られます。また、焼き菓子は少量を求めるお客様も多いため、弊社では多彩なラインアップを揃え、5個から注文できる仕組みを導入しています。焼き菓子は少しの空気混入でも品質が損なわれやすく、梱包や配送にも細心の注意が必要です。このような制約がある中、販路拡大を目指してECサイトの展開を決めました。

贈る人も贈られる人も満足できる新発想のギフトシステム

ーー今後の目標について教えてください。

小野典子:
2つの目標を掲げています。1つ目は、スイーツをトータルでプロデュースできる会社になることです。具体的には、ブランドスイーツ、お土産スイーツ、エンタメスイーツ、冷凍スイーツのほか、雑菓子といった多様なカテゴリーを網羅し、それぞれをプロデュースできる体制を目指し、新商品開発に注力していく考えです。

2つ目は、地域産品のさらなる拡販です。地域の特産品は自家消費よりも贈答用として選ばれることが多いですが、贈る際に「どれを選ぶべきか」と迷うことが少なくありません。そこで、たとえば4種類の商品を選んで贈ることのできるシステムの構築を進めており、この仕組みを通じて、地域産品の流通をより活性化させたいと考えています。

ーー今後の展望についてはどのようにお考えですか。

小野典子:
弊社は地方に根ざした企業として、その独自性を活かしつつ、これまでにないビジネスモデルで地域全体の活性化に貢献できる存在でありたいと考えています。地方に人を呼び込むことが難しい現状において、新たな販路開拓を通じて生産者の抱える課題を一つひとつ解消し、最終的には首都圏で「山口県にこんな面白い会社がある」と話題になるような企業になることが目標です。「地方から全国へ」というモットーを胸に、事業規模が大きくなっても着実に成長を続け、地域発の新しい価値を届け続けていきます。

編集後記

小学生のころから抱いていた夢を実現し、社員一人ひとりの思いを丁寧に汲み取る小野社長。その姿勢からは、社員を家族のように思う温かさが伝わってくる。ギフトの可能性を広げ、新たな需要を創出してきた株式会社アデリーの事業は、地元産品を軸に地方から全国へ、さらには世界へとつながる新たな地方創生の形を予感させる。

小野典子/1972年、山口県生まれ。ギフト商社大手に入社し、情報システム部門で2年間務めたのち、1993年株式会社アド(現:株式会社アデリー)へ入社。商品企画開発の事業本部長を経て、2013年に代表取締役社長に就任。現在も新商品の開発に積極的に参加し、サービス向上に努めている。