※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

1973年の創業から、飲料用のびんの製造工場として歩んできた富士ボトリング株式会社。同社が手がける「繰り返し使えるびん」を使用したミネラルウォーターは、九州・関西エリアを中心に多くのホテルや飲食店で導入されている。環境に配慮したリユース事業で実績を残してきた同社だが、どのような製品を展開しているのだろうか。代表取締役の山崎和彦氏に詳しい話を聞いた。

国際規格FSSC22000のいち早い取得や、徹底した品質管理で評価を高める

ーー今までの経歴を教えてください。

山崎和彦:
富士ボトリング株式会社は父が経営していた会社で、会社を継ぐことは大学生の頃から考えていました。学生時代にはすでに仕事を手伝っていましたが、大学卒業後はまず他社で修業するように言われ、食品流通業者の株式会社煙草屋安兵衛へ就職。僕が父に「厳しい環境で働きたい」と伝えたところ、同社を紹介されました。

朝が早く、配達や営業などもあり、大変な仕事でしたが、生産現場は非常に居心地が良く、ここで学んだことは今も役立っています。同社で10年ほど修行し、32歳で弊社に戻ってから、2010年に代表に就任しました。

ーー代表就任後は、どのような取り組みをしましたか。

山崎和彦:
取り組みのひとつは、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格「FSSC22000」を取得したことです。大手企業が多い飲食業界の中でも、弊社がいち早く取得したため、業界内では大ニュースとなりました。

僕が「FSSCを取得しよう」と言い出したとき、新しい試みに抵抗感を覚える生産現場の社員たちは戸惑っていましたが、これにより業績を一気に上げることができましたし、取得して結果的に良かったと感じています。

2018年に最高収益を上げた後、SUBARUの航空宇宙カンパニーから依頼を受けて、工場で働く人々1,500人ほどに対して、Web配信で品質管理の講義を行いました。SUBARUが弊社の徹底した品質管理への取り組みを評価してくれた証だと感じています。

環境に優しいだけでなく、働く人の精神的負担を減らす「リユースびん」を製造

ーー貴社の製品やサービスについて教えてください。

山崎和彦:
弊社の製品は大きく2つに分かれており、1つがOEM(他社ブランドの製品の製造)の「リユースびん」です。同製品はペットボトルや缶などの使い捨て容器と異なり、飲み干してから洗った後、また飲料を入れて使うことが可能です。ゴミにならないため、環境に優しいという特徴があります。

そしてもう1つが、自社ブランド製品「足柄聖河(あしがらせいが)」です。同製品は、会社がある地元足柄の名水(ミネラルウォーター)をリユースびんに入れたものです。主に、ホテルのサービスドリンクなどで提供されており、使用後は弊社の請負会社が回収しにいくので「リターナブルびん」と呼んでいます。

実際にヒルトンホテルでも、この「足柄聖河」は導入されています。ホテルでは毎日大量のごみが発生し、その中にはサービスドリンクとして提供されたペットボトルも含まれます。環境配慮の観点から、大量のペットボトルを廃棄することに抵抗感を覚えるホテルスタッフも少なくありません。

「足柄聖河」を導入することで、ペットボトルのごみが減っただけではなく、ごみを捨てるスタッフの方々の精神的負担も軽減しています。ヒルトンホテルの統括の方は「足柄聖河を入れて、精神的にも良い影響があった」と言ってくださっています。

「足柄の名水、ここにあり」製品を通して地域への恩返しを

ーーこれから注力したいテーマをお聞かせください。

山崎和彦:
1つは、自社製品の足柄聖河をさらに広げていくこと。そしてもう1つが、物流網の充実によるサービスの向上にも力を入れていくことです。たとえば多くの物流業者は、ホテルに飲料を届ける際、地下のストックヤードに飲料をまとめて置いてくるだけというのが一般的です。一方で弊社の場合は、地下ではなく、それぞれのフロアのストックヤードにまで持っていくようにしています。

これは、弊社が自分たちで請負会社を立ち上げ、独自の物流網を構築したからこそできることです。ごみが発生しなくなるだけでなく、ホテル従業員が飲料を運ぶ距離が短くなるため、ホテル側からは非常に喜ばれています。このような物流面でのサービス向上に力を入れ、ホテルの方々の負担を減らしていきたいと考えています。

ーー最後に、今後の展望をお願いします。

山崎和彦:
弊社はびんを製造しているだけの会社ではなく、環境に優しい事業を展開している会社です。そのことについて、社員には誇りを持ってもらいたいですね。たとえば社員が家族旅行でホテルに泊まった際、ホテルのリユースびんを見て「これはお父さんの会社がつくった製品だよ」と言えるようになるために、会社としてより多くのホテルに製品を導入していきたいと考えています。

現在は高価格帯のホテルでの提供が中心のため、今後はより幅広い価格帯のホテルにも導入していきたいです。また、「足柄聖河」は大阪での展開が進んでいますが、大阪だけでなく、日本全体に普及できる優れた製品であると自負しています。今後は、製品の展開を進めるとともに、名水の産地としての「足柄」という地名を全国に広め、地域へ恩返しをしていきたいと思います。

編集後記

リユース製品を扱う企業が少ない日本において、同社はこの分野で道を切り開いてきたパイオニア企業だと言える。環境保護の政策により、すべての企業にはリサイクル(Recycle)、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)への取り組みが求められているが、その中でも、製品の回収と再利用の仕組みを構築しなければいけないリユースはハードルが高い分野だ。

それだけに、新たなビジネスチャンスを牽引する可能性にも満ちている。地域にしっかり根づきながら、世界的潮流である環境対策にも貢献する富士ボトリング株式会社の活動は、多くの企業の指針になるだろう。

山崎和彦/1963年神奈川県生まれ、日本大学農獣医学部卒業。1985年、株式会社煙草屋安兵衛に入社。10年の修業期間を経て1995年、富士ボトリング株式会社に入社、2010年に社長に就任。