※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

神奈川県横浜市に本社を構える株式会社アイネットは、独立系データセンター企業として長年の運用実績を誇る。40年前、徒歩で通える距離にあることを理由に入社した若者が、いまや社長としてその舵を取り、AIやIoTを駆使した新たなビジネス領域への挑戦を推進している。その成長の原動力を探るべく、株式会社アイネット代表取締役兼社長執行役員の佐伯友道氏に、未来への展望とキャリアの軌跡をうかがった。

チャレンジ精神が息づく社風と社会インフラを支える使命感

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

佐伯友道:
弊社の事業には、システム開発サービスと情報処理サービスの2つの柱があります。システム開発サービスでは、金融機関向けのシステムやコンビニエンスストアのPOSシステム、航空会社の予約システムなどの構築を手掛けており、情報処理サービスは、弊社のデータセンターが提供するさまざまなサービスを毎月課金制で提供するストックビジネス(定期課金制を採用したビジネスモデル)です。

弊社の強みは、業界や業種を問わない幅広い対応力と、4棟の自社データセンターを所有し、高いセキュリティを誇るサービスを提供できる点にあります。

また、現在はIoT、AIを活用した新しいビジネスにも積極的に取り組み、さらなる成長を目指しています。

ーー貴社の社風についてお聞かせください。

佐伯友道:
「安心して、冒険しよう」というキャッチフレーズのもと、新しい挑戦を積極的に推奨する文化を大切にしています。社員一人ひとりが主体的に行動し、自由に意見を発信できる環境づくりを重要視しているのです。弊社の創業者は、町のガソリンスタンドでの煩雑な作業を、システム開発と情報処理を駆使して改善するサービスを始め、そこから起業しました。その挑戦は間違いなく大きな冒険だったことでしょう。

事業を進める中で失敗はつきものです。私自身も何度も失敗し、辞めたくなったことがありますが、そのたびに創業者から「責任をとるとは事業を成功させること。失敗はすべて糧になるんだ」と教えられ、気持ちを切り替えて挑戦を続けてきました。

このように、周囲の協力を得ながら問題を解決して挑戦を続ける文化が、社内全体の活気や革新性につながっていると実感しています。

データセンター基盤から描く成長戦略

ーーIT事業としての使命をどのように捉えていますか?

佐伯友道:
弊社の使命は、情報技術を通じて社会を豊かにすることであり、特にデータセンターを基盤にしたインフラの提供は、業界や業種を問わず、現代社会の基盤を支える重要な役割を果たしています。

また、AIやIoTの活用による新しい価値の創造も重要な課題と位置づけ、積極的に推進中です。昨年、創業者である会長が他界し、生え抜きの社長として企業を率いる立場となりましたが、日本全国のどの企業にもお役立ていただけるサービスを提供できることが、弊社の強みであると自負しています。

前身の株式会社フジコンサルト設立から53年が経過しました。これまで各事業を個別に推進してきましたが、今後は事業間の連携を強化し、組織全体のシナジーを創出する方向に転換していきます。

具体的には、盤石なデータセンターの基盤の上に新規サービスを構築し、そこからさらに新たなサービスを生み出すプラットフォーム戦略を掲げています。リーマン・ショックやコロナといった危機的な時期もありましたが、事業バランスをとることで収支を安定させてきました。そのため、守りを重視した経営が続いてきましたが、時代の変化に伴い、新たな挑戦に踏み出す時期がきたと判断しています。

ーー新たな挑戦に向けた今後の展望をお聞かせください。

佐伯友道:
現在第3データセンターの検討を進めており、そのクラウド環境を活用して、既存のパッケージを持つ企業との協業や新たな独自サービスの構築、さらにはベンチャー企業支援を通じて革新を加速しています。さらに強固な企業基盤を築き、10年後を目途に、第4データセンターの稼働も視野に入れ、横浜発のクラウドサービスを世界に向けて展開していく考えです。

エンジニアから経営者へ 独自のワンストップサービスを確立

ーー入社から社長就任までのキャリアについてお聞かせください。

佐伯友道:
私は大学卒業後、エンジニアとして株式会社アイネットに入社しました。当初はアセンブラなどの特殊な言語を使ってシステムを構築する運用管理を担当し、その技術を活かしてホストコンピューターの運用管理や最適化などに携わりました。30代で立ち上げたメーリングサービスの新規事業の成功が、キャリアを加速させ、取締役への昇進につながったのです。

いつかは社長を引き受けることもあると内心は思っていました。そろそろというタイミングで2023年に就任しました。

ーーメーリングサービス事業の立ち上げについて教えてください。

佐伯友道:
メーリングサービスは、既存の大型印刷機や関連設備を有効活用できるのではないかというアイデアから、社内ベンチャーのような形でわずか4名でスタートしました。ただ、郵便法などの知識が不足していたため、一から勉強しながら進める必要がありました。昼間は営業活動で客先を回り、その後トラックを借りて郵便局へ発送物を持ち込む日々を続け、少しずつ事業を形にしていきました。

ーーどのように事業を拡大したのですか?

佐伯友道:
このサービスでは、請求書や納税通知書などをプリントアウトし、加工・発送するプロセスを効率的に行っています。自治体や金融機関をはじめとする多くの顧客に高品質なサービスを提供できる体制を確立し、重要書類を取り扱う性質上、情報の機密性にも徹底して取り組みました。人員が増え、パートスタッフが中心の現場体制になってからは、間違いを防ぐための厳格なルールづくりとマネジメントが不可欠となりましたが、これらの管理能力は現場での実践を通じて培われ、現在の信頼性の高いサービス基盤の構築につながっています。

当初は「IT企業としてこの事業はふさわしいのか」と疑問視する声も社内にありましたが、社会インフラの一環を支える重要性を社内外に説明し続けた結果、徐々に理解を得られるようになりました。

さらに、顧客管理データから見込みの高い発送先リストを出力するシステムを構築したことで、お客様の集客数や販売数の向上を支えるメーリングサービスへと進化したのです。現在では、システム開発から情報処理、封入・封緘(ふうかん)、発送までを一貫して行うワンストップサービスを強みとしており、この挑戦を通じて顧客満足度の向上と事業規模の拡大を両立させることができたと考えています。

編集後記

会社のトップとして全体を把握しつつも、細部にまで目を配るのは非常に難しいと思われるが、佐伯社長は、40年にわたる社内でのキャリアを通じて会社の隅々まで熟知している。その深い理解と豊富な実務経験は、上場企業の経営者として際立った特徴であり、大きな強みだ。創業者の思いをしっかりと引き継ぎながらも、時代に合わせて会社を新たな形に進化させようとする姿勢に深い感銘を受けた。株式会社アイネットの変革の実現とさらなる成長への歩みに、期待せずにはいられない。

佐伯友道/1962年、神奈川県生まれ。東海大学短期大学部卒業。1984年に株式会社フジコンサルト(現:株式会社アイネット)に入社し、主に運用技術者として勤務。2010年に取締役、メーリングサービス事業部長を経て、2015年に常務取締役に就任。SS本部長、DC本部長、ITMS本部長を歴任し、専務執行役員を経て2023年に代表取締役兼社長執行役員に就任。