
1914年創業の竹虎ホールディングス株式会社。ガーゼや包帯といった医療分野の衛生材料をはじめ、福祉・健康分野など幅広い商品を展開するだけではなく、自社工場を持つメーカーとしても発展してきた。時代のニーズに合わせて事業を拡充する同社の強みや、商品開発の裏側を代表取締役社長の飯島幹夫氏にうかがった。
老舗の医療用品メーカーで「介護・福祉用品ビジネス」を立ち上げ
ーーこれまでの経歴についてお聞かせください。
飯島幹夫:
高校時代に始めたボランティア活動をきっかけに、「障害者のための施設を作りたい」と思うようになりました。医療の世界をもっと知るべく、大学卒業後は医薬品の卸売会社に3年ほど勤務しました。そこで「竹虎」創業家のご子息と一緒に働いたご縁から、1987年に弊社へ入社したという経緯です。
かつての竹虎は、病院向けの医療用消耗品をメインに取り扱っていました。しかし、在宅介護用の事業を展開する上で、病院とは異なるニーズに気づき、製品の開発・改良を行う事業部を立ち上げました。これはキャリアの転機だったといえます。
弊社が4つに分社化した2003年に、私は福祉分野を担う「竹虎ヒューマンケア株式会社」の社長を任されました。2012年に「株式会社竹虎」と「竹虎ヒューマンケア株式会社」が合併したのち社長となり、2017年に竹虎グループ全社の代表取締役に就任した次第です。
ーー開発事業部を立ち上げた経緯はどのようなものでしたか?
飯島幹夫:
1990年に、ジェトロ(日本貿易振興機構)による外部専門家の短期派遣事業に参加しました。当時30歳だった私は、福祉用具の発掘を目的にアメリカやヨーロッパに滞在し、デンマークで「天井走行リフト」という機械に出合ったのです。
天井から吊るしたリフトに介護対象者を乗せて、室内を移動できる機械があれば、介護をする方の負担を大きく減らせると思い、すぐにでも竹虎で販売して「日本に広めたい」と考えました。しかし、布・紙製品を中心とする弊社には電化製品の取扱いはハードルが高かったのです。
それでも、「天井走行リフトによって日本の福祉を変えられる」と強く思い、先代の社長を口説き落とす形で販売環境を整えました。福祉用具ビジネスのために立ち上げた「社会福祉研究室」は、今でいう企業内ベンチャーに近いといえるでしょう。
その他にも自ら開発した製品を全国に販売し、工場での製造指導や販売先の開拓など、あらゆることを経験しましたね。現在も、介護される方と介護を支える方々の目線に立った製品づくりを心がけています。
ガーゼ・包帯から国内シェアNo.1の歩行サポート器具まで

ーー事業内容や企業の強みを教えてください。
飯島幹夫:
ガーゼ・脱脂綿・包帯といった医療衛生材料の販売からスタートし、現在は、手袋やマスク、ガウンなど幅広い製品を取り扱っています。創業から111年を超える歴史の中でも変わらない根幹は「医療になくてはならない商品」を提供するという考えです。
介護用製品についても、据置型・天井走行リフトの「かるがる」シリーズをはじめ、自社開発したスリングシート(移動用品)や寝間着など、多岐にわたります。中でも、機能・サイズの展開が豊富な歩行車の「ハッピー」シリーズは、国内シェアトップクラスの実績を誇ります。
医療用・介護用の両方を手がけるだけではなく、さまざまな商品を生み出している国内メーカーは多くありません。しかし弊社は、医療機系の販売会社からメーカーに転身しつつある中で、「幅広いニーズに対応できる形」を追求してきました。
自社工場で製造している製品もあれば、商社を通して輸入している製品もあり、さらにはオリジナル商品を外注生産しているケースもあります。長い歴史で蓄積されたノウハウと流通ルートを生かし、いろいろな方のサポートを得て築いたシステムなので、他社には簡単に真似できないといえるでしょう。
医療・介護に欠かせない「気づく心と伝える力」で商品を提案
ーー社風や人材育成の特徴も教えていただけますか?
飯島幹夫:
「社会貢献につながる仕事をしたい」「人のためになる事業に協力したい」という思いを持った社員が多いですね。「医療・福祉・健康分野の商品を通し、人々の生活を豊かにし、社会に貢献する」という会社の方向性に共感したメンバーが集まっています。
人材教育においては、医療・介護の専門性と「気づく心と伝える力」を高めることが重要だと思っています。宿泊研修では2024年度、全社員を4つのグループに分けて研修を行いました。この研修ではゲームやディスカッションも交えながら、相手の気持ちに気づき、理解して伝える力を養うことをテーマに、私自ら講師となって直接教育を行いました。
社内においてはヒアリングシステムを導入しました。事業計画を基にトップダウンされたことを行動に移し、問題があればボトムアップという形で、現場から上長を介しながら最終的には私にまで情報が届く。問題解決のスピードがアップしました。また、商品開発に関しては開発部門のみならず、全社員が「提案者」であって欲しいという願いから、いつでも提案ができる環境にしています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
飯島幹夫:
代表取締役に就任して以来、全国の事務所を新しくするなど、労働環境の整備に注力してきました。これからも、工場やオフィスのDXを含めて、従業員がより良い環境で働けるように努めたいと思います。
介護用品は、現実的には「あまり見たくない商品」だといえます。しかし、急に必要になるシーンがあるからこそ、私たちは素早く提供できる体制を守らなければいけません。時代やユーザーの体験も変化するので、未来を想像しながら商品開発を進めていきます。
編集後記
30歳の一社員が当時の社長に直談判し、在宅介護用ビジネスを立ち上げたという印象的なエピソード。「誰かの生活を助けられるはず」という強い熱意が、類稀なる行動力につながったのだろう。今では飯島社長の思いに共鳴した社員が、しっかりと「現場の声」を拾い上げている。人の思いがこもった商品だからこそ、多くの人に選ばれ続けるのだ。

飯島幹夫/1962年生まれ。日本大学卒業。1987年に竹虎株式会社へ入社。2017年、竹虎ホールディングス株式会社の代表取締役社長に就任。