
国内外に700店舗以上のメガネ販売店を持つ株式会社パリミキホールディングス。メガネの低価格競争が激化する中でも、同社は安易な値下げはせず、商品の価値そのもので勝負する姿勢を貫いている。
代表取締役会長の多根幹雄氏は、1987年に28歳という若さで会社を任され、それ以来、国内外でメガネ以外の事業も手がけてきた経験豊富なリーダーだ。世界広しと活躍する多根会長が大切にしている価値観とはどのようなものか。多根会長の観点を深掘りしながら、同社の運営やこれからについてうかがった。
模索を続けて見つけた、自分なりの経営方針とは
ーーパリミキの歴史と多根会長の経歴をお聞かせください。
多根幹雄:
パリミキは私の祖父が1930年に創業した会社です。今でこそ全国に展開していますが、私が幼い頃は一店舗しかなく、店舗と住居を兼ねている状態でした。お店はとても繁盛しており、いつも私が学校から帰ってくると、視力測定室の前に行列ができていたのを覚えています。
前社長だった父のお客様や社員を大切にし、未来の理想に燃え生き生きと働く姿は、幼心ながらにかっこいいと思ったものです。思えば当時から、父や従業員の姿を通してパリミキの価値観に触れていたのでしょう。いつしか私は、パリミキという会社が好きになり、まよわず新卒で入社しました。まず店舗での販売や接客からスタートし、新規事業の立ち上げや経営企画へと携わる範囲を広げていき、専務を経て、28歳のときに3代目社長に就任しました。
その後33歳のとき、低価格の新業態のメガネチェーン店を、そして、9年間のスイス赴任を経て54歳のとき投資運用事業を手掛けたりと、さまざまな面白い経験をさせてもらいました。
ーー28歳で社長に就任して、特に大変だったことは何ですか?
多根幹雄:
当時、すでに全国300店舗まで成長した会社をいきなり任されたので本当に不安なスタートでした。
しかも、当時は業績が低迷しており、会社の運営という重責は否応なしにのしかかってきました。そんな状況下で目先の業績も気になりましたが、本当の意味で今の会社に何が必要かを考えました。弊社の経営理念は「第一にお客様とその未来のために」、「第二に社員とその未来のために」、「第三に企業とその未来のために」というまずお客様、そして社員を大切にしようという素晴らしいものです。
しかし、お客様や社員目線で見ると、その通りに実現できていない部分も多々見受けられました。そして始めに取り組んだのが、経営理念と評価をよりダイレクトに結び付ける取り組みでした。
私はこのギャップを解消するために、アンケートでのお客様満足度を地道に拾い上げていき、その結果を各店舗の評価に反映していくことにしました。残念ながら、当時は思い描いたような成果を上げられなかったのですが、40年を経て、現在子会社のパリミキでNPSの改善を第一優先で取り組んでくれ、新しいデジタル技術を駆使し、お客様の声を即座に反映できるようになりました。
お陰様で、NPSランキング2025では業界で圧倒的なナンバーワンに選ばれました。これからも「企業も本気でお客様を考えているな」と感じていただけるくらいにしていきたいですね。隅々まで経営理念を浸透させ、具現化することで、お客様からみても社員からみても本物にしていきたいと思います。
「トキメキ」と「あんしん」でお一人おひとりをより豊かに

ーー貴社独自の強みはどのようなところにありますか?
多根幹雄:
弊社の強みは、お客様にお一人おひとりに合わせるこだわりです。たとえば、パソコンもデジカメも普及していなかった90年代初頭に、お客様のお一人おひとりのお顔に合わせるため、AIを使ったメガネのデザインシステムを開発したことがありました。最近では「エンターテインメント性のある店舗づくり」が挙げられます。これは、お客様がメガネ店にわざわざ足を運びたくなるきっかけをつくるための施策です。ロッジタイプのお店では木の香りが漂う中にカフェがあったり、パリの最盛期をイメージしたベルエポックタイプのお店や、アメリカン・フィフティーズをテーマにした店舗など、お一人おひとりというわけではないですが、それぞれの地域のお客様に合わせたお店づくりを推進中です。
また、お一人おひとりの目の状態やお客様の生活のシーンに合わせた視力の提案を行っており、お客様の不安を取り除く要素の一つとして的確な眼科へのご紹介もできるなど、社員のレベルアップに取り組んでいます。一昨年はじまった「眼鏡作製技能士」という国家検定資格者の数も1100名を超えています。これは、日本の業界でも圧倒的ナンバーワンです。
海外では、ベトナム、カンボジア、フィリピンなど、眼科とメガネ店を連携させた展開にも力を入れており、社員の研修の場としても活用しています。
ーー貴社で大事にされている価値観を教えてください。
多根幹雄:
それは、お一人おひとりが違うという価値観です。それぞれの人が生まれて来たのが奇跡であり、それぞれの存在に意味があると思っています。ここから弊社の「お一人おひとりに合わせる」というこだわりも生まれました。
もともとメガネという商材は、「お一人おひとりにお合わせ」しないとまったく価値のないものです。生活やお仕事環境、左右の視力、お顔やお好みなどなど、さまざまにお合わせする必要があります。それに合わせるのはとても難しいですが、とてもやりがいのある仕事です。
社員に対しても、まずは必要とされる知識や技術の習得は当然として、さらに社員一人ひとりの個性や経験を尊重し、業務で活かせる強みへ変換することも大切にしています。個人の経験を「専門性」へと昇華できる環境を整えることで、いずれは社内に「この分野ならこの人が第一人者」と呼ばれる存在を増やしていきたいと思っています。一方、それぞれの欠点は、それを長所とする人間に任せればいいのです。このように、個人でバランスをとるのではなく、組織全体で大きくバランスをとれればと思っています。
モノの満足の時代からこころの満足の時代へ
ーー今後、貴社をどのような方針で成長させていきたいですか?
多根幹雄:
今日、モノに関する満足は随分と満たされて来ました。一方で、こころの満足はまだまだこれからです。時代はモノの満足から、こころの満足を求める時代になってきています。
こころはそれぞれのお客様で違います。さらに同じお客様でも、その時の場所や時間によってもこころは変化していきます。つまり「お一人おひとりに合わせる」のがとても難しく、大切になるのです。そういう意味で、私たちが貢献できるエリアはどんどん広がっていくでしょう。
ただ、こころの問題を、その方に合わせて解決するためには、一人の人間の力では充分ではありません。将来のビジョンとしては、一人ひとりの長所を最大限に伸ばし、それを社外の専門家ともネットワークを通じて連携することで、どこのお店のお客様でも世界最高の問題解決を提供できる体制を整えたいと考えています。ネットやAI技術をはじめとするイノベーションのすさまじい進化はそれを可能にしてくれるでしょう。
ーーこの記事の読者に、一言メッセージをお願いします。
多根幹雄:
弊社には個人の挑戦を後押しする社風があり、またメガネ販売はもちろん、海外事業、メディカル関連事業、眼鏡製造や店舗設計、眼鏡修理事業、投資運用事業等々、実にさまざまな職場があります。その社風や環境を活かして大いに成長してほしいのです。
私が大事に思っていることに「未来が変われば、過去が変わる」というのがあります。確かに過去の事実は変えられませんが、過去の経験を未来に活かすことで、過去の意味をより有意義にすることが可能です。人生に無駄は無く、それだけに若い人にはいろいろな経験をしてほしいですね。さまざまな経験をするほど、より未来の可能性は広がります。この記事をご覧の皆さんも、私たちとより豊かな未来を創造しませんか。
編集後記
新たな出店形態の実施や社員の個性の尊重といった試みは、「お客様と社員のため」という理念と多根会長の先見性の掛け合わせから生まれてきた。真の商品の満足が問われるようになった今、この価値観が醸成されているというのは、同社の大きなアドバンテージだといえる。同社であれば、変わりゆく社会の中でも変わらない価値を提供し続けられるはずだ。

多根幹雄/1984年に三城(現・パリミキホールディングス)に入社。2017年に株式会社パリミキホールディングス代表取締役会長に就任。公益財団法人奥出雲多根自然博物館の理事長も務める。著書に「スイス人が教えてくれた『がらくた』ではなく『ヴィンテージ』になれる生き方」(主婦の友社)、「ジャパン・イズ・バック」(主婦の友社)などがある。