※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

株式会社エトワール海渡は、小売店への卸売・販売サポートのほか、衣・食・住にわたる商品の商品企画やリテールサポートを行う総合卸商社だ。

同社は実際に商品を手にとって試せる大規模ショールームとECサイトやSNSといったデジタルチャンネルとを組み合わせ、事業を通して「それを使うことで生活者の気分が上がる」ような商品を発信している。今回は代表取締役社長の早川謹之助氏に、社長就任の経緯や事業の強み、今後の展望を聞いた。

デザイン事務所を設立後、祖母から会社を引き継ぎ総合卸商社の社長に

ーー社長就任の経緯を教えてください。

早川謹之助:
多摩美術大学へ入学後、在学中はグラフィックデザインをより専門的に学ぶためにアメリカへ留学し、帰国後にデザイン事務所を設立しました。デザイン事務所設立前にも、ネットショップを立ち上げてアパレル商品を販売するといったことをしていたので、もともと商売好きな気質があったのだと思います。

デザイン事務所を始めて3年ほど経った頃、当時エトワール海渡の社長だった祖母から「会社を手伝ってほしい」と言われたのが、入社のきっかけです。最初はデザイン周りのことを手伝うだけでしたが、祖母も高齢になり、自分が会社を将来につなげていかなければと思い、2011年に社長に就任しました。

ーー社長就任後に活かされた、過去の経験などを教えてください。

早川謹之助:
自分でデザイン事務所を経営していたとき、売り上げをコンスタントに上げるために、複数のクライアントを持たなければなりませんでした。大きな取引先を見つけるのは大変で、下請けとして仕事を受けるだけでなく、元請けの営業担当者と一緒に営業に回るなど、仕事を自分からつくり出す工夫はたくさんしましたね。

当時、クライアント先の一社であった会社の社長に気に入られて、デザインそのものだけではない分野の仕事をお手伝いする機会にも恵まれました。

会議に同席したり、話し合われたコンセプトをビジュアル化したり、ロジカルなプレゼンの方法やビジュアルで直観に訴える整理の仕方を学んだりと、情報編集という観点で為になることが多く、非常に鍛えられた時期だったと思います。

リアルとデジタルを融合させた独自の事業戦略

ーー事業内容についてお聞かせください。

早川謹之助:
弊社は、小売店を対象とした総合卸商社です。ファッション、インテリア雑貨、食品など生活に密着した幅広い商品を扱っています。自社で在庫を持たず、ただ卸すだけという商社もありますが、弊社は自社で買取仕入れを行っていることが特徴です。リスクをとっているからこそ、目利き力も高まり、サプライヤーからも厚い信頼を寄せていただいています。

また、弊社の特有の強みとして、リアルとデジタルのハイブリッドでの事業展開を行っています。リアルでは日本橋馬喰町に5,000平米の大規模ショールームを構え、デジタルでは取引先サプライヤー2,500社による70万アイテムの商品が掲載された多言語対応のECサイト「ETONET(エトネット)」を運営しています。

ーーECサイトとショールームについて詳しく教えてください。

早川謹之助:
弊社のお客様が仕入れをする時には、ECサイトへアクセスし、商品のバーコードをスキャンするだけで、在庫確認や発注・決済が可能です。弊社のショールームで実際に商品を手に取って見ながらでも、お客様の店頭でも、その他どこにいても、いつでも同じように仕入れができます。商品は弊社の倉庫から直接お客様にお届けします。

ECサイトではバイヤーを中心としたスタッフのブログも掲載しています。たとえばハンカチであればハンカチ専門バイヤー、スリッパであればスリッパ専門バイヤーから発信される鮮度の高い情報や知識は、お客様から仕入れに役立つと好評をいただいています。

小売店向けの会員制ショールームは2023年7月にリニューアルしたのですが、その一階にBLOCKSという空間を作りました。ここでは、日本のモノづくりの魅力を伝えるためのワークショップを開催したり、職人によるプレゼンテーションを実施したりしています。ショールームの並びには国内外のクリエイター作品を扱うショップ「MONOTIAM(モノティアム)」があり、こちらは一般のお客様でもお買い物を楽しんでいただけます。

「日々の気分が上がるモノ」を提供し続け、日本の風土と結びついた商品を発信

ーー貴社ではどのような価値観を大切にしていますか。

早川謹之助:
私たちが大切にしているのは、「日常×気分上げ」です。「日々の暮らしの中で使うモノ、そしてそれを使うことで気分が上がるモノ」を提供することです。

弊社の社員たちはファッションや雑貨、食品などに精通した「モノ好き集団」です。そういった私たちの目利き力を活かして、人々に気分の上がるモノを発信していくことが大切だと考えています。発信の際は、ただ商品のスペックを伝えるのではなく、その商品に対する熱量なども伝えられるよう意識しています。

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

早川謹之助:
日本の風土と結びついた商品を発信し、将来につなげることをしていきたいです。ファッションの世界では、大量生産・大量消費の弊害への反省から、環境負荷の少ないエコ素材に着目が集まるなどSDGsの考え方が広まってきました。エトワール海渡は、作り手へのリスペクト(敬意)を持って商品を扱い、産地の風土や文化や作り手の思いがこもったモノを流通させる。それが私たちなりのSDGsだと考えています。

たとえば、国内生産のアパレル商品は1割ほどしかないと言われていますが、日本には素晴らしいモノづくりをしているメーカーがたくさんあります。安さや効率だけを追求するのではなく、先ほど申し上げた産地の風土や文化や作り手の思いがこもった質の高い商品を作られています。

原材料から糸、生地、染色、縫製、商品企画、販売に至るサプライチェーンの中で、関係者の繋がりを結び直し、そうした質の高い国内生産品の流通量を増やしていけるよう業界団体へ働きかけていこうと思っています。またアパレルだけでなく、弊社が扱っている全てのカテゴリーについても同じように考えています。

そうした私たちの考える理念の一部でも、共感してくださる方々と共に仕事をしていくことで、私たちも新たな刺激をいただき、そうした仲間たちとの循環の環が広がっていくことが、私にとって最も嬉しいことです。

そして弊社に入社してくださる方には、日本のきめ細やかなものづくりや、風土に結びついたものづくりに興味を持ってもらい、効率性や目先の収益以外にも目を向ける弊社の価値観にも賛同してもらえたら嬉しいです。

編集後記

安くてトレンドに乗っていることが重要視されるファストファッション全盛の風潮の中、あえて日本のモノづくりに焦点を当てるエトワール海渡は、日本人に新たな気づきを与えようとしているように感じた。ショールームのリニューアルやECサイトの多言語化など、果敢に挑戦する同社。今後も新たな手法で人々に新たな気づきを与え、日本のモノづくりの素晴らしさを世界に広めてくれるに違いない。

早川謹之助/1977年東京生まれ。1999年多摩美術大学造形表現学部在学中に渡米し、Digital Hollywood Institute of Media Artsに留学。グラフィックデザインを学ぶ。2001年デザイン事務所シナプスプラスを設立、代表を務める。2004年エトワール海渡入社。取締役経営企画部長、代表取締役副社長を経て、2011年7代目代表取締役社長就任。