
株式会社トクラ大阪は、ベーカリーや和洋菓子専門店、ホテル、レストランなど、幅広い顧客に製菓・製パン向け原材料や包材を卸販売している会社である。関西エリアを中心に事業を展開し、製菓製パン機械の販売や店舗開業サポートも手がけている。
代表取締役社長の杉江正治氏に、同社が老舗問屋の事業を引き継ぐことになった経緯や、事業の強み、DXへの取り組み、そして今後の展望を聞いた。
大阪進出を目的に日東商会の卸売事業を継承し、新会社を設立
ーー会社設立までの経緯をお聞かせください。
杉江正治:
大学卒業後、自動ドア用センサーなどを開発している滋賀県のベンチャーだったオプテックス株式会社に入社しました。
入社後は営業職で新規事業部に配属され、販促やマーケティングの業務を担当しました。当時の上司が29歳で課長の職に就いており、若いながらも活躍している姿を見て「自分もこんなふうに活躍したい」と思ったことを覚えています。
その後、阪神・淡路大震災をきっかけに「事業を手伝ってほしい」と義父が社長を務める戸倉商事から声をかけられ、転職することになりました。当時の戸倉商事は機械の製造販売と食材の卸販売の2事業で成り立っており、私は食品の卸販売事業に営業職で入社しました。
この頃は滋賀と一部の京都エリアだけでビジネスを展開していましたが、関西の中心といえば、やはり大阪です。大阪に進出しなければ、いち早く業界の情報を手に入れることも、メーカーとより濃いつながりをつくることも難しい状況にありました。
そんな折、あるメーカーから、卸売問屋の日東商会を紹介してもらえることになったのです。日東商会は当時、製菓・製パン原材料の卸業部門の事業を継承する企業を探しており、顧客層や営業スタイルが似ていたことから、私たちが継ぐことを決意しました。そして、2014年に株式会社トクラ大阪として新会社を立ち上げ、私は取締役専務に就任し、大阪への進出も果たしました。
「大阪に進出したい」と言い続けたからこそ、日東商会を紹介してもらうことができました。達成したいことは口に出し、思い続けることで夢は叶うのだと実感しましたね。
また、私は会社にとって一番大切なものは、人材だと考えています。そのため、日東商会の事業を引き継ぐ際も、同社の従業員たちにはそのまま仕事を続けてもらうことを条件に提示し、了承してもらいました。
材料と機械の両方を取り扱い、人材の質が高いことが強み

ーー事業の特徴を教えてください。
杉江正治:
弊社は製菓・製パンの原材料を卸している会社で、ほかにもベーカリーで使用する機械の販売や紹介も行っています。
店舗をオープンする予定のお客様は、最初に機械を決め、それから材料を選ぶことがほとんどです。弊社は機械の提案からお客様と関わることができるので、お客様と早い段階で打ち合わせができ、全体のスケジュールを早期に把握し、店舗のオープン日に合わせて余裕を持って材料を提供できる点が強みです。
ーーそのほかにも、貴社の強みはどういった点にありますか。
杉江正治:
営業担当者の質の高さです。実際に、弊社と取引をしていた店舗のシェフが独立した際に、弊社をご指定いただくことが少なくありません。そのため、自ら積極的に新規開拓しなくても、既存店との繋がりを現場レベルで行うことでお客様を増やすことができています。
配送営業の担当者はシェフのニーズに合った提案ができるよう、時間をかけて最適な商品を探す努力をしています。そうした努力がシェフにも伝わって、信頼関係が築けているのだと思います。
ただ、いくら人材が良くても、商品が悪ければ売れないものです。シェフの高度なニーズに応える商品の取り扱いがあり、それを的確に提案できる点が弊社の強みです。
営業マンにはiPadを持たせ、ビジュアルで分かりやすく商品を提案できるようにするなど、提案の質が均一に保てるように工夫を施しています。
また、時代の流れをいち早くキャッチして、実行に移せる点も強みです。たとえば弊社では、今まではお客様のもとへ出向き、商品を冷蔵庫や冷凍庫に分けて収めることをサービスの一環として行っていました。しかし、相当な手間がかかっていました。
そこで、コロナ禍をきっかけに衛生面を第一に考え、商品は軒先渡しにし、収納はお客様に行ってもらうように変えました。これにより、納品時間を大幅に短縮でき、その後、ほかの企業も同様の流れが慣例になったという事例もあります。
受発注システムの開発など、DXの取り組みで会社の経費を削減

ーー現在、どのような取り組みに力を入れていますか。
杉江正治:
DXにまつわるさまざまな取り組みに力を入れています。その1つが、受発注システムの開発です。今までは事務員が伝票を手作業で打ち込んでいましたが、自動化できるシステムを自社仕様で開発し負担を減らした結果、事務員1人あたりの時間外が数時間程度まで圧縮できました。
また、従来は当日の朝に配送荷物を積み込んでいたのを、前日に積み込むことで、渋滞時間が避けられ、配送スタッフの残業時間を減らすことに成功しました。そのほか、基幹システムと連携できる自社開発のWeb請求書システムの活用なども進めています。
ーー今後の展望について教えてください。
杉江正治:
弊社の事業にはまだ成長余地が多くあり、今後もこの世からなくならない商売だと思います。これからも豊富な商品知識を活かして、お客様に付加価値を提供していくつもりです。
また、現在弊社は滋賀と東大阪に拠点がありますが、良いご縁があればもう1拠点を増やしたいと考えています。商品を分散して在庫することで、もしどこかの倉庫で問題が起こっても、ほかの倉庫から商品を供給するといった方法でカバーできるからです。
2016年に新しく社屋を完成させたとき、「売上高15億円の達成」を目標に掲げましたが、その目標は今期達成できそうです。日東商会時代の売上高5億円から、さらに10億円を伸ばすことができました。「お役に立てる正しい考え方」なら売上は後からついてくると考え、今後も業務の効率化などを進めて会社を成長させていきたいと思います。
仕事を通して私が大切にしているのは「守破離」の考え方です。これは、茶道や武道で受け継がれてきた日本独自の考え方で、社員たちにはより分かりやすいよう「コピー・アレンジ・オリジナリティ」と言い換えて伝えています。たとえば「守」の部分は、自分より何かに長けている人を「コピー(真似)する」こと。いずれ自分なりの独自性を発揮するには、まず模倣から始めることが必要です。社員たちにもこの考え方を意識してもらいたいと思い、伝え続けています。
編集後記
2014年に設立された新しい会社でありながら、老舗である前身から続く確かなノウハウも持っている点がトクラ大阪の大きな強みだと感じた。人材の育成やDXへの取り組みなどを通して、さらに成長しようと挑戦を続けている同社。売上高15億円達成を経て、次に何を目指すのか、今後の動きにも注目したい。

杉江正治/1967年滋賀県生まれ、大阪電気通信大学卒業。1991年、オプテックス株式会社へ入社後、1996年、戸倉商事株式会社に入社し食品卸業に従事。2014年、株式会社トクラ設立。大阪の取締役専務に就任。事業の実質責任者として邁進し、2024年、同社代表取締役社長に就任。