
全国から生マグロの仕入れを行い、船橋市場内でマグロ加工品の製造・販売をメインに手がける新生水産株式会社。同社は独自の加工技術と冷凍技術を活かした高品質な商品を提供している。今後は海外展開も視野に入れ、新工場建設や品質管理体制の強化に取り組む同社の代表取締役社長、澤浩二氏に話をうかがった。
出身地の縁がもたらしたマグロとの出会い
ーー水産業界に入ったきっかけを教えてください。
澤浩二:
私が水産業界に入ったきっかけは、私の出身地が島根県の隠岐の島であることと、ねぎとろのリーディングカンパニーとして知られる赤城水産株式会社(現:株式会社大栄フレッシュ)の方々に強いつながりがあったことでした。
高校卒業後、私は健康器具を扱う会社に就職して働いていました。私は器具の営業をする際に「隠岐の島出身です」と書いたパネルを持っていたのですが、あるとき、そのパネルを見た赤城水産の方から「うちの会社にも隠岐の島出身者がたくさんいますよ」と声をかけられたことがあり、話をしているうちに意気投合し、そのまま入社。意外な出会いが水産業界でのキャリアスタートのきっかけです。
ーーその後の歩みについてお聞かせください。
澤浩二:
赤城水産でマグロ加工品の営業として5年ほど経験を積んだ後、赤城水産の創業者とともに赤城マリンフーズの設立に参画。その後、マグロを扱う別会社での経験を経て、2005年に全国漁業協同組合連合会の直販部に入社しました。ここでは生マグロの買付やカット、量販店への出荷という重要なスキルを身につけ、そして、2012年に独立を決意し、弊社を立ち上げたという流れです。
最初は埼玉の自宅で生マグロの卸売事業をスタートさせましたが、前職のつてがあり、2年後には現在の船橋市場に入ることができました。幸いなことに市場内には小さな加工場の居抜き物件があったため、「これを機に、マグロの加工もやってみよう」と、少しずつ事業を拡大させました。
マグロを余すことなく活かす加工へのこだわり

ーー貴社の事業内容について教えてください。
澤浩二:
船橋市場内に本工場と第2工場を持ち、ねぎとろやマグロの切り落としなどのマグロ加工品を中心に製造、販売を手がけています。現在は、サーモンやイカなどの製品も手がけています。創業当初は生マグロの卸売が中心でしたが、現在では売上の8〜9割をマグロ加工品が占めるようになりました。
弊社のマグロの切り落としは一般的なものとは異なります。一般的に「切り落とし」というと、サクや刺身をとった後の端材というイメージがありますが、弊社ではマグロ1本全体を使って「切り落とし」を生産しています。お客様に美味しいものをなるべく安く届けることをモットーに、筋の少ない部位を使い、形も綺麗に仕上げることで、高品質な商品を提供することが可能になっています。
ーー貴社ならではの技術にはどのようなものがありますか。
澤浩二:
私たちが力を入れている技術の一つに、沖縄の「雪塩」を活用した冷凍技術があります。通常、冷凍マグロは解凍すると水っぽくなったりざらついたりするという課題がありますが、弊社独自の冷凍技術を活用することによって、浸透圧の作用により身が引き締まり、解凍後もドリップがほとんど出ない、もっちりとした生マグロの食感を実現。より生に近い食感を保てるようになりました。
この技術を使った商品は約3年前から販売を始めており、多くのお客様からご好評いただいています。
「新生」の名に込めたチャレンジ精神で海外展開への道を切り拓く

ーー今後の展望についてお聞かせください。
澤浩二:
現在は、海外展開に向けて、より高度な衛生管理体制の構築と新工場の建設を進めているところです。新工場では、国際的な衛生基準として認められているJFS-C規格の取得を目指しています。この規格はいわば食品安全の国際パスポートのようなもので、これを取得することで海外輸出の道が大きく開けると考えています。まずはシンガポールやインドネシアなどのASEAN諸国で実績を積み、将来的にはアメリカなどにも展開していきたいですね。
「新生」という社名が示す通り、弊社では、常に新しいことにチャレンジし続ける企業文化を大切にしてきました。チャレンジには失敗もつきものですが、それを恐れずに前に進むことで成功を掴めると信じています。これからもマグロ加工のプロフェッショナルとして、日本の品質を世界に広げていけるよう、全社一丸となって取り組んでまいります。
編集後記
澤社長の「お客様に美味しいものをなるべく安く届ける」という一貫した姿勢が印象的だ。生マグロから加工品へと事業内容は変化しても、品質、安全性、価格へのこだわりは変わらない。マグロ1本1本に合わせた丁寧な加工技術、品質を保持する冷凍技術、そして、会社を支える社員の存在は、新生水産の強みそのものだろう。誰もがチャレンジできる企業文化のもと、新生水産のマグロ加工技術が世界に広がっていく未来が楽しみだ。

澤浩二/島根県生まれ。高校卒業後、健康器具を扱う会社に入社。24歳で赤城水産株式会社(現:株式会社大栄フレッシュ)に入社し、マグロ加工品の営業を担当。退職後、株式会社赤城マリンフーズの設立に携わる。その後、全国漁業協同組合連合会に入職し、直販部で生マグロの買付や流通を経験。2012年に新生水産株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。