
少子高齢化が進む日本で、地域社会の価値を守り育てる株式会社フューチャーリンクネットワーク。同社が展開する「まいぷれ」は、地方自治体や地元事業者の情報を、その土地ならではの付加価値とともに発信する情報プラットフォームだ。
地域に密着したパートナーによる運営体制を構築し、情報発信だけでなく雇用創出を通じて地域活性化を支援。さらに、廃校を利活用したプロジェクトなど、各地の課題解決にも積極的に取り組んでいる。地方の未来を切り拓く同社の事業について、代表取締役の石井丈晴氏にお話をうかがった。
地方の個性が失われる危機感から起業を決意
ーーどのような経緯で起業に至ったのですか?
石井丈晴:
私は大学在学中から、「いつか起業したい」という思いを抱いていました。就職活動では商社を中心に見ていましたが、株式会社リクルートの自由な雰囲気と幅広い事業内容、成長環境などに惹かれて入社を決意したのです。私自身は営業職として活躍したいと考えていましたが、配属先は人事部でした。
リクルート社に在職中は、地方に出張に行く機会が数多くありました。その際、私が気になったのは、どの町に行っても似たような印象を受けることでした。これは当時、居酒屋を始めとする飲食チェーン店の全国展開が一気に広がって、どこの町にも同じようなデザインのお店が出店していたためです。
このような地方の状況と少子高齢化の加速が相まって、私は地域ごとの多様性がなくなりつつあることに懸念を抱きました。
そこで、「その地域ならではの個性や価値が、もっと活かされる時代にしなくてはいけない」と思い、「地域活性」を事業のテーマにして弊社を立ち上げたのです。会社を設立した当初は、営業手法も売上の立て方もわからず困りましたが、外資系コンサルタントに勤めていた友人が手を貸してくれたおかげで困難を乗り越えることができました。
地域の魅力を発信するプラットフォームへの挑戦

ーー貴社の事業について教えてください。
石井丈晴:
弊社の事業は、地域活性化を軸に2つのセグメントに分かれています。1つは地域情報プラットフォーム「まいぷれ」を運営する地域情報流通事業で、もう1つが国や自治体の課題を解決していく公共ソリューション事業です。地域情報サイトの「まいぷれ」では、事業者や自治体の情報を各地域の利用者に向けて発信しています。
地域情報プラットフォーム「まいぷれ」では、地域事業者のマーケティング支援に取り組んでいます。例えば、創業当初から情報発信の窓口になっている、地域情報サイト「まいぷれ」では、単にクーポンや割引の情報を掲載するのではなく、そこでしか味わえない体験やサービスの付加価値の部分に焦点を当てた情報を発信しています。
また、「まいぷれ」の全国展開については、地域に雇用を生み出すためにフランチャイズに準じた仕組みを採用しました。弊社が提供する「まいぷれ」のノウハウとシステムのライセンスを活用して、各地域の運営パートナーが地域情報プラットフォームを運営しています。
事業を立ち上げたばかりのころは、まだ「プラットフォーム」という言葉が定着していなかったため、弊社のサービスを周知・浸透することに苦労しました。しかし、そうした壁を乗り越えて、「まいぷれ」の価値を理解していただけたときは、本当に嬉しかったですね。これまでフリーペーパーなどの紙媒体で集客していた事業者の方が、「まいぷれ」を通じてデジタルマーケティングに移行するというケースも見られました。
「慣れるより理解しろ」の人材育成哲学
ーーこれからの貴社に必要な人材について教えてください。
石井丈晴:
弊社は「地域活性化」という明確なビジョンを持っていますが、事業内容は時代に合わせて絶えず変化と進化を続けています。また、弊社の事業は特許や技術、製造ラインなどがあるわけではなく、競合もいないため、人材の価値がそのまま企業の価値に直結します。それゆえ、弊社で働く人には、ビジョンへの共感はもちろん、周囲の状況の変化に対応できる能力が必要です。
私は社内でよく「慣れずに理解する」と伝えています。これは、「前例や仕組みに慣れてしまうとイノベーションを起こせない。しかし、イノベーションを起こして新しいものをつくるためには、前例や仕組みを理解する必要がある」という意味です。
一見非効率に見える前例や仕組みにも、必ずそれが生まれた理由・背景があります。その理由・背景の部分を理解しながらイノベーションを起こせる人材がほしいですね。
中途採用であれば、自分自身でオーナーシップを持って前例にとらわれずに業務に取り組める人材を希望しています。積極的であれば、どんな経験も活かせるのですから、何事にも挑戦していただきたいと思います。
日本発の地域活性化モデルを世界へ広げたい
ーー最後に貴社の今後の展望をお聞かせください。
石井丈晴:
弊社は現在、廃校利活用事業に取り組んでいます。街の中心部にある学校が使われないままなのは非効率ですし、なにより街に活気がなくなります。この廃校を上手く活用できる仕組みがあれば、よりサステナブルに地域を盛り上げられるのではないか。こういった仮説に基づいて、弊社は千葉県の房総エリアにある廃校となった小学校を地域の方に使ってもらえる施設として利活用を進めています。
また、これからの時代はITプラットフォームの運営にAIの活用が必要不可欠になると考えています。たとえば、プラットフォームで集めた情報をAIで分析して事業者の方に最適なサービスを提案するなど、事業者支援にAIを活用していきたいですね。
私は少子高齢化の日本において、人手不足の解消にAIを使用する手法は地域にこそ伝播すべきだと考えています。地域の事業を変革させる技術としてAIの活用方法を模索することが、弊社の今後の課題になるでしょう。
こうした取り組みを体系的にまとめて、いずれは海外の地域活性化にも役立てたいですね。日本が現在直面している少子高齢化に、海外の国々もいずれ直面する日がくると思います。そのときに、「人口が減った地域では、こうすればコミュニティを活性化し続けられる」という提案をしたいのです。これから10年以内にそれができるようにしたいと考えています。
編集後記
「慣れずに理解する」。前例を否定するのではなく、その背景まで深く理解した上で新しい価値を生み出していく姿勢は、地域の伝統や文化を守りながら、時代に即した形で発展させていくという同社の事業そのものを表しているように感じた。各地域に根付いた価値を、より多くの人々に届けようとする同社の挑戦は、日本の地方が抱える課題に対する一つの解となるだろう。

石井丈晴/1973年、千葉県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、株式会社リクルートに入社し、人事部で活躍。社会の役に立つ事業を担いたいと考え、2000年に独立し、「地域活性化」をキーワードに株式会社フューチャーリンクネットワークを設立。地域の付加価値拡大を目指し、地元企業と協業しながら全国で地域情報流通事業を展開している。