
1973年に設立された株式会社AHS。朝日新聞社の販売部門をサポートする「支援子会社」として誕生し、現在は全国各地の新聞社に目を向けた「総合メディア商社」として幅広い事業を展開、健康優良企業として「金の認定」を受けている。今回は代表取締役社長の坂本眞氏に、就任後の取り組みや企業の強み、今後の展望についてうかがった。
新聞配達の少年が朝日新聞社に入り、事業効率化の立役者に
ーーご経歴をお話しいただけますか。
坂本眞:
山梨県で果樹園を営む家に生まれ、小学3年生から商業高校を卒業するまで、新聞配達の仕事をしていました。そのご縁で朝日新聞社の方と出会い、「12年ぶりに高卒者を1名採用する」とのことで試験を受け、採用されたことが入社のきっかけです。
販売管理部門に配属されて2年が経った頃、一人の先輩が「働きながら大学に行ってはどうか」と大学進学を勧めてくれました。私は「学問には関心がない」と答えましたが、その先輩は「大学は勉強のためではなく、友達をつくるために行くんだ」と言うのです。私が18歳で社会に出たため、「一生の友達」がいないことを案じてくれたようで、あのとき背中を押してくれた先輩にはとても感謝しています。
先輩の助言を受けた私は受験し、明治学院大学に合格。入学後は朝早くから働き、仕事が終わってから大学へ通う生活を送りました。卒業までの4年間には、正直言って苦しいときもありました。それでも乗り切れたのは、新聞配達を10年続け、早朝からの仕事がルーティン化されていたことが理由だと思います。
ーー特に印象深い経験もうかがえますか?
坂本眞:
販売受注センターの設立が印象深いですね。苦労した一方、業務効率化が大きく進み、非常に良い経験になりました。新聞社には新聞販売店から「明日の販売部数」についての連絡が毎日入るのですが、2012年まで電話でやりとりしていたのです。
この状況を改善すべく「受注のデジタル化」を提言したところ、高校生のときにコンピュータにふれた経験があったことが買われてセンター長を任され、1年4ヶ月で立ち上げを実現しました。
新聞業界の未来を守る「販売所」のサポート事業

ーー2018年に貴社に入社されました。入社してからの取り組みをお聞かせください。
坂本眞:
「AHS」は、朝日新聞(ASA)の販売部門を支援するために作られた子会社です。私の着任後は、企業ドメインを「ASAのために」から「すべての販売所のため」に一新しました。
新聞業界は全体的に発行部数が減少しているにもかかわらず、各系統で価値観が凝り固まっている印象です。私は、守りに入った部分や古い慣習を打破するべきだと考えています。業界が一丸となって、もっと世間の動向を注視できれば販売状況を改善できるはずなのです。
この理念を実現するため、「業界一社」というスローガンも作りました。「AHSという1社さえあれば新聞業界が盛り上がる」と言えるほどの働きをする、という意志表明です。
ーー現在の事業内容をご解説いただけますか。
坂本眞:
会社やジャンルを問わず、「新聞」を起点としたさまざまな事業を展開しています。新聞販売店へのルート営業やイベント運営をはじめ、販促物や店舗用品の販売、購読料等の回収代行、通信販売など、複数の部署で幅広いサービスを提供しております。
通信販売事業では、エンディショップ、休刊日チラシ、特配便の3つの紙媒体を合わせて、毎月約300万部発行しております。全国の地方紙に至るまで、今後もさらにサービスを広げていきたいです。
「社員第一」を信念に、すべての取引先を幸せにする会社へ
ーー理念をつくるうえで、影響を受けたことがあれば教えてください。
坂本眞:
日本の軍事史と組織論を組み合わせた書籍「失敗の本質」に出会い、大きな影響を受けました。特に、著者の一人である寺本義也先生のゼミで学んだことは貴重な経験となりました。現在は「日本経営品質学会」に所属し、経営について学びを深めています。
また、「同じことを続けるだけの業界は進歩しない」という考えは、新聞業界の系統を超え、「取引先のすべてに幸せになってもらいたい」という理念づくりにつながっています。
ーー仕事をするうえでこれまでに心がけてきたことや大切にしてきたことは何でしょうか。
坂本眞:
与えられたポジションと正面から向き合い、常に全力を発揮することを心がけてきました。また、「腹をくくって仕事をすること」も大切にしています。たとえば、社内の各部署を横割りで結ぶために新設した「未来デザイン室」は、発案者として責任を持つために、私が室長を担っています。
ーー現在注力している取り組みについてお聞かせください。
坂本眞:
男女平等を掲げる「健康優良企業」として、従業員のヘルスケアと仕事の両立を支援しています。メンター制度の導入、管理部門の強化、従業員規則や賃金の見直しには特に注力してきたほか、社員の意見を参考に、特別休暇や30分単位の時短勤務も取り入れました。また、この4月からは奨学金返還支援制度を開始します。
私は、社内を1つにまとめる「バックヤードの仕事」が会社において最も重要だと考えます。「オフィスに届いた胡蝶蘭への水やり」など、裏方仕事をしてくれた人を取り上げ、表彰状と副賞を進呈する「グッドジョブ賞」という取り組みは社内でも好評です。
ーー会社の展望や経営者としての目標を教えてください。
坂本眞:
誰かに我慢を強いる仕事はせず、取引を通して、お互いに楽しく利益を生み出せる会社を目指していきます。「業界一社」という目標に向かって成長を続けることで、新聞業界への貢献につながるだけでなく、社員の待遇やスキルアップできる環境も同時に向上していくことでしょう。
本社からの出向役員が多い会社だからこそ、「プロパー社員が生き残るための方法」を常に考えることが私の務めだと思っています。
編集後記
長い歴史を持つ会社でありながら、ベンチャーのような気風を感じさせる「AHS」。ボトムアップによって生まれる新しい価値観を、役員クラスにも納得させた上で形にしていくスピード感が驚異的だ。「働きやすい職場をみんなで作る」という社風と、「自分の働きを見てくれる人」がいる安心感が、社員たちのアイデアと結束力を引き出しているのだろう。

坂本眞/1960年生まれ。明治学院大学を卒業。1978年に株式会社朝日新聞社へ入社。北海道支社販売課長、東京本社販売局長補佐を経て、2012年に同社販売受注センター長に就任。2015年にデジタル営業センター長、2016年に名古屋本社の販売担当局長を歴任。2018年、朝日新聞販売サービス株式会社(現:株式会社AHS)の代表取締役社長に就任。