※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

IT業界において長年課題となっているエンジニアの労働環境。この課題に対して、エンジニアが働き方を自由に選択できるSES事業を展開しているのが株式会社KAMINGである。正社員とフリーランスの選択制や案件の自己選択など、エンジニアにとって最適な環境づくりを追求。

さらにGoogle認定パートナーとしてVRプロモーション事業も手掛け、多角的な事業展開を進めている。市場の成長に逆らわずに着実な成長を重視する経営を貫く、同社代表取締役の神崎弘樹氏に話をうかがった。

外資系企業でピンチをチャンスに変えた

ーー起業前までの経歴についてお聞かせください。

神崎弘樹:
私はエレキギターが好きで、高校卒業後は音楽の専門学校に入学しました。バンド活動を続けるためにお金が必要だったので、当時全盛期の焼肉屋さんでアルバイトをしていたのですが、時給870円で店長代理をやっていました。レジ締めから売上管理、シフトの作成、在庫確認、発注など18〜19歳ぐらいで一通りの業務を経験しました。

その後、派遣社員として地元で働いていたのですが、20歳のときに本社移転のため「正社員にするので名古屋へ来ないか」とお誘いをいただきましたが、お断りして新しい職場を探すことにしました。

そのときに応募して採用されたのが、外資系のゼネラル・エレクトリック社だったのです。私のようにキャリアがなく、帰国子女でもなく英語が堪能でない人材は通常は絶対に採用されないようなのですが、焼肉店の店長代理のハードな業務を評価していただき、根性ありそうだからということでした。

最初は派遣社員として働いていたのですが、派遣された部署では、受発注状況が正確に管理されていなかったり、売掛・買掛が帳簿の金額とずれが生じていたり多大な納期遅れが発生しているなど、部署自体が大炎上していました。

そこで、受発注をExcelで正確にまとめ直して納品のスケジュールを決めていったり、帳簿を見直して計上ずれを修正したりするなど、1年間かけて改善していったところ、会社から大感謝され、「次は営業やってみないか?」と誘ってもらえました。派遣社員から直接雇用に切り替えてもらえたのです。「ピンチがチャンスに変わるとはこういうことか」と実感した出来事でした。

ーーどのような経緯で起業したのですか?

神崎弘樹:
直接契約になってからは、バンド活動を続けながら照明事業部の営業職として働いていました。何度かトップセールスにもなったのですが、最終的に配属されたLEDの分野では日本の競合他社が多数参入してきたため、ゼネラル・エレクトリック社の中で日本マーケットがあまり重要視されていないという風潮を感じていました。

また、バンドの方もメンバーの結婚や出産などで今のペースで活動を続けることが難しいと考えていたのに加えて、30代になったら自分の力で頑張ってみたいと思っていたので、その翌年に退職して自分の会社を立ち上げました。

マイナスイメージを逆手にとってクリーンなSES事業を目指す

ーー貴社の事業内容について教えてください。

神崎弘樹:
現在は、主にシステム・エンジニアリング・サービス(以下、SES)の分野で事業を展開しているほか、Google認定パートナーとして、GoogleストリートビューのVRプロモーション事業にも携わっています。

ーーなぜSES事業を立ち上げようと考えたのですか?

神崎弘樹:
当時、SES業界にあまり良いイメージがなかったからです。ただ、最初からこの事業を行うつもりでいたわけではなく、創業時は別の事業を立ち上げることを想定していました。そのため、シリコンバレーまで行って興味のある企業を訪問したものの、あまり上手くいかなかったのです。方針を変えて他の事業を模索していたときに、SES業界のマイナスイメージが強いというところに魅力を感じました。

競合他社が全てクリーンにやっている中で、よりクリーンな企業体質をつくろうとするのは至難の業です。しかし、業界全体がまだしっかりと整っていない段階で弊社が普通のことをやれば、簡単に他社より簡単に目立てますよね。笑結果として、採用において他社に勝ちやすいと考えたのです。

ーー貴社の強みや特徴はどのようなところですか?

神崎弘樹:
エンジニアが自分にとってメリットがある働き方を選べるところが、弊社の強みです。弊社では正社員で働くかフリーランスで働くかを、エンジニア自身が選択できるほか、受注する案件もエンジニア自身が選べます。

エンジニアに寄り添った働き方を目指して、「エンジニア・ファースト」というキャッチコピーを掲げてきました。「エンジニア・ファースト」という言葉を検索すると、さまざまな企業の名前が出てきますが、この言葉を理念として掲げたのは弊社が最初です。

ーー今後はどのように事業を成長させていきたいですか?

神崎弘樹:
美味しい料理を安く提供する、ファミリーレストランのような企業努力をしていきたいですね。会社が急成長することを求めたり、株式の上場を目指したりすると、どうしても何かを犠牲にすることになりがちです。

たとえば、弊社が市場の成長度合いを無視して事業を急拡大しようと考え、エンジニアの数を1,000人に増やすことを目標にすると、強引な営業になってしまったりサービスの質が落ちたりするかもしれません。「多数のエンジニアが所属している」という輝かしい実績だけをピックアップするのではなく、サービス全体の質を高めることを重視して事業を成長させていきたいです。

SES会社が急成長することを急いだり、株式の上場を目指したりすると、どうしても何かを犠牲にすることになりがちだと思っています。たとえば、市場の成長度合いを無視して事業を急拡大しようとすると、強引な採用や営業になってしまったりサービスの質が落ちたりするかもしれません。

または与実管理の一貫で利益をとりすぎて、エンジニアが不利益を被ったりするかも知れません。「多数のエンジニアが所属している」という輝かしい実績だけをピックアップするのではなく、サービス全体の質を高めることを重視して事業を成長させていきたいです。

弊社では中途採用がメインだったので、あまり研修制度を重視してこなかった節があるのですが、現在は「KAMI LABO」という勉強会を立ち上げています。SESで活躍するエンジニアは一定のスキルがないと実質的に早い段階で定年が訪れると考えるようになりました。

それは現場ごとに学べることが違ったり、そもそもあまり学びが薄い現場があったり、知らず知らずに凝り固まった考えが生まれてしまったりするからです。案件選択制は素晴らしい制度ですが、やはりこれだけは身につけた方がいいだろうという素養は、日頃から勉強する習慣を持っておいた方が良いと思います。

「一人だと継続が難しいから、みんなで勉強していこうよ!」という機会を提供し、顧客にもよいパフォーマンスを提供したいです。また、そのようなカルチャーを色濃く醸成していきたいと思っているので、新卒採用も始めていきたいと思っています。

競争原理に惑わされず、ユニークな事業をつくりたい

ーー将来を見据えたときに、どのような人材を採用したいとお考えですか?

神崎弘樹:
エンジニアはやはり技術職なので、勤勉でチャレンジ意欲が高い人を採用していきたいですね。いずれは体制をけん引するようなリーダーシップを持ちたい方も歓迎です。

また、総合職としては、現在社長直下で活躍ができるので、将来的には幹部メンバーになれる可能性が非常に高いのです。この規模の会社でそれができるのは珍しいと思うので、興味ある方は是非お会いしたいです。

ーー最後に貴社の将来展望をお聞かせください。

神崎弘樹:
市場の競争原理に巻き込まれないような、独自の道を進む企業でありたいですね。競合しにくいユニークな事業をつくり、それをつないでいきたいです。単一の事業だけではなく、さまざまな分野の事業体が数珠つなぎのようにつながって、一つの世界を形成する。そんな世界観をつくっていきたいと考えています。

編集後記

派遣社員時代に現場の混乱を整理してチャンスをつかんだように、業界のマイナスイメージすらビジネスチャンスへと転換する柔軟さは圧巻だ。株式上場や急成長を追わず、あくまでエンジニアを第一に考える経営からは、独自の哲学が伝わってくる。競争原理に縛られない経営姿勢は、現代の企業経営に一石を投じているように感じた。

神崎弘樹/1984年、埼玉県川越市生まれ。音楽の専門学校のギター科を卒業後、ゼネラル・エレクトリック社(GE)にて営業に従事。リーダー育成機関の最高峰Crotonville Project Managementを修了。国内外で「Commercial Transformation」「Japan Leadership Award」など表彰を受ける。傍ら、50名程のミュージカル団体を主宰し、運営や脚本、作詞作曲、アレンジ、演奏、アイリッシュタップダンス等を手掛け、1,000人規模のステージを創り上げる。その後2014年に独立し、株式会社KAMINGを創業。