※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

1973年に食肉加工メーカーとして創業し、ハンバーグを中心とした肉加工食品のOEMや飲食店向け販売、個人向けのEC販売を手がける株式会社明和食品。化学調味料や保存料を使わない食品づくりにこだわり、2000年に立ち上げた無添加冷凍食品のオンラインショップ「大阪の味ゆうぜん」は、楽天市場の「グルメ大賞」や「お取り寄せグルメBEST5」にも選ばれている。

創業者である父から会社を受け継ぎ、2008年に代表取締役に就任した辻尾正比呂氏に入社当時の苦労や経営において大切にしている考え方についてうかがった。

入社早々に直面した狂牛病による業績不振が課題発見のきっかけに

ーー入社当時のエピソードを教えてください。

辻尾正比呂:
大学卒業と同時に父に会社を手伝うように言われて明和食品に入社しましたが、入社の翌年にBSE(狂牛病)が発生したのです。牛肉製品のキャンセルが相次ぎ、会社の経営が傾く危機に陥りました。決まった顧客との取引が中心で特に営業担当を定めていなかったため、私を含めて製造に携わっていた社員4人が電話や飛び込みで新たな販路を開拓するべく営業を行い、なんとか売上を回復させることができました。

当時は大変な思いをしましたが、この経験によって、決まった取引先のみに依存することや、牛肉だけに頼った製品づくりが危険であることに気付けたのです。また、これを契機に販売体制の強化を図り、ネット販売を始めたことで状況が好転していきました。

ーー社長に就任してからどのような心境の変化がありましたか?

辻尾正比呂:
2008年に社長に就任した当時は従業員が10人程度だったので一時的に人員が欠けても私が動けばなんとかなっていました。しかし、従業員が徐々に増えたことで、何かあったときに私一人の力では補えなくなり、組織づくりにあたって人を大切にしなければいけないと痛感しました。

社長に就任した当初、工場長についていけないという理由で5人のパート全員から辞めたいと相談を受けました。結果的にパートの方には残ってもらって工場長が辞職するということがあり、この経験も働きやすい職場づくりをしようと感じる大きなきっかけとなりました。

社長に就任してからは会社と従業員を守らなければいけないというプレッシャーから萎縮することもありましたが、だんだんと一人で抱え込まずに、一緒に働く仲間と共有しながら進んでいこうと思えるようになりましたね。

部署の垣根を越えたコミュニケーションで一体感のある組織をつくり上げる

ーー貴社の強みを教えてください。

辻尾正比呂:
無添加にこだわっていることはもちろん、抽象的なアイデアや前例のないレシピをカタチにするフットワークの軽さも弊社の強みです。たとえば、イタリアン風でトマトベースの牛丼を開発したこともあり、常に提案中や企画中の商品が2、3個ある状況です。また、弊社の主力商品であるハンバーグのレシピは多岐にわたり、具材を入れたものや食感を変えたもの、高タンパク低カロリーのものなど、さまざまなラインアップを展開しています。

その他にも、従業員同士の仲が良いところも弊社の魅力です。以前は製造や営業、事務などの部門間で壁があり、規模の小さい会社であるにもかかわらず他の部署がどんな仕事をしているのか把握していない状況に違和感を感じていました。現在は、定期的に部署をまたいだチームをつくって企画を回してもらうなど、会社全体でコミュニケーションをとれる環境を整えています。

さらに、弊社は6年連続で健康経営優良法人に認定されており、健康的で働きやすい企業であることを心がけています。

ーー部署をまたいだ企画とはどのようなものでしょうか?

辻尾正比呂:
たとえば、毎年10月は「ありがとう月間」として、それぞれの部署からピックアップした3人で企画・立案を取り仕切ってもらっています。「ありがとう月間」では、取引先やお客様はもちろん、従業員や会社に出入りする業者の方など、普段支えていただいているみなさんに感謝の気持ちを伝え、ささやかながらお土産をお渡ししています。

他にも、オリンピックになぞらえた企画でゲームや運動をするなど、部署の垣根を越えたイベントの企画は15年ほど続けています。さらに、月に1回行っている地域清掃では、ゴミ拾いをしながら従業員同士でコミュニケーションをとるように伝えています。

プラスエネルギーに溢れる製造現場で心を込めて食品をつくる

ーー食品メーカーとして大切にしていることを教えてください。

辻尾正比呂:
食べるものは、つくり手がどんな気持ちでつくるのかが大切です。弊社では従業員に、日常的に感謝する習慣をつけてもらうために「今日のありがとう」と称して、毎日その日に「ありがとう」と感じたことを振り返る取り組みをしています。

食べる人のことを思って感謝の気持ちを込めて商品をつくることができる会社でありたいですね。さらに、製造現場では常にモーツァルトの音楽を流すことで、従業員が穏やかな気持ちで仕事ができるように工夫しています。

ーー今後の展望をお聞かせください。

辻尾正比呂:
3年後には売上10億円を達成することを目標としているため、EC事業と飲食店向け事業の2本柱をさらに成長させていきたいと思います。また、現在、組織体制の強化のために、役職を増やして責任者を育てているところです。役職を与えることで社員のモチベーションの向上にもつながると考えています。

さらにその先では、長年の夢である自社の飲食店を展開することも視野に入れています。

編集後記

BSEによる業績不振も必要な経験だったと語る辻尾社長からは、困難をプラスに変えて改革を起こす推進力を感じた。組織づくりにおいて従業員を大切にしつつ、食べる人を思った食品製造を心がけるなど、人の気持ちを重視した経営を行う辻尾社長が、仲間とともに飲食店オープンという夢を叶える日が楽しみだ。

辻尾正比呂/1978年、大阪府生まれ。大阪国際大学卒業。2000年に株式会社明和食品に入社し、製造・営業を経て2008年に代表取締役に就任。健康経営・地域貢献活動に注力し、地域に根差した会社づくりを推し進めている。